アンヌは祖母の家に遊びに来るのが好きだった。特に秋の午後、風が少し冷たくなり、紅葉が色づく頃には、暖かい紅茶を片手にゆっくりとした時間を過ごすのが何よりの楽しみだった。
「今日は特別な紅茶を用意したのよ。」
祖母が嬉しそうに微笑みながら、戸棚からティーセットを取り出した。深い藍色に金彩が施された、美しいセーブルのカップ。アンヌはその艶やかな青に目を奪われた。
「このカップに合う紅茶って、どんなの?」
「オータムナルよ。」祖母は茶葉をゆっくりとポットに入れ、お湯を注いだ。「ダージリンの秋摘み紅茶。夏の強さとは違って、まろやかで落ち着いた味がするの。」
蒸らし終えた紅茶をカップに注ぐと、ふわりと甘く香ばしい香りが広がる。アンヌはそっとカップを手に取り、ゆっくりと一口飲んだ。
「わあ……ほんのり甘くて、香ばしい……」
「そうでしょう?夏摘みよりも渋みが控えめで、深みのある香りがするのよ。秋の紅茶は、まるで森を歩くみたいな気分にさせてくれるの。」
アンヌは窓の外を眺めた。黄色や赤の葉が風に舞い、木漏れ日が優しく揺れている。カップをもう一度口に運びながら、アンヌはふと思った。
「このカップの青と紅茶の琥珀色が、すごくきれいに見えるね。」
祖母はにっこり笑った。「セーブルの藍地は、金色や茶色を引き立てるの。まるで秋の夕暮れみたいでしょう?」
アンヌは頷きながら、もう一口紅茶を飲んだ。体の中からじんわりと温かさが広がる。秋の午後にぴったりの紅茶とカップ。祖母と過ごすこのひとときが、何よりも贅沢に思えた。
「おばあちゃん、この紅茶、家にも少し持って帰っていい?」
「もちろんよ。秋の紅茶は、ゆっくり味わうのが一番だからね。」
アンヌは嬉しそうに紅茶の袋を抱えた。これからの季節、この味を思い出しながら、また祖母の家を訪れよう。