「よ、良いのですかアデル殿下！　軍を放置してハーキム王国に帰るなんて！」

「し、仕方ないだろ！　突然SS級の魔物が攻めてきたんだ、もうどうしようも出来ない！」

　そう言いながら僕は馬を走らせる。

　後ろには、ハーキム王国の兵士が数十人来ており、僕の側近だ。

　本来はアルバラン王国を救う援軍の総大将として軍隊を率いる予定だったはずなんだが。

　軍の先頭を走っていたら、突然SS級魔物が攻めてきて、その混乱で僕は軍を放置して逃げてきた。

　あのSS級の魔物は魔王軍の竜だろう。

　そんな奴とまともに戦って勝てるはずがない。

　だが今は逃げるしかないんだ。

　あそこにいたら僕は確実に殺されてしまうだろう。

「アデル殿下、軍を放置し、ハーキム王国に戻ったら陛下に何と言われるか……」

「だがあの場にいたら第二王子の僕が死ぬんだぞ！　それだったらまだハーキム王国に戻った方が良いに決まってる！」

「ではアリス殿下はどうするおつもりですか？　今頃きっと軍が壊滅し、危険にさらされているはずですが」

「ふん、別に構わないさ。どうなろうと関係ない」

　僕はそう吐き捨てるように言う。

　どうせアリスとは王位争いで対立しているんだ、あいつがどうなっても僕には関係ない。

　むしろ竜に殺されていて欲しいくらいだ。

「ア、アデル殿下、総大将という任を捨てるということは王位争いも不利になるということですが、それは……」

　側近はそう僕に言う。

　確かに僕は王位争いにおいてかなり不利になるだろう。

　だが、あんな化け物に勝てるはずがない。

　あのSS級は竜の中でも上位の魔物だろう。

　そんな奴とまともに戦って勝てるはずがないのだ。

「ハーキムに戻り次第、また軍を編成してアルバラン王国に行くぞ。 一万の軍勢は無いが、竜の対策をすれば魔王軍にも勝てるはずだ」

「な、なるほど。ではもう一度作戦を練り直し、一刻も早くアルバラン王国に向かうということでよろしいですね」

　僕は側近の言葉を聞いてニヤリと笑う。

「ああそうだ、軍の数が減るということはスピードがさらに上がるということだ」

　今回は一万の軍というのもあり、移動にかなり手こずった。

　だが軍が減れば速度が出るのだ。

　これなら前回のよりも速くアルバラン王国に着くだろう。

「さあ、早くハーキム王国に行き軍を編成し直すぞ」