草原から続く森の中、夕暮れ時のオレンジ色をした木漏れ日が幾千も差し込む
「睡蓮……お前が俺を反逆者にしたって?」
オレは刀傷よりも疼く胸の痛みを堪えつつ、掠れた声で一気に答えた。
「そうだ。オレが初めてこの世界に来たのは、本当は、自分で自覚していた日より一か月も前のことだった。その時オレはフード付きのマントで顔を隠した初老の男と会った。そしてその男がぼやくのを聞いた。勇者エリオスはいつになれば魔族の姫を討てるのかって。オレは答えた。勇者は姫に
「そうか」
「そうか、じゃない。わかっただろ。オレが国王をけしかけて、お前の監視をするよう仕向けたんだ。お前が反逆者にされたのはオレのせいだ」
エリオスがふっと苦笑するのがわかり、オレは困惑した。
「違うぞ睡蓮。俺が疑われたのは、俺が未熟だったせいだ」
「はあ?」
「地下牢では余裕がなくて、ノアが大人に何か喋ったかもしれないなどと、愚かにも他責思考な台詞を吐いたが、結局のところすべての原因は俺にある」
「原因ってなんだよ」
「俺は策を練るのが苦手でな。単純明快を人の形に固めたらお前になる、と他人に言われたこともある。それが誉め言葉ではなく嫌味だと気づくのにすら時間がかかった」
「答えになってねぇ」
「なあ睡蓮。俺はな、リュミエ殿のもとへ、対話のために通うようになって以降も、尾行を微塵も疑わなかった。探知魔法を一度でも使っていたなら気づけていたかもしれないのに、それをしようとしなかった。何の策も考えず、洗い立ての勇者服と泥ひとつつかない鎧をまとい、カモフラージュの傷ひとつ自らの体にこさえないまま帰宅し、俺が怪我をしていなくて嬉しいとはしゃぐノアをそのままにした。ノアに何の口止めもしなかったし、討伐に出た割には不自然に綺麗な格好で戻ってくる俺の姿を目にした民も多かっただろう」
淡々と語る声に
結局エリオスはその後も、オレを一度も責めなかった。オレが何を言っても「そうか」とただ受け止めるだけだった。そのことが余計にオレの胸の罪悪感を
けれども、もし、彼から悪しざまに罵られていたならば、別のどこかが痛んだのかもしれない。彼にどうしてほしかったのか、自分でもわからなかった。
「話は終わったかしら。もうじき着くわ」
リュミエが言った。オレは尋ねる。
「どこへ?」
「ゼルトリアという村よ。そこに回復魔法を使う人間がいる。彼ならあなたを治療できるわ」
「彼?」
まるで知り合いであるかのような口ぶりに疑問が生じた。魔族の姫であるリュミエが、特定の人間の知り合いなど持っているのだろうか。オレやエリオスはさておき。
リュミエはオレの問いの意味を察したらしく、つけ加えた。
「私を誰だと思っているの。人間の知り合いは、あなたたちだけじゃないわ」
リュミエの向かう先。小径の奥が白く発光していた。そのあまりの眩さに、奥の光景は塗りつぶされてまったく見えない。
リュミエは中空に手をかざすと唱えた。
「
すると白い光は、人が通れる程度の大きさのトンネル形の分だけ弱まり、奥から子どものはしゃぐ声が聞こえてきた。
リュミエは魔法で自身の服装を黒いドレスから白いリネンのシャツと藍色のロングスカートに変えると、トンネルを
目の前に広がった光景に、オレは息を呑んだ。
夕焼けに赤く染まる村。木造りの簡素な家屋の前を、連れ立って走る人間の少年と、頭に小さな角の生えた魔族の少女。道の端で楽しそうに立ち話をする二人の女性の片方は、緑色の肌と長い舌を持つ魔族だ。背丈が三メートルはあろうかという筋骨
「ここは、一体……」
「人間の王国と魔族の国との狭間の地に
先に立つリュミエが振り返り、優雅に微笑んで首を