出来た。
もう一度始めから読み返し、誤字脱字や、言い回しを確かめる。
勢いのままに、溢れる想いを書き綴ってみたのだが、自分にしては、なかなかに“
文科ではいつも遅れをとっている、
これを見れば、綾小路の奴、感動のあまりキ、
いかん、バカバカッ!
何と破廉恥なことを考えているんだ自分はっ。
きっとさっきの、甘すぎる
何なら水ごりでもしたい気分だが。
自分は、煩悩を払うべく、ブンブンと頭を振るった。
それからさっきの用紙を綺麗に四つに折り畳むと、封筒にきっちり納めた。
さあて、明日に備えて今夜はもう眠るとしよう。
しかし、南条のヤツ、まだ帰ってこないのか。
遅いな、一体、何処でナニをしておるのやら。
フアッ。
………………
………………
ぐーーー…
◇◇◇
翌朝、起床ラッパの鳴る前に、俺は目を覚ました。
昨夜は空だったナンバー2のハンモックには、いつの間にか南条が戻って眠っている。
どんな夢を見ているのやら、時折、幸せそうに“クフッ”などと微笑んでいる。
少し、頭が痛い。そういえば昨夜、普段滅多に口にしない西洋菓子を食ったことを思い出す。
あれは一体、何の為だったか。
そうだ、手紙!
確か自分は、綾小路麒一郎に渡すための、
机の上の白い封筒をサッと取ると、誰もいないのに、妙に慌てて自分の懐に隠すように持つ。
いかん、全く覚えておらん。
俺は、一体何と書いていたのだろう。
嫌な予感しかしない。
俺は、そっと封筒を開けて、やけに綺麗に折り畳んであるそれを、恐る恐る開いて見た。
そして。
「な、な……
何だこれはーーー!!!
そこには、本当に自分が書いたものだとは信じ難い、破廉恥な言葉がつらつらと書き連ねてあった。
な、な、何が「アイラブユー」だ?!
何が「花と戯れる君が美しい」だ?!
何が「死んでもいい”と思っている」だ?!
グシャ。
グシャグシャグシャッ。
あー、止めだ止めッ。
一体、何を浮かれていたんだ自分はっ。
夜、熱に浮かされて書いた傑作は、朝、頭を冷やして読み返すと、こっ恥ずかしい駄作だった。
俺は、その便箋をボール状に丸めると、両手で完膚なきまでに押し固め、完璧なコントロールでゴミ箱に放り込んだ。
いかん。心を静かにするために、少し水でも浴びてくるとしよう。
俺はまだ薄暗い中、桶に着替えを入れて部屋を出た。