オレはベッドの上でしばらく呆然としていた。左肩から右わき腹にかけて切られた感覚がまだ残っている。それは痛みではなく、肌の上に何かが這ったかのような、異物感に近い感覚だ。真冬の朝だというのに全身にはじっとりと汗が滲み、心臓は早鐘を打っていた。
一人暮らしのワンルームは静まり返っていて、時折遠くの道路を車が通過する音がするだけだ。その音がやたらと現実臭く聞こえ、オレは自分を落ち着けるために縋るように聞き入ってしまう。
大丈夫だ。オレは怪我もしていないし、昨夜と変わらない状態で生きている。
オレは自分でも驚くほどに狼狽していた。だからいつものように枕の下から夢日記を取り出し、夢の内容を綴るまでに
エリオスと共にアルカ=フェリダ王国へ行き、彼の妹ノアに会ったこと。彼ら
切られた感覚は、現実の切り傷のような鋭い痛みではなく、麻酔がかかったような鈍くぼんやりとした痛みだった。しかし無痛ではない。
奇妙で気持ちの悪い感覚。
オレは夢日記を閉じ、再びベッドに横たわった。眠っていたはずなのに、ひどく疲れていた。
エリオスとルゥナのことが気がかりで仕方ない。すぐにでも戻りたいと思うが、眠気が全くなかった。目を閉じても、頭は冴え渡り、眠ることができない。それがもどかしかった。
仮に眠れたとしても、もう、オレが切られたあの瞬間には戻れないのだろう。これまでの傾向で考えれば数時間、数日後に飛ぶはずだ。
考えずにはいられない。
無実の罪で追われる英雄エリオスはどうなってしまうのか。そして反逆者の妹とされるノアは、あの国でどんな扱いを受けるのか。
エリオスが語った、ノアが無意識に密告してしまったのではという推察は正しいのか。もしくは別に密告者がいるのではないか。
と、その時、スマホが震えた。画面を見ると、文学部の先輩、
「おは。次の
続いてWordファイルが送られてくる。
ふと、オレはある考えが浮かんだ。飛鷹さんに、エリオスを密告した人物の推理をしてもらおう、と。もちろん、夢の出来事をそのまま話すのではなく、ぼかしてだ。
「今から読むんで、昼飯食いながら話しませんか」
オレはそう返して、Wordファイルを開いた。