2023年2月11日 土曜日 第2週目
朝
「何やっているんだぁー-‼」
俺は自分のベッドの中でじたばたしていた。
ばたばたと布団を動かしてたまに咳き込みながら必死にもがいていた。
自分のベッドの中で。
理由は簡単。
昨日のことだ。
奥川さんにそれらしいことを言われたからといって、いきなり家に押し掛けるとかヤバすぎる。
しかも恥ずかしい言葉を連続で何回も言っていた。
一つ一つ思い出したくないのに勝手に脳内で再生されていく。
俺は、体力を使い果たすまで繰り返した。
そして、動く気力もなくなったところで携帯をとって音楽でもかけて落ち着くこうとする。
画面を開くと一件のメッセージが届いていると書いてあった。
誰だろう。
まさか、平野さんから……。
俺は目を少しだけ開けて恐る恐るメッセージを開いた。
<メッセージアプリ>
鉄平―たまには図書館で勉強しないか?
「うぉりゃ」
俺は、メッセージを開いたまま勉強机の方へとスマホを投げた。
ドンと携帯が机に当たる音が聞こえた。
今、お前に構っている余裕はない!
俺は音楽を聴くのをやめて再びベッドの中でじたばたやり始めた。
すると、もう一回メッセージ音が鳴る。
いや、鉄平に構っている暇はないって。
俺はそう思いながらもメッセージの中身を見た。
今度こそ平野さんか……。
<メッセージアプリ>
ASUKA―デートしよ!
「うりゃ!」
握った携帯を今度は自分のベッドの方へと思いっきり投げた。
今度はぼんと勢いが吸収される音がした。
ただ、落ちる音が変わっても俺の気持ちはさっきとさほど変わらなかった。
お前ら暇人か‼
あいつらには受験っていう概念はないのだろうか。
俺はスマホを拾って、音楽をかけることにした。
俺はとりあえずアニソンでもかけることにしようかと思い、アニソンメドレーのボタンを押そうとする。
すると、再生ボタンを押すより先に電話がかかってきた。
俺は、よけようとしたがすでに指が液晶を触る寸前だったこともあって通話ボタンを押してしまった。
「優気、今ひましてる?」
なんだか元気そうだった。
「いや、別に」
昨日の一件は奥川さんが発端だったからあの後どうなったのか少しは話しておかないといけないけど、なんだかここで暇だというと嫌な予感がする。
「どうせ、ひまでしょ」
「勉強で忙しい」
「じゃあ、一緒に勉強しよ」
「一人でいい」
「一緒に行こうよ」
俺は小さくため息をついた。
「ちなみにどこでするつもり?」
「水族館」
「デートだろ!」
「勉強デートかな?」
「一人でどうぞ」
「魚の勉強になるよ」
「興味ない!」
俺は電話をしながら自分の勉強を始めるために机の上に参考書を開いた。
よし、これで勉強の準備は完了。
後は電話を終わらせるだけ。
「それじゃあ、そろそろ勉強があるから切るよ」
「待って!もし、このまま切ったら桜に優気が桜のこと好きって言うから‼」
「ちょっと待て‼」
いや、それはまずい。
特に、昨日の今日だし。
もし、今俺が平野さんのことが好きだって分かったら昨日の話も下心があってのことだと思われる。
そしたら普通にやばいやつになる。
平野さんはきっと二度と俺と目を合わせてくれることはないだろう。
「集合時間は?」
「1時間後!」
「了解……」
俺は力を抜きながら電話を切った。
そして、必要な荷物をバッグに詰め終えたところでふと思った。
てか、どこの水族館だよ‼
俺は、奥川さんの指示で海の心水族館の前まで来ていた。
俺は一体何をやっているんだ……。
奥川さんを待ちながらこの気持ちに何度苛まれたか分からない。
てか、何で俺とデートなんだよ。
奥川さんの恋愛事情には詳しくないけど、あの性格と容姿ならデート相手を探すのにも困らないだろうに。
というより、普通に考えて俺とデートする理由に心あたりがない。
まさか、奥川さんの本命のための練習台にされているのか。
