2023年2月21日 火曜日
昼
「よっし。みんな帰ろう!」
「そうだね」
俺たちは、まだ12時なのに帰る準備をしていた。
「みんな、緊張してる?」
「私はもうすでにすごく緊張しているよ」
久しぶりに朝から来ていた平野さんが優しい声で答えた。
「俺もだな」
それに対して鉄平は適当そうに返した。
「優気と明日香ちゃんはどう?」
「俺も緊張してるよ」
「私はあんまりかな。正直、明日で受験が終わる実感もない」
奥川さんは落ち着いているようだ。
羨ましいな。
俺たちは、久しぶりに5人全員そろっていつもの道を帰ることになった。
「それじゃあ」
そう言うと、島田さんは自分のマンションの中へと入って行った。
残ったのは俺と鉄平だ。
「最近、2人で帰ることが多い気がしない?」
「不本意ながらそうだな」
「一言余計だな!」
鉄平は少し笑いながら流した。
俺は、それに対して話題を変えることにした。
「それじゃあ、どっちの家に向かうのかじゃんけんするよ!」
俺は自身満々に右腕を出した。
それに対してやれやれと言った感じで鉄平は左腕を出した。
「結果は決まっているけどやるのか?」
「その自信を今日こそはへし折ってやるよ!」
俺が今から出す手は決めてある。
俺は、自身を持ってパーを出した。
気が付くと、もうすぐ鉄平の家の前まで来ていた。
「ここ最近、俺に勝てたことが無い気がするんだが、優気はじゃんけん弱すぎないか?」
「そんなことない!」
「いや、あるだろ」
俺は少し不機嫌な感じを出しながらぷいと後ろを向いた。
鉄平は少しくらい気にかけてくれるかな?
そんな期待は甘かった。
鉄平は、それから5分くらい何も反応することは無かった。
まあ、何となく分かっていたけど。
何か、話題を変えようかな。
俺は、何か会話になりそうな内容を最近の経験から探した。
「なあ、ちょっと確認なんだが良いか?」
その前に5分ぶりに話かけてきたのは鉄平だった。
「いいよ」
鉄平から俺に質問なんて珍しいな。
「昨日、放課後の教室にいたよな?」
「えっっ、、」
俺は、予想外の質問に答えを詰まらせてしまった。
「やっぱりな」
鉄平は俺の返事を待たずして正解にたどり着いたようだ。
「いや、俺は何も見てないよ……?」
めちゃくちゃ目が泳いでいる自覚はある。
必死に弁明を考えている俺をよそに、鉄平は俺の顔すら見ていなかった。
もう、さっきの反応から見るまでもないということなのだろう。
「その、、」
「何だ?」
俺は、必死に言葉を探した。
やっぱり謝った方がいいのかな。
でも、別にあれは不可抗力だったし。
「まあ、見てしまったものは仕方がない。俺としては、誰にも言わなければそれでいいから」
鉄平に焦っている様子は無かった。
これくらいのことは別に気にしないということなのだろう。
「分かった」
俺は、素直に返事をした。
でも、1つだけ気になることがあった。
「ねえ、1つ聞いてもいい?」
「何だ?」
「卒業式前日に島田さんを呼んでどうするの?」
俺は、きょとんとした顔で聞いた。
別に、深い意味があるというわけではない。
単純な興味だけだった。
「うぉいい‼」
俺は、鉄平に両肩をがしっと掴まれた。
見たところ、中学3年間で見たことが無いくらいに焦っていた。
「えっっ、、?」
俺は、ただただ困惑した。
そんなにやばいこと聞いたか?
動揺している俺をよそに鉄平の顔は少し赤くなって俺の両肩を離そうとしなかった。
「どこから、どこまで見てたんだ‼」
鉄平は、動揺している中で必死に声を出しているようだ。
「えっと、勉強の話をしている所から、話があるから卒業式の前日に時間を作って欲しいってところまで」
「ほぼ全部かよ……」
そう言い終えると、鉄平はやっと俺の両肩を解放した。
けれど、自分の頭を抱えながらどうしようかと小さく何度もつぶやいていた。
そして、頭をごしごしした後で、もういいと大声で言った。
「卒業式の前日が終わるまで、絶対に誰にも何も言うな!」
鉄平の目は今までの中で一番慌てているようだった。
「分かった……」
俺は、鉄平のものすごい圧に押されて分かったと言うだけで精一杯だった。
でも、それと同時に卒業式の前日に何があるのか少し楽しみにもなった。
鉄平がここまでして他の人に隠したいことって何だろう……?