心頭滅却すれば火もまた涼し……
「
いかん、つい御国言葉が出てしまった。
明朝、俺は、すぐ近くの森へと分け入った。10分ほど登ったところにある小さな滝つぼで水に打たれ、下らん煩悩を消し去るためだ。中秋とはいえ、水はもうとっくに冷たい。
まずは足から慣らし、水の落ちる箇所に慎重に近づく。褌一丁の姿で水に打たれていると、昨夜の熱は急速に落ちていく。
ああ、心地よい。この場所は夏場の少ない自由時間の間、親元を離れて間もない下級生達の格好の水遊びの場となる。
そういえば今夏、綾小路の奴もキャッキャと楽しそうに皆に混じって遊んでいたっけ。白い肌の褌姿がまた何とも眩しくって……
はッ、いかんいかん、俺というやつは、一体何を考えているのか。
何か別のこと、そうだ、今日は朝イチの訓練で、鬼教官、通称「ハゲワシ」の訓示があるんだった。ハゲワシの顔、ハゲワシの頭、ピカピカ光る、真夏の太陽、真っ白に輝く褌姿……
うおおおおおおおっ、何の連想ゲームだよこれっ!!!
不覚にも、違和感を感じてしまった股間を慌てて鎮めようとしていた時だ。
「堅倉センパーーーイ♡」
遠くから、澄んだ甲高い声が聞こえてくる。
振り返ると……
「うおっ!」
目の前に現れたのは、何と俺の煩悩の主、綾小路麒一郎ではないか。
仰け反った拍子に危うく川床で滑りかけた俺は、慌てて体制を立て直した。
明けの口、朝焼けの朱光を受けた水滴の煌めきの中、綾小路が微笑んだ。
「堅倉先輩、こんなに朝早くから水ごりとは、さすが、兵学校始まって以来の模範生、真の日本男児と言われる御方。日々の修練ご苦労様です」
「うっ…」
美しいっ、敬礼のポーズが眩しすぎるだろ、麒一郎。
思わず出そうになった本音を何とか堪え、俺はポーカーフェイスで答えた。
「うむ、少し早く起きてしまったのでな。綾小路はどうしてここへ?」
「はい、自分も早く目覚め、換気のため窓を開けました。すると、堅倉先輩が森の方へ向かうのが見えたもので……
あ、自分も
「なっ、お、おいっ」
瞳を輝かせながら、身に着けた制服をポンポンと脱ぎ捨てゆく麒一郎に、俺は焦った。
や、やめないか。そんなことをしたら、収まるものも収まらなくなって……
「センパーイ♡」
ざぶん。
慣らしもせず、いきなり飛び込んできた麒一郎は、予想どおりにバランスを崩してしまった。
「おっとっと……わ、わわわっ」
両手を拡げてバランスを取ろうとするも、真っ白で華奢な身体は、やじろべえのように左右に大きく揺れている。
バカめ!川底は
俺は、滝つぼをざぶざぶとかき分けながら、麒一郎のもとへと急いだ。