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第7話 問題発生

第1回企画部会終了後

 俺は、一度相良先輩と願成寺先輩と別れた後で川村先輩を呼んだ。 場所はプレハブ。 プレハブとは、学校の敷地の中で端にあり、教室が4つほどある小さな建物だ。 学校内では一番古い建物。 放課後は授業も部活での使われないため、誰もいない。


「話って何かな」

「実は、手紙の件です」


 俺は、小さく一呼吸置いた。


「実は、肥後先輩にSSクラスについて聞いた時、物凄い勢いでキレられました。あと、この学校の教師はクズだって言ってました」


 肥後先輩は正直怖い。 でも、これは手紙の問題の根本に関わるかもしれないので伝えないわけにはいかない。


「そうか……」


 川村先輩は少し考えこむように下を向く。


「どうしますか」

「そうだね……。少なくとも今まで一番大きな手掛かりだと思う」

「はい。でも、あの様子を見る限り肥後先輩が素直に話をしてくれるとは思えません」


 俺は、少し俯いたままで答えた。


「何か交換条件で聞き出せたらいいんだけど、何かいい案はあるかな」


 沈黙した。

 いや、真っ先に思いついたものはある。 でも、さすがに賄賂の話は出せない。 もし、ばれたらこの実行委員会全体を追い出されかねないからだ。


「少し探してみます」


 俺は、こう答えるしかなかった。


「分かった。私も探してみるね」


 その言葉に対して、よろしくお願いしますと答えた。



次週の金曜日

 俺たちは、もう一度視聴覚室に集まっていた。 今日は運命の企画発表会。 俺たち4役も見学としてきている。 そして、壇上には肥後先輩。


「それでは、各クラスの企画の発表をしていく。なお、希望に沿わなかったクラスは次回の集まりで新しい案を持ってくるように」


 各クラスの学級委員の人達は、小さく頷いた。


「まず、1年生からだ。S1組はお化け屋敷」


 そう言うと、各クラスの発表が始まった。 そして、2年生の発表まで終わった。


「では、以上です」


 でも、このままでは終わらない。

 問題が起きた。


「どういうことだ‼」


 前の方か聞こえる声。

 裏の顔の時の肥後先輩と似ているほどドスの聞いた声。

 何があったのか。

 全員の視線がその人に集まった。


「お静かに」


 でも、肥後先輩の方は冷静だった。 傍から見れば、一方的に企画会議に文句を言っている人と言われている人の構図。


「お前、裏切りやがったな‼」

「なんのことですか」

「俺がっっ……」


 そう言うと、全てを言うことができず、そのまま椅子を勢いよくしまうと出て行った。 よく見ると、あと2人ほど似たような表情をしている。 ただ、企画会議に漏れた人とは違う表情。 どちらかと言えば、企画部より企画部長単体を恨んでいるような表情。


「何かあったのか肥後?」


 願成寺先輩は壇上にいる肥後先輩に近づいた。


「さあ、きっと自分達のクラスが選ばれなくて拗ねているんだろ」

「本当にそれだけか」

「当たり前だ」

「でも、それだけの顔には見えなかったがな」

「勝手に俺を悪者にしないでくれ。向こうの逆切れには一々付き合っていられない」

「そうか……」


 願成寺先輩の決定的な何かを見たわけではない。


「こういう非難を浴びることも上に立つ者の役目だよな」


 肥後先輩は両手を少し上げて困ったとアピールすると、自分の資料を持って視聴覚室を出て行った。 願成寺先輩はその姿をじっと見ていた。

 俺は、誰とも目を合わせることができなかった。



次週の水曜日

 俺は、独自で聞き込みを続けていた。 正直、あまり返事は良くないが初対面の人にも聞いてみたりした。

 けれども、有力情報はゼロ。 まあ、そんなものだよな。 でも、そろそろあの手紙の差出人に何か報告しないとまずいよなぁ。 正直、一部俺の想像を含めてそれっぽく書くしかないな。 執筆人を俺にすれば怒られるのも俺だけだろうし。 怒られるだけで済むかは置いといて……。 俺は、ゆっくりと1階まで階段を下りて下駄箱まで来た。 部活動がまだ行われている途中ということもあって、意外と外履きは残っていた。 俺は、いつも通り自分の下駄箱へと向かう。


「あった」


 俺は、小さく独り言をつぶやくと、そのまま下履きを直して外履きを履こうとした。 けれども、動きが止まる。 そこには誰かの外履きが無造作に転がっていたからだ。


「誰だよ」


 俺は戻そうと名前を見る。 知らない人ならどうしようもない。 せいぜい、下駄箱の上において帰る人の邪魔にならないようにするくらいだ。 しかし、名前には見覚えがあった。


 肥後


「まじかぁ」


 肥後先輩か……。

 思わず声が出た。 クラスも書いてあるから同じ苗字の別人という線も無いだろう。 一瞬だけ戻してあげようという気持ちに躊躇する。 でも、見つけてしまったからにはそのまま行くのは後味が悪い。 俺は、散らばった2つの靴を拾った。 全く、自分の靴はきちんと直して欲しい。俺は、反対側に回って先輩の下駄箱に直した。 そして、俺はそのまま学校を出ようと考えた。


 全く、肥後先輩には感謝をして欲しい。賄賂の件について黙るだけではなく靴まで直したのだから。でも、ふと不思議に思う。何で、2年生の肥後先輩の靴が俺たち1年生のところまで転がっているんだ?まあ、考えても仕方がない。 肥後先輩が間違えたという可能性もゼロじゃない。 それに何かの拍子に転がったのかもしれない。 俺が最優先で取り組むべきは手紙の謎についてだ。

 俺は、余計な考えを振り切って帰りの一歩を踏み出した。

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