帰ろうかな。
俺は携帯をポケットから出したことろで、両肩にばっと重くて柔らかい感触が伝わる。
「やっほ!待ったー?」
奥川さんがやっと来た。
「まあ。15分くらい」
俺がそう言うと、奥川さんはやれやれといった様子をしていた。
「やり直し」
「えーー」
「うそだよ!中に入ろっか!」
奥川さんは俺の手をつかんで水族館の中へと連れて行った。
こうやってさらっと手を繋げるところは流石だな。
こういうのを異性の友達にさらっとできるのは素直に俺も見習いたい。
そして、平野さんとやってみたい。
まあ、どうせできないだろうけど‼
俺たちは水族館の中へと入っていった。
「ねえ、見て。なんだかすっごく大きな魚がいるね!」
「そうだね。あれはジンベイザメかな」
「優気は意外と魚に詳しいんだね」
「まあね……」
俺は、少し照れて軽くほほをかいた。
魚の知識なんて日頃出すことがないからこういうときに褒めてくれるのはすごく嬉しい。
俺は、ちょっと来てもよかったかなと思った。
まあ、欲を言えば平野さんに言ってほしかったけど。
流石に平野さんを2週連続でどこかに誘う勇気はない。
結局、俺たちはその後もいくつかの水槽を2人で覗いた。
時刻は14時くらいだろうか。
俺たちは、なんだかんだ楽しんで3時間くらいは魚を見ていた。
そして、今は水族館の2階にあるフードコートに来ている。
「何にする?」
俺は奥川さんに聞いた。
「優気のお任せで」
奥川さんは少し上目遣いで挑発するように言ってきた。
「じゃあ、水で」
「からのー?」
「水」
「からのーー?」
「水」
「からのー――?」
どうやら俺が水以外を言わないとこのやり取りは終わらないらしい。
俺は近くにあったメニュー表を軽く見た。
「コーラでいいか」
俺は、奥川さんの気持ちに根負けしたような態度で答えた。
「なんで飲み物なの!」
どうやら不服らしい。
「いや、水以外も欲しいって言うから」
「メニュー表まで見たんだからもっとあるでしょ!」
「その結果がコーラ」
「もう!」
奥川さんはそう言いながら少し怒りながらも笑顔を絶やすことはなかった。
「優気が選ぶのを楽しみにしとくからね!」
俺は、もうなんでもいいやと思って分かったと言った。
「それじゃあ、俺が注文してくるから先に場所とってて」
「ありがと!」
そういうと、奥川さんはテーブルの方へと向かった。
結局、流れで昼ご飯まで食べているけど俺はこんなんでいいのだろうか。
昨日、平野さんにあれだけ努力が大切だって言っておきながら自分が勉強していないってことじゃ示しがつかないような……。
俺は、こんな感じのことを思いながら店員さんに注文をした。
「お帰り、優気!」
「ただいま」
俺はそういうと、奥川さんの向かいの席に座った。
「何買ってきてくれたのー?」
「何だと思う?」
俺は、絶対に分からないだろうと思って聞いた。
一応、見た目からハンバーガーだということはわかるけど、中身までは流石に無理だろう。
「ハンバーガー」
「正解」
「やったー!」
「おめでとう」
「「……」」
奥川さんは元気に声を上げて喜んだポーズをしてから止まっていた。
「え?」
「どうした?」
「いや、今の流れはハンバーガーの中身まで当てるべきだよね!?」
「まあ、奥川さんが喜んでいたから別にいいかなって」
「いやいや、もっと聞こうよ!」
「それじゃあ、何味だと思う?」
「フィレオフィッシュ‼」
「は?」
俺は、思わず素の反応をしてしまった。
「正解でも不正解でもない『は?』ってなに??」
奥川さんはすごく混乱しているようだった。
いや、正直混乱しているのは俺の方だった。
「ちなみにどうしてフィレオフィッシュだと思った?」
「なんだか優気が食べたそうにしていたから!」
マジか。
当たってるぞ。
すごいな。
エスパーか?
それとも、これが女の感ってやつなのか!
