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第69話 アルバラン王国 王の間

「ん......」


 俺はゆっくりと目を開き、辺りを見渡す。


 どうやらここは馬車の中のようだ。


 横にはリアとクレハがスヤスヤと寝ている。


「起こしてしまったか?」


 俺が起きたことに気が付き、隣に座っていたセレスがそう言う。


「いや、寝過ぎたせいか目が覚めただけだ」


 俺は身体を起こし、軽く伸びをする。


 長時間寝たからなのか、かなりスッキリした感覚だ。


 魔力を回復できたこともあってか調子も良い気がする。


 だがそんなことよりも俺は気になり過ぎている事があるため、その話をセレスに聞くことにした。


「あの後魔王軍はどうなった?」


 俺は魔王との戦いの後、何が起きたのかが気になっている。


 「ああ、ロランが魔王を討伐した後、魔王の討伐を聞いた右軍と中央軍が奮起し、どうにか魔王軍の勢いを削ぐことができ、奴らを撤退に追い込むことが出来た」


「そうだったのか、良かった」


「ああ、だが王都にまで行った魔王軍もいてな。危ないところだった」


「お、王都まで!? 王都は大丈夫なのか!?」


「落ち着けロラン、王都は無事だ。どうやら王都も何かあった時の為に隠し玉を用意していたそうでな、魔王軍を撤退させることが出来たらしい」


「隠しておいたもの?」


 俺は思わず首を傾げる。


「ああ、そいつの名は《水の賢者》ラメール。水魔法を扱い、かなりの実力者らしい。ラメールが来た瞬間に魔王軍の勢いは無くなったそうだ」


 ああ……そういえば魔王がアルバラン王国を攻めたのもラメールが持っている『水書』を求めて侵攻したんだよな。


 俺が納得して頷いていると、突然馬車の扉が勢いよく開かれた。


「目が覚めたんですねカーメン殿!!」


 馬車の中に入ってきたのは俺と共に華陽を守ったキシさんだ。


「キシさん! 無事だったんですね!」


「はい! あ、あの……カーメン殿がハーキム王国の王子だったんですね……」


 キシさんは申し訳なさそうにそう言う。


「いや、気にするな。俺が身分を偽ってたのが悪いんだし」


「い、いえ! そんなことはありません! ロランさんがいなければ今頃我々は魔王軍によって殺されていたでしょうから!」


「いや、キシさんもよく頑張ってくれた。正直キシさんがいなかったら軍をここまで統率することなんて出来なかったよ」


 俺はそう言って頭を下げる。


 それを見たキシさんは恥ずかしそうに頭を下げた。


「そういえばエトラはどこにいるんだ?」


「エトラ殿は他の馬車に乗って休んでいます。今私達は王都に向かっていますので、そこで合流できると思います」


「なるほどな」


 エトラは魔王との戦いでかなり体力を消費したからな、王都に着けば休めるだろう。


「ロラン、そろそろ王都に着きそうよ」


「お、ほんとか?」


 俺はエトラの事を考えているとセレスがそう言ってきた。


 ならそろそろ起きて支度をしておくか。


 多分王都に着いたら王城に招待されるだろうからな。


 そう思い、俺はすぐに出れるよう準備を始めるのだった。





「ここがアルバランの王城か」


「ハーキムに引けを取らないぐらい立派ですね」


 俺とリアはアルバランの王城を目の当たりにし、思わずそう呟いてしまう。


 アルバランの王城は白を基調とした美しい見た目をしており、まるでおとぎ話に出てくるような城だ。


「皆様、陛下がお待ちです。城の中に案内しますのでこちらまで着いて来てください」


「分かりました」


 アルバランの兵は俺達を城内へ連れて行く。


 俺は王城まで来る際に王都の情景を見ていたんだが、国民みんなが笑顔で生活をしており、貧しい人はかなり少なく見えた。


 これは国王の功績だなと俺は感心する。


 そしてしばらく歩き、俺達は王城の謁見の間に着いた。


「ここからは代表者数名が王の間に入ってもらいます」


「分かった、それじゃあ俺とアリス、そしてキシさんの3人で入ろう。エトラは今王都で休んでいるし、3人で行くぞ」


 俺の提案に皆んなは頷く。


 そして俺が扉を開けると、国王が玉座に座っており、その横には司令官らしき人と《水の賢者》ラメール、そしてルーキスが立っている。


 俺達の目の前には赤いカーペットが敷かれており、国王が座っている玉座まで伸びていた。


 俺達はそのカーペットの上を歩き、国王の前で止まる。


 すると国王は立ち上がり、俺を真っ直ぐ見て口を開く。


「よく来てくださった、我が国を救ってくれた英雄達よ。儂はアルバラン王国の国王、グドラ・ルド・アルバランと申す」


 国王はそう言って俺に頭を下げる。


 俺たちも頭を下げ、自己紹介をする。


「グドラ国王、申し遅れました。私はハーキム王国第一王子、ロラン・レット・ハーキムと申します」


 俺は畏まった口調で言い、頭を下げる。


 それに合わせアリス達も軽く名前を名乗る。


 そして挨拶を終えた俺たちは元の位置に戻り、再び向き合った。


「そなた達がいなければ我が国、アルバラン王国は滅んでおった。本当に感謝している」


 国王は俺達に再び頭を下げる。


「いえいえ、英雄だなんて大袈裟です」


「いや、大袈裟ではなかろう。そなた達が魔王軍を討伐したおかげで我が国は救われ、そして今がある」


「お褒めのお言葉ありがとうございます。しかし私たちの力だけでは魔王軍を追い払うことは出来ても倒すことはできませんでした。グドラ国王の横にいるルーキス王女がいなければ」


「そ、そうじゃったか」


 俺がそう言うと、ルーキスはモジモジと恥ずかしそうにする。


 やはりルーキスは可愛いな。


 俺がそんな事を考えているとアリスが口を開く。


「今後の事について少しよろしいでしょうか?」


 アリスがそう言うと、グドラ国王は頷く。



 そして今後について話が進められた。


 魔王軍がまたアルバラン王国に進軍してくる可能性がある為、ハーキム軍は復興の手伝い、そしてまだ魔王軍の残党が残っていないか調査をするためしばらく滞在することが決まった。


「本当に申し訳ない……ぜひ我が国に出来る事が有れば最大限協力します」


「アルバラン王国には前からお世話になっています。お互い助け合える関係になれるように、今後ともよろしくお願いします」


 俺がそう言って微笑むと、グドラ国王は深く頭を下げる。


 そして話し合いも終わり、俺たちは王の間を後にしようとする。


 するとそこに先ほど横に並んでいたラメールがやってきた。


「ロラン君さ……魔王が持ってた魔法書、私にくれたりしないかな?」


 ラメールは頬を赤らめながらそう聞いてくる。


 やはり『水の賢者』と言われるラメール、どうやら魔法好きのようだな。


 俺は困った顔をしていると、グドラ国王が口を開く。


「ラメール! お前はロラン王子に何てことを言っておるのだ!」


「す、すみましぇん」


 グドラ国王の鋭い目付きでそう言われ、ラメールは申し訳なさそうに俯く。


 グドラ国王も怒ると怖いな。


 まぁ、あの希少な魔法書はハーキム王国にいるトン爺にあげるつもりだからラメールにはあげられない。


 そして俺達が王の間を出た後、ラメールはグドラ国王にガミガミと説教をされるのだった。

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