俺達は王城を出てグドラ国王の手配により、王都にある屋敷に泊まることになった。
屋敷は広々としており、伯爵でもこれほど贅沢な屋敷には住めないだろうというくらい豪華だ。
そしてエトラはこの屋敷に来る途中でたまたま合流でき、俺たちは王都で休むことになった。
「ロラン王子、ですよね?」
エトラは不安そうに聞いてくる。
まあ無理はないか、なんせ一緒に戦ってた奴が自国の王子だったんだからな。
「黙っててすまない、あまり混乱させる訳にはいかなくてな」
俺がそう言うと、エトラは首を横に振る。
「いえ、王子という立場なら納得です」
「ああ、後俺のことはロランと呼んでくれ。今更王子扱いされたくない」
俺はそう言って椅子に座る。
あまり特別扱いをされすぎると疲れるからな。
エトラも俺の気持ちが伝わったのか少し笑顔になる。
「ロランさん……私との約束覚えてますか?」
俺が椅子に座るとエトラは改まってそんな事を言ってくる。
「もちろん、魔法を教える約束だろ?」
「は、はい!」
「ハーキム王国に戻ってほとぼりが冷めてからになるけど、エトラに魔法を教えるよ。だからそれまで待っててもらえるか?」
俺がそう言うとエトラはパァと笑顔になる。
「は、はい!! 私はそれまでにたくさんの事を学びます!」
エトラはそう言ってはしゃぎ始める。
やっぱりエトラは面白いな。
魔法好きという共通点からかアリスといるといよりかは、エトラといる方が楽しいかもしれない。
そんな事を思っていると、突然扉がノックされた。
そして扉は開かれ、3人の女性が部屋に入ってくる。
「ロラン師匠!? 私以外の女と一緒にいるだなんて……どういう事ですか!?」
部屋に入ってきたのはクレハだ。
横にはアリスとリアもおり、2人はクレハに腕を掴まれている。
アリスは少し面倒な顔をしていて、リアは微笑んでいる。
エトラは何が何だか分からないようでおどおどしている様子だ。
「クレハ……どうしたんだ?」
俺が呆れたように言うと、クレハは当たり前のように俺の横に座る。
「ロラン師匠! 私もたくさん魔法を勉強したいです! 私弟子なので!」
クレハはそう言って俺の手を取る。
それをエトラはきょとんした表情で見ている。
「分かった分かった、2人とも俺が責任もって教える。だから手を離してくれ」
俺がそう言うとクレハは渋々と腕を離す。
それを見たアリスは呆れた顔でため息をつく。
「全く、ロランは女の子を手懐けるのが早いわね」
そう言ってアリスは紅茶の入ったコップを持ち、飲む。
全く、アリスは何を言っているんだか。
俺はただ魔法を教えようとしてるだけなんだけどな。
そんな事を俺が考えているとリアはハッと何かを思い出したかのように立ち上がる。
「そういえばアデルお兄様は?」
「ああ、あの逃げ足王子ね。あいつなら今頃父上に怒られてるんじゃない? まあ、あんな奴どうでもいいけど」
アリスはそう吐き捨てるように言い、紅茶を啜る。
アデルの奴、せっかく俺が総大将にしてやったのに、逃げたなんて、まあもうどうでもいいが。
そんな事よりも、今はアルバラン王国の復興が最優先だからな。
他の城塞都市が陥落した今、アルバラン王国は他国攻められたらひとたまりもないだろう。
「まあとりあえず、アルバラン王国を守るためには守備に徹底しないとな。あとはリアの力があればなんとか出来るだろう」
「わ、私の?」
リアが自分を指さしながら言う。
「ああ、治癒魔法を使ってアルバラン王国の人々を治癒してやって欲しい」
「分かりました、頑張ります!」
リアは笑顔でそう言う。
治癒魔法ってのはあまり使える人がいないからな、リアがこの仕事を一任する価値がある。
こう言った行動は王位を争う上で必要なことだ。
「さて、そろそろ部屋に戻りましょうか。これ以上のんびりしていたら眠くなっちゃいそうだわ」
アリスはそう言って椅子から立ち上がる。
クレハ達も同時に席を立ち上がり、部屋から出ていく。
だがそんな中、1人だけがまだその場に残っていた。
「アリス……? どうした、まだなにかあるのか?」
俺がそう聞くとアリスは俺の前に立つ。
そして俺の目をじっと見て口を開く。
「私は……もう王位争いには参加しないわ」
「な!?」
突然の言葉に俺は思わず驚きの声が漏れる。
王位争いに参加しない……だと?
もし今の話が本当なら、王位は簡単に勝ち取ることができる。
だがなぜ王位を?
するとアリスは話を続ける。
「私が王位を求めていたのは禁書を解読し、ハーキム王国を魔法大国にするため。魔法大国になってしまえば他国に攻められる心配はなくなる。でも……ロラン、あなたを見てて思ったの、魔法大国にならなくてもこの国は守れるって」
アリスはそう言って俺を見る。
その目は真っ直ぐで、とても嘘をついているようには見えない。
「本気で言っているのか?」
俺は少し低い声でアリスに聞く。
「ええ本気よ、それに私が王位を求めていた理由はあんた達にも原因があるんだからね」
「お、俺達?」
「当たり前でしょ、リアは非力、ロランはこの前まで無能、アデルに関しては豪遊ばかりの情けない王子。皆んな王の器じゃなかったじゃない」
「ぐ、ぐうの音も出ねえ」
俺はなんとも言えない表情になり、肩を下ろす。
それを見たアリスは笑顔になり、話を続ける。
「でも……あなた達は変わった。今のロランは、魔法も使えるようになってる。それにリアの治癒魔法は凄いし、いつか聖女なんて呼ばれるかもしれない。だから……思ったの。私はあなた達2人を横で支えてあげようって」
アリスはそう言って俺の手を握る。
俺はそんなアリスを見て思わず涙がこぼれる。
「ア、アリス、俺はお前の事を誤解していたのかもしれない」
俺はつい嬉しすぎて、そんな事を言ってしまった。
元々アリスはハーキム王国を守る為に王位を求めていた。
原作とストーリーが変わってきて、アリスの考えが変わっているのは知っていた。
だが俺はアリスが禁書を読む為だけに王位を求めていたと思っていた。
でも違った。アリスも、俺達と過ごす内に考えが変わったのだ。
俺がそう考えていると、アリスは俺の目を見て口を開く。
「もう眠くなってきたし、部屋に帰るわね」
そう言ってアリスはドアノブに手に触れる。
「おやすみ、ロランお兄様」
アリスは俺のことをお兄様と呼び、部屋から出ていく。
「アリス……」
俺はそう呟き、アリスが出ていったドアを見つめる。
そして俺はベッドに入り眠りにつくのだった。