都会のカフェ「Tea & Leaf」。ナナミは忙しい一日の合間に駆け込んだ。ノートパソコンを開き、未返信のメールを確認しながら、カウンターで紅茶を注文する。
「アッサムティーをお願いします。できればすぐ飲めるようにお願いします」
店員は微笑みながら頷き、手際よく紅茶の準備を始めた。しばらくして、ティーコジーで包まれたポットとカップが運ばれてきた。
「お待たせしました。紅茶はちょうど良い蒸らし時間になっていますので、どうぞお楽しみください」
ナナミは安心し、カップに紅茶を注ごうとする。そのとき、隣の席に座っていた老紳士が新聞から顔を上げ、穏やかに微笑んだ。
「紅茶の蒸らし時間は大切なんだよ。急ぎすぎても、長すぎても、美味しくならない」
ナナミは驚いて顔を上げた。
「蒸らし時間?」
「そう。茶葉がゆっくりと開いて、香りと味わいが引き出されるには、三分から五分は必要なんだ」
ナナミはふと、カップの中の琥珀色を想像した。慌ただしい日々の中で、こうして待つ時間に意味があるのかもしれない。
立ち上る湯気と共に、優しい香りが広がる。ナナミはカップを手に取り、そっと口に運んだ。
「確かに……ただの五分だけど、待つことにも意味があるんですね」
老紳士は微笑み、静かに自分の紅茶を口にした。
ナナミも初めて意識して、ゆっくりとカップを持ち上げた。その温かさが、忙しい日常の中に小さな幸せとゆとりを届けてくれる気がした。