「はぁ……はぁ……」
俺はすぐさま次の魔法の準備をする。
この最上級魔法は強力だが、消費魔力量が多いため短期決戦が好ましい。
魔王を倒すことを優先するなら尚更だ。
《最上級魔法 黒獄炎》
俺は大量の黒炎の球体を一気に魔王の元に向かわせる。
そしてすぐさま大きな魔力壁を張る魔王だが、それは簡単に崩壊し魔王に当たる。
轟音が鳴り響き、地が揺れる。
「はぁはぁ、貴様、何者だ?」
魔王はそういうと、満身創痍の身体を起こす。
先程の黒獄炎はかなりのダメージを与えたようだが、殺すには至らなかったようだ。
「この魔力量.……王族か? そんなやつが何故戦に?」
魔王は息を整えながらも俺に向かってそう質問する。
確かに今の俺の力は普通の比では無いため、少し不自然に思うのも無理はないだろう。
「お前に教える義理はないな」
「そうか……ふふ、残念じゃのう」
魔王はそう呟いて指を鳴らす。
その瞬間、地面から何本もの触手が出てきた。
それは真っ黒な触手であり、触れば死を感じてしまうほど不気味なもの。
「だが俺には効かな……」
「じゃが兵士はどうじゃ?」
「魔王貴様!!!」
触手は周囲の兵士に向いている。
なんとかして阻止しなくてはと思い、俺は急いで兵士のいる方向に走り、魔法を放つ。
《最上級魔法 火壁!!》
俺の前に炎の壁が現れる。
この魔法は最上級魔法であり、かなりの防御性を持つ。
「カ、カーメン殿!? 私たちの事は気にせず!」
俺が炎の壁を出すと、兵士は心配そうにこちらを見てくる。
「お前たち俺から離れろ! この触手に触れれば即死だ! 巻き添えになるぞ!」
「そ、即死!?」
兵士は驚きのあまり開いた口が塞がらない。
兵士はすぐさま俺から距離を取るように立ち去ろうとするが、俺の魔法にとうとう限界がきてしまった。
「く、くそ!」
「部下を庇って自分が犠牲になるとはな、この愚か者め」
そして炎壁は触手によって簡単に破壊されてしまい、俺の体に触手が巻き付いた。
「な、なんだこれ、魔力が吸収される!?」
俺は触手から離れようとするが、全くもって離れることが出来ない。
それどころか触手は俺からどんどん魔力を奪っていき、俺の魔力がみるみる無くなっていく。
まるで貧血になった時のような感覚だ。
「はぁ、はぁ、俺としたことが……」
「随分苦しそうだな、カーメンよ」
魔王は俺に向かってそう呟いてくる。
そして触手に捕まっている俺の元に近づいてきた。
俺はなんとかして触手から脱出しようとするが、やはり全く離れることが出来ない。
すると周りにいた兵士が魔王に立ち向かっていく。
「カ、カーメン様に近づくな!」
兵士たちは俺を助け出したいのか、武器を構えて魔王に突っ込んでいく。
俺は魔力切れで意識が飛びそうなのを抑えながらも、声を出そうと喉を動かす。
だが触手に魔力を吸われているためか、思った通りに喉は動いてくれない。
くそっ!俺が動かないとこいつらが!
すると突然、俺に取り巻いていた触手が斬られる。
今斬ってくれたのは誰だ?
俺が確認しようとしたその時、聞き慣れた声がする。
「師匠……遅れてすみません」
そこには、赤髪の女剣士が立っていた。
その少女は、俺の弟子であるクレハだ。
クレハは剣に付いた血を振り払うと、魔王に向かって剣を向ける。
「よくも私の師匠を苦しめてくれましたね」
「ほう? 師弟関係か?」
クレハは殺気を魔王に放つ。
その殺気は計り知れず、常人の出せる域を超えているだろう。
「ク、クレハ! そいつは……」
俺が忠告をしようとしたその瞬間、突然俺の体が回復し始める。
まさかと思い横を見てみると、俺の隣にはリアがいた。
いや、リアだけじゃない、セレスにアリス、そしてハーキム王国の軍までいる。
「き、君は……」
「もう隠さないで下さい、ロランお兄様」
「な、何を言って」
「仮面が外れてますよ」
俺はそこでやっと状況を察した。
いつの間にか戦闘中に仮面が取れていたらしい。
俺は急いで仮面を拾おうとするが、その行動もリアによって止められる。
そしてリアは俺の目を見ながら口を開いた。
「もう、隠さなくても良いじゃないですか」
リアは俺に向かってそう言う。
俺はリアのその目を見て、もう隠し通せないことを悟った。
「はぁ……こんなあっさりバレるとは」
俺が苦笑いしながらそう言うと、周りの兵士はザワザワし始める。
これ以上混乱を招くのは得策ではなさそうだな。
俺は兵士に聞こえるよう叫ぶ。
「俺の名前はロラン・レット・ハーキム! ハーキム王国の第一王子だ!!」
俺がそう叫ぶと、兵士達はより一層ざわめきはじめる。
「カ、カーメン殿がハーキム王国の王子!?」
「通りで軍の指揮力に優れており、魔法にも精通しているわけだ」
すると華陽の軍だけでなく、ハーキム王国の軍のからもざわめきが聞こえてくる。
「ロ、ロラン王子はハーキム王国にいるんじゃなかったのか!?」
「まさか華陽の軍を指揮してるなんて」
「アデル殿下とは大違いじゃないか」
兵士達から様々な声が飛び交う中、紫髪の女性が前に出てパチンと大きな音を鳴らす。
すると静寂が訪れ、辺りは一気に静かになった。
「静かに、今私たちの前には魔王がいるのよ」
そう言って兵士を静まらせたのは、ハーキム王国の軍を指揮しているアリスだ。
アリスは俺の方を向き、ゆっくりと口を開く。
「まさかロランが『仮面の男』だったなんてね。まあそんな気はしていたけど」
アリスはそう言いながら苦笑をする。
そしてアリスは俺に向かって手を差し伸ばし、口を開いた。
「さっさとあの魔王とか言うやつを倒して、魔王軍を撤退させましょ? ここは暑苦しくて仕方がないわ」
そう言ってアリスは可愛らしく舌を出す。
俺は一瞬戸惑ったが、そのアリスの目には信じるに足るだけの意志が見える。
ならば俺も進むしかないだろう。
俺が手を掴むとアリスは勢いよく俺を引っ張って立たせてくれた。
するとセレス、そしてピースがこちらに近づき、魔王に剣を向ける。
「よし、いくぞ!」