「こ、これはまずい」
今私の前には巨大な竜がいる。
その竜は長い舌を口から出しており、青い瞳を私たちに向けながら様子を見ている。
「アリス殿下! お下がりを!」
ピースが私を守るように前に出る。
そして剣を構え、魔力を放出し始めた。
すると兵たちも弓を構え、矢を竜に向けて放っていく。
「グァァァァアアア!」
竜が咆哮をする。
そして翼を羽ばたかせ、鋭い羽を全方