春に美しく咲いている桜は、ほかのどの木と比べてもきれいだと思う。
この「思い出の木」を眺めていると改めてこの思いが強くなる。
学校近くの少し小さな山の頂にある公園の中心に、1つぽつんとあるこの桜の木は、3年前の出会いをまるで昨日のことのように思いださせてくれるようだ。
この公園から見える町の景色はいつ見ても心が落ち着く。
自分はこの町と一緒だということを強く感じられるからだ。
俺は、柄にもなくこんなことを考えながら左腕に着けた白色の軽い腕時計を見る。
17:10
さっきまで空にいた太陽は消えかかっていて、地上を照らす役割を星に譲ろうとしていた。
さて、そろそろ時間だ。
今までの自分ならきっと逃げ出したい気持ちでいっぱいになっていただろう。
でも、そんな気持ちはない。
だって、みんながいるから。
みんながいれば大丈夫。
俺は、過去の思い出を振り返りながら未来へ進む覚悟を決めた。