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紅茶×休憩時間×知ってますかこの雑学?
紅茶×休憩時間×知ってますかこの雑学?
AlgoLighter
文芸・その他ノンジャンル
2025年02月09日
公開日
6,013字
連載中
一杯の紅茶とともにお楽しみください

ミルクは先か後か?

カフェ「Tea & Leaf」の昼下がり。静かに流れるクラシック音楽の中、リョウはカウンターで紅茶を淹れながら、ふと手を止めた。


「すみません、ミルクティーを一杯ください」


振り向くと、常連の英国紳士ヘンリーさんが、優雅に微笑んでいた。


「かしこまりました」


ポットの紅茶をカップに注ごうとしたその瞬間、リョウは戸惑った。


——ミルクを、先に入れるべきか? それとも、後に入れるべきか?


以前、同僚のユイが「紅茶の本場では、ミルクを先に入れるのがマナーって聞いたよ」と言っていたが、本当にそうなのだろうか?


「迷っているね?」


ヘンリーさんが穏やかに声をかける。


「ええ……ミルクって、先に入れるべきなんでしょうか?」


「なるほど。いい質問だ。実はね、それは130年以上続くイギリスの大論争なんだよ」


リョウは驚いた。「そんなに長く?」


「そうさ。19世紀、イギリスでは紅茶を高級な陶器のカップで飲んでいた。しかし、お湯を直接注ぐと熱でカップが割れることがあった。だから、ミルクを先に入れて温度を和らげたんだ」


「なるほど……だからミルクインファースト(MIF)派が生まれたんですね?」


「その通り。そして、フランスの貴族たちは後からミルクを加え、香りを楽しむ文化を持っていた。これがミルクインアフター(MIA)派の始まりだ」


「じゃあ、どっちが正解なんですか?」


「実は2003年、イギリスの王立化学協会が研究を発表してね。結論は『ミルクが先』。理由は、熱い紅茶にミルクを入れると、ミルクのタンパク質が熱変性を起こし、風味が変わるからだ」


リョウは感心した。「化学的に決着がついたんですね!」


「ところが、論争は終わらなかった。MIA派は『ミルクの量を調整できるし、色を確認しながら入れられる』と主張し続けたんだ」


「紅茶にそんな深い歴史と議論があるなんて……」


「面白いだろう? 紅茶は単なる飲み物じゃない。文化と歴史が詰まっているんだよ」


リョウはミルクを先に注ぎ、ゆっくりと紅茶を注いだ。琥珀色の液体がミルクと混ざり、柔らかく美しいクリームブラウンが広がる。


「いい色だね」とヘンリーさんが微笑んだ。


リョウはこの日を境に、紅茶の奥深さに魅了されていくことになった。

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