「それで、どうなのー?開けてもいい?」
奥川さんはそう言いながら手前置いたハンバーガーを手に取った。
「どうぞ」
俺は降参した動きをして言った。
「やったー!」
奥川さんは無邪気な子供のようにハンバーガーの包みを開けた。
入っていたのはチキンバーガー。
「は?(2分ぶり本日2度目)」
「あちゃー。チキンだったか!優気のことだから魚見た後は絶対に魚食べると思ったのになー‼」
いやいやいや。
確かに俺はフィレオフィッシュを2つ買ったはずなのだが。
俺の方を開けてみる。
中身はフィレオフィッシュだ。
あれ……?
店員さんのミスということか。
「流石は優気だね!完全にフィレオフィッシュ買ったと思ったよ‼」
奥川さんはすごく感心した様子だった。
俺はどういう反応をしていいのかわからず、まあねとだけ軽く言った。
そして、俺はフィレオフィッシュバーガーを食べ始めた。
「そういえば、生きている魚を見た後でフィレオフィッシュバーガーを食べることに優気は抵抗ないの?」
「別に」
「私は、かわいそうだと思うなー」
「なんで」
「だって、この魚ってもしかしたら水族館で泳いでいたやつかなとか思っちゃうじゃん」
「いや、それはないでしょ」
「そうだけど!」
奥川さんはチキンバーガーを食べながら抗議をした。
「ちなみに俺が奥川さんにフィレオフィッシュバーガーを買ったらどうしてたの?」
「優気のやつを半分もらっていた」
「俺もフィッシュだったら?」
「心の中でごめんなさいって言っておいしく頂く」
「結局、食べてるじゃん」
「まあ、細かいことは気にしないの!そんなことじゃ、桜ちゃんに嫌われるよ‼」
奥川さんびしっとハンバーガーを持っていない左手で俺を指さした。
「分かってるって」
俺はそう言ってフィレオフィッシュのハンバーガーを食べ始めた。
ハンバーガーを食べ終わるのにはそんなに時間はかからなかった。
「この後どうする?」
奥川さんは貰ってきた水族館のパンフレットを見ながら聞いた。
「まあ、魚はほとんど見たよね」
「だよねー」
「あとは何かあったかな」
俺も自分のパンフレットを開いた。
「この水族館、屋上があるらしいよ!」
奥川さんは自分の持っているパンフレットをこちらに向けながら笑顔で身を乗り出してきた。
「行こうよ!」
「いいよ」
俺はそう言うと、2人でハンバーガーのごみを片付けて屋上へと続く階段を上った。
「やっぱり、屋上の景色はきれいだね!」
「そうだね」
確かに屋上の景色は見晴らしがよくてすごくきれいだった。
水族館の屋上ということもあってスペースは思っていたよりも広い。
そして、土曜日だったこともあって家族やカップルで来ている人が7組ほどいる。
時間は16時くらいだ。
もう少ししたら、綺麗な夕日で良い景色なのだろうなと思う。
平野さんとか好きそうだな。
俺は、ふとそんなことを思った。
「優気―?聞いてるー?」
「あっ、うん」
俺は、一瞬ぼぅとして返事が遅れた。
「ちょっと!今、桜ちゃんと一緒に見たかったとか思ったでしょ‼」
奥川さんはどうやら何でも分かるらしい。
「そんなことないよ」
俺は少し奥川さんから目を逸らしながら否定した。
「ほんとにー?」
奥川さんからの疑いは晴れない。
「ほんとだよ」
「ならいいけど」
奥川さんはくるりと回って外の景色を眺めに柵のぎりぎりのところまで行った。
俺は、少し遅れて歩きながら奥川さんの横に立った。
「てっきり、今日の優気は元気ないかと思ってた」
奥川さんは少し残念そうな表情をして言った。
「いきなりどうしたの?」
「昨日、桜ちゃんに会えた?」
「まあ」
「どんな話をしたのか教えてくれる?」
「それは……」
言い始めようとした段階で言葉に詰まった。
どこまで話をするべきなのだろうか。
まあ、昨日の始まりは奥川さんが俺に元気を与えてくれたからだし、何も話しをしないというわけにもいかないだろう。
でも、全てを話すのはさすがにできない。
「まあ、何とか平野さんは元気になったと思うよ。来週からは学校にも行けると思う」
