《……お願い――》
その声は、深海に射す一条のか細い光のように、闇の中にある彼の耳に届いた。
澱み、無限に広がる闇――。
その、暗く重く冷たい、無慈悲な拘束具に縛られた彼に。
……彼は、自分が既に死んでいることを理解している。
その上で、ひたすらに永い時を。
無限の闇に拘束されたまま……ただただ無為に、刻み続けていた。
喪失という
代わりに、意識と時間の感覚だけが与えられているのは、安息が約束されるはずもない、
そう、それは責め苦――。
変わりなく果てなく続く、永劫の責め苦……そのはずだった。
しかし、確かに声は射し込んだ。
闇の中に、あってはならないはずの光が響いたのだ――どうしてか、懐かしさのようなものを覚える、女性の声が。
だが、安らかな思い出を抱くことなど許されないとばかり、十万を優に超える日をただただ数え続けるうち、闇に喰われて多くが失われた彼の記憶では……その声の正体を探ることはできない。
ただ、声は仄かながら、一時、闇を忘れるほど暖かく輝いていた。
それだけは、確かだった。
《……お願い――。
どうか、あの子たちを……護ってあげて――》
輝くその声は、深淵にもたらされた、現世へと続く一条の糸だった。
彼は、現世へ戻りたいわけでも、ましてこの責め苦から逃れたいわけでもない。
それを当然の報いと受け入れていたからだ。
しかし――。
彼は、糸へ手を伸ばした。
永らく彼を縛り、縫いつけていた闇を振りほどき、糸をその手に掴んだ。
そうしなければならないと――わけも告げず訴える無意識に、突き動かされるままに。
《……そして、そして、どうか――》
掴んだ糸は輝きを増し、太さを増し、力強く彼を深淵から引き上げる。
無限の闇はそんな彼に纏わり付き、絡みついて――しかし自らの懐に引き戻すのでなく、むしろ彼を、声の導くままに押し上げようとしていた。
そして、そうしながら、声無き声で彼に告げた。
少なくとも、彼には――そう感じられた。
『贖罪の時は来た。
咎人よ、最後の大罪を以て、その罪を贖え――』