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第6話

 出来た。


 もう一度始めから読み返し、誤字脱字や、言い回しを確かめる。

 勢いのままに、溢れる想いを書き綴ってみたのだが、自分にしては、なかなかに“浪漫ロマンチック” な良い出来栄えなのではないだろうか。

 文科ではいつも遅れをとっている、南条ルームメイトに見せてやりたい気分だ。


 これを見れば、綾小路の奴、感動のあまりキ、接吻キスを……


 いかん、バカバカッ!

 何と破廉恥なことを考えているんだ自分はっ。


 きっとさっきの、甘すぎる西洋菓子ボンボンの洋酒が、頭に回っているに違いない。

 何なら水ごりでもしたい気分だが。

 自分は、煩悩を払うべく、ブンブンと頭を振るった。

 それからさっきの用紙を綺麗に四つに折り畳むと、封筒にきっちり納めた。


 さあて、明日に備えて今夜はもう眠るとしよう。


 しかし、南条のヤツ、まだ帰ってこないのか。

遅いな、一体、何処でナニをしておるのやら。

フアッ。


………………

………………


ぐーーー…




◇◇◇

 翌朝、起床ラッパの鳴る前に、俺は目を覚ました。

 昨夜は空だったナンバー2のハンモックには、いつの間にか南条が戻って眠っている。


 どんな夢を見ているのやら、時折、幸せそうに“クフッ”などと微笑んでいる。


 少し、頭が痛い。そういえば昨夜、普段滅多に口にしない西洋菓子を食ったことを思い出す。

 あれは一体、何の為だったか。

 そうだ、手紙!

 確か自分は、綾小路麒一郎に渡すための、恋文らぶれたあを書いていたのだ。


 机の上の白い封筒をサッと取ると、誰もいないのに、妙に慌てて自分の懐に隠すように持つ。


 いかん、全く覚えておらん。

 俺は、一体何と書いていたのだろう。

 嫌な予感しかしない。


 俺は、そっと封筒を開けて、やけに綺麗に折り畳んであるそれを、恐る恐る開いて見た。


 そして。


「な、な……

何だこれはーーー!!!


 そこには、本当に自分が書いたものだとは信じ難い、破廉恥な言葉がつらつらと書き連ねてあった。


 な、な、何が「アイラブユー」だ?!

 何が「花と戯れる君が美しい」だ?!

 何が「死んでもいい”と思っている」だ?!



 グシャ。

 グシャグシャグシャッ。


 あー、止めだ止めッ。

 一体、何を浮かれていたんだ自分はっ。


 夜、熱に浮かされて書いた傑作は、朝、頭を冷やして読み返すと、こっ恥ずかしい駄作だった。


 俺は、その便箋をボール状に丸めると、両手で完膚なきまでに押し固め、完璧なコントロールでゴミ箱に放り込んだ。


 いかん。心を静かにするために、少し水でも浴びてくるとしよう。

 俺はまだ薄暗い中、桶に着替えを入れて部屋を出た。


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