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第61話 魔王が左軍に出現する (エトラ壊滅)

「ふぅ、これで片付いたか。そして次はお前だ」


 俺はスロウの方に向かって歩いて行く。


 するとスロウが焦った様子で、魔法を発動する。


《召喚魔法 死霊大行進!!!》


 スロウがそう叫ぶと、地面から巨大な魔法陣が展開される。


 そしてその魔法陣から、大量の骸骨兵士やゾンビが這い出てきた。


 そいつらは近くに落ちてる武器や盾を拾い上げ、戦闘態勢に入る。


 そしいて骸骨兵士たちとゾンビが、俺を囲うように動き出した。


 囲まれた俺はゆっくりと魔法を発動する。


《最上級魔法 火装具》


 炎の魔力は自由な形に変わっていき、剣のような形に変わっていく。


 その剣は赤い色をしており、纏う魔力は紅蓮のように激しかった。


「な、なにそれ!」


 スロウは一歩後ずさりをしながら、俺を見てくる。


 確かに炎の魔素を自由自在に操れている人間はなかなか見れる光景ではないだろう。


 だが最上級魔法はそれらを可能にしてしまう。


 魔法の器用さについては魔王軍幹部にも負けないつもりだ。


 俺が炎剣を構えると、骸骨兵士とゾンビ達は一斉に襲いかかってくる。


「おらあ!」


 炎剣を振るうと、骸骨兵士たちは炎に包まれ次々と倒れていく。


 俺の炎剣は触れただけで敵を焼き尽くしてしまう恐ろしい剣だ。


 近寄ることもままならない。


「くそ! 弓兵頑張って!」


 スロウがそう叫ぶと、骸骨兵士たちは弓を構える。


 そして一斉に矢を俺に向かって放った。


《炎盾》


 すると前方に赤い盾が展開される。


 炎で出来たその盾は飛んできた矢を全て焼き焦がしてしまった。


 俺は盾を前に突き出し、骸骨兵士とゾンビ達に向かって走っていく。


「な、何あれ! 反則でしょ!」


「もう終わりかな?」


 俺は炎盾を巧みに使い、敵の攻撃を捌いていく。


 そしてついに骸骨兵士やゾンビ達を殴り殺しながら、スロウの元に到着した。


「ひいい! ごめんなさい!」


 スロウは土下座のような形で頭を地面に擦り付ける。


 俺は剣を振り上げるが、その場で手を止めた。


「お前達の目的はなんだ」


「わ、わっちは魔王様の命令でこの戦争に介入したんです。別に攻めたくて来たわけじゃないです」


「ふん、だがお前は逃げた人間を襲い殺していたんじゃなかいのか」


 俺がそう聞くと、スロウは目を大きく見開き、口をパクパクさせる。


 どうやら俺の予想が的中していたようだ。


「わっちはただ魔王様の命令に従っただけなんです! わっちは悪くない!」


「お前はそうやって自分のやったことを何でも他人のせいにして生きているのか」


 俺がそう呟くとスロウは怒気を含んだ目で俺に殴りかかって来る。


「じゃあな、《最上級魔法 黒炎》」


「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!」


 俺が魔法を放つと、スロウは燃え尽きるように姿が消える。


 同時に周りを囲っていた骸骨兵士達とゾンビ達の動きも止まった。


 スロウが消滅したせいだろう。


 俺はすぐに周りの兵達に向けて叫ぶ。


「スロウは倒した! 後はロゼッタだけだぞ!」


 俺がそう叫ぶと、ロゼッタは焦った様子でルーキスから離れる。


「流石はカーメン君! スロウちゃんを倒すなんて」


「おい! お前の相手は私だぞ!」


 ルーキスは剣を振りかぶり、ロゼッタに向かって叫ぶ。


 そんなルーキスの攻撃を軽々と避けながら、ロゼッタは口を開いた。


「私はスロウちゃんと違って強いから、カーメン君以外とは戦いたくないんだよねえ」


「なら私と戦え!」


 そんなルーキスの怒りも、ロゼッタは軽く流しながら俺に向かって走ってくる。


 そして俺の目前まで来ると、鎌を振りかぶってきた。


「じゃあカーメン君! 殺し合いましょ!」


「く、今魔力を消費したばかりで魔法が使えない……」


 俺がそう呟くと、横から矢が飛んでくる。


 そしてその矢はロゼッタの鎌に当たり、動きを止める。


「カーメンさん! 後ろに下がっていて下さい! 我々もやられっぱなしではいられません!」


 矢を放った兵士は、そう俺に叫ぶ。


 すると周りの兵士達も士気が上がっていき、ロゼッタに向かって突撃していく。


「俺たちの本気を見せてやる!」


「カーメンさん! 見てて下さい!」


「魔物なんかに負けてられるか!!!!」


 そんな声を発しながら、ロゼッタに向かって走っていく。


 そしてルーキスもそれに続くように走り出す。


「行くぞお前たち! 勝利を我らの手に!!」


 ルーキスはそう叫びながら、ロゼッタに剣を振りかざそうとした瞬間、突然左翼から大きな音が聞こえた。


 その音で両軍は一旦止まり、その音の方を見る。


 すると兵が宙に舞っているのだ。


 何が……起きてるんだ?


 今左軍にはエトラがが配置されているはずだ。


 戦闘力は高くないが指揮能力に優れているエトラがいるので、左軍はそう簡単には崩れないはず。


 そう思っていると赤旗を持った騎兵が、俺の所に駆けつけてきた。


「た、大変ですカーメン殿!」


「なにがあった!」


「左軍は半分が壊滅、エトラ殿も重症です!」


「何!?」


 俺はその報告に思わず大声を出してしまう。


 左軍は魔王軍の陽動にまんまと引っかかってしまったようだ。


 だが精鋭兵も配置していたはず、そう簡単に壊滅させられるとは思えないのだが。


「どんな魔物が左軍を?」


 俺がそう聞くと、騎兵は震えながら口を開く。


「か、怪物です。銀色の髪色をした男でした。老いた男で、まるで魔王のような……」


 俺はその報告を聞いて、すぐにその老けた男が誰なのか分かった。


「まさか……そんなはずは……」


 俺はそう呟くと、ロゼッタがクスクスと笑いながらゆっくりと口を開く。


「魔王様だよ、カーメン君。もう左軍は魔王様に占拠されちゃうね」


 ロゼッタのその言葉を聞いて、俺は絶望する。


 魔王軍の勢いを止めるのが俺達の戦略、それがたった一人の男によって壊されてしまうとは……。


 そんな時、俺の前にルーキスが立ちふさがる。


 そして俺を庇うように剣を構えた。


「カーメン! お前は早く左軍に行って指揮をしてこい! エトラが重症ならば今左軍を指揮する者は誰もいない! ここは私達に任せろ!」


「そ、そうだな、すまないルーキス。頼むぞ」


「ふん、この戦が終わったらお前たちは英雄だ。だから絶対に死ぬなよ!」


「もちろんだ、じゃあ頼んだぞ」


 俺はそうルーキスに言うと、すぐ馬に乗り左軍のいる方向に走り出す。


「逃がすわけないでしょ!」


 ロゼッタはそう叫び俺を追いかけてくる。


 だがルーキスが立ち塞がりロゼッタの攻撃を止める。


「お前らの相手は私だ!」


 そんな叫びが聞こえながらも、俺は全力で駆けていった。


 左軍の様子は異様だ。


 指揮系統がいない今、魔王軍の魔物達は左軍の兵士達を蹂躙している。


「ま、間に合ってくれ……」


 俺はエトラの無事を祈りながら、左軍へと向かうのだった。

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