俺は、こんな感じで濁すような答えしかできなかった。
「優気のおかげで?」
「それは、どうかな……」
「違うの?」
「たぶんね」
「じゃあ、桜ちゃんに確かめてもいい?」
奥川さんは俺を覗き込むような形で聞いてきた。
「それはダメ‼」
もちろん、俺はすぐに否定した。
平野さんが言うとは思えないけど、流石に恥ずかしい。
「やっぱり、優気のおかげじゃん」
「それは……」
奥川さんはやっぱり、人との会話が上手い。
これは、3年間でずっと思っていたことだった。
そして、俺は何て言えばいいのか分からなくなって奥川さんとから目を逸らした。
「まあ、桜ちゃんが元気になったならそれでよかった」
これで話は終わりかな。
俺は小さく息をついた。
「ねえ、もう一つあるんだけどいい?」
奥川さんの目は真剣なままだった。
俺は、これ以上聞かれることに心あたりは無かったけど、良いよと言った。
「じゃあ、奥のベンチに行こうよ」
奥川さんはそう言うと、一番奥にある人が周りにほとんど居ないベンチへと向かった。
俺は、奥川さんにつられて行くと、奥川さんは奥の方に座った。
「ねえ、優気は桜ちゃんと水族館に行ったことある?」
俺が座ったのを見ると、いきなり話しかけてきた。
「ないよ」
「そっか」
奥川さんは小さな笑みを浮かべていた。
「それがどうしたの?」
「それじゃあ、優気の初めての水族館デートの相手は私ってことだね」
「まあ、それはそうだけど……」
そんなに嬉しいことか……?
「ねえ、さっきから質問の意図が分からないんだけど」
俺は、奥川さんの横顔を見ながら聞いた。
少し笑っている?
まさか、また何か騙されているのか?
奥川さんならやりかねないよな。
「冗談なら帰るよ」
俺は、そう言ってベンチを立ち上がろうとした。
でも、奥川さんはこの行動をさせてはくれない。
俺の右腕を少し力強くぱしっと掴んだ。
「待って!」
そして、今までにないくらいの真剣で力のこもった声をあげた。
「なに」
奥川さんは、小さく息をすると、覚悟を決めたかのように俺の顔をじっと見つめてきた。
「いきなりどうしたの……?」
俺は、その態度にびっくりして聞いた。
いつもの駄々をこねている様子とは明らかに違う。
「実は、優気に聞いて欲しい話があるの……」
「なに……?」
俺は、少し落ち着きを取り戻して声のトーンを落とした。
「桜ちゃんのこと好き?」
「もちろん」
「どれくらい?」
「どれくらいって……」
俺は、少し答えに困った。
でも、奥川さんの質問は止まらない。
「付き合いたいくらい」
「まあ、」
「結婚したいくらい?」
「まあ、、」
「私よりも……?」
「えっっ?」
質問に対しての反応が遅れる。
でも、奥川さんが止まらい。
この反応を予想していたかのようにすぐに話を続けた。
「私、優気のことが好き。桜ちゃんじゃなくて、私と付き合って欲しい」
俺の脳が一瞬思考を停止する。
奥川さんが言っていることの意味が分からない。
なんの冗談だよ。
本当ならこう思いたかった。
でも、明らかに違う。
いつもの奥川さんの感じではない。
目が真剣だった。
初めて本気で俺のことを見ていてくれる気がする。
「俺は……」
きっと、奥川さんと付き合うと今日みたいに笑いの絶えない毎日になるんだろうな。
休日にはいろいろなところにデートに行って。
夕方にはイルミネーションを見て。
子供ができたら週末には子供と一緒に水族館にでも行きたいな。
俺は、ふとこんなことを思った。
「どうなの?」
確実に奥川さんは俺の気持ちを見て言っている。
少し赤くなっているのもきっと演技ではないことが分かる。
それに今までの経験上、奥川さんは人の気持ちを弄ぶような嘘はつかない。
でも、なんだろう。
この違和感は。
目は真剣でいつもよりうるっとしていて今にも涙が地面に落ちそうだ。
本気で俺のことを考えているからだろう。
でも、この本気で考えているって俺を好きと同じ意味なんだろうか。
そこが引っかかる。
奥川さんとは友達として仲良くしていたけど、俺には好かれる理由がない。
まあ、恋愛ならそんなことはよくあることなのかもしれないけど。
でも、この涙が恋愛の意味でのものとは決して思えなかった。
好きというよりは、心配という感情とでも言うべきだろうか。
今日のデートの誘いといい、最近の奥川さんの行動は何か少しおかしいところがある。
無理に気を使っているとでも言ったらいいのだろうか。
そして、それは俺にだけではない。
いつものメンバーの全員に対してそんな感じだ。
俺は、小さく息をした。
そして、勇気を持って口を開けた。
「ねえ、奥川さん。俺に何か隠し事があるでしょ」
冬の風の音がだんだん強くなっていることが分かる。
風だけではない。
もう来た時とは違って光はほとんどない。
町の明かりの主役は太陽からお月様に代わっていた。
この場はベンチの真横にある水族館の明かりが俺たちを照らしている。
奥川さんの目から一滴、また一滴と綺麗な雫が落ちていく。
まるで、今まで抱え込んでた全てを涙で吐き出しているようだった。
どうやら俺はパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。
「何、言っているの?」
奥川さんが涙で濡れた目をこちらに向けてくる。
「今までの言動を見てれば何となく分かるよ」
「そんなことは……」
奥川さんはそう言いながらも目は下の方へと流れていた。
3年間の経験上、これは確実に何かある。
「行く前から何となくおかしいとは思っていたんだ。だって、今までの奥川さんならみんなで遊ぶことは会っても俺だけを誘うことは無かったよね」
「それは……」
奥川さんは何かを言いそうには見えない。
「やっぱり、言えないかな」
流石に、こんな状態の奥川さんに無理に話してとは言えない。
でも、全く話しをするつもりが無いのならそもそもデートには誘っていないと俺は思っている。
「ねえ、」
何か奥川さんが言ったように聞こえた。
「私でもいいでしょ?」
奥川さんは今までの涙を俺にぶつけてくるかのように俺に話かけてきた。
「それは……」
今度は俺が言葉に詰まる番になった。
もちろん、俺は奥川さんよりも平野さんの方が好きだ。
でも、何て返事をすればいいのか分からない。
そして、それでも奥川さんの思いの叫びは止まることはない。
「確かに、私じゃ桜ちゃんよりも魅力はないかもしれない」
「そんなことは……」
「でも、私は優気のことが好きだよ」
「それは、」
「ダメかな。優気にとってもそれが一番良い選択肢だと思うよ」
最後の一言を、目を少し下に向けながら言うと、再び俺のことを見た。
返事を待っているということだろう。
本当なら俺はここで告白の返事をするべきだ。
正直、さっきと変わらず何て返事をすればいいのか分からない。
でも、返事の前に一つ聞くことができた。
「俺にとって一番良い選択肢ってどういうこと?」
奥川さんは、はっとした表情をしていた。
「それは、、」
俺は、答えを待つ。
「えっと、えっと、えっと、、、、、」
「俺にはこの言葉の言い回しが何だか凄く引っかかるんだけど」
奥川さんは必至に言葉を探しているようだった。
でも、一向に出てくる気配はない。
そして、体感では1時間にも思えるくらいの時間が経った。
奥川さんははぁと一息ついてやっと口を開けた。
「ごめん。やっぱり告白のことは聞かなかったことにして」
奥川さんにさっきまであった焦りはどこかに消えていた。
「分かった」
俺は、こう返すしかできなかった。
「でも、一つだけ優気に忠告させて欲しい」
「何?」
「桜ちゃんのことは諦めた方が良いよ」
「え?」
いきなり何を言って……。
「桜ちゃん、優気のこと全く好きじゃないから」
「そんな……」
「それじゃあ」
「待って、」
「ごめんね。この後予定あるから先に帰らせてほしい」
俺は、奥川さんに言われた言葉の衝撃が強すぎて引き止めることさえできなかった。
そして、そのまま何もすることができず、家へと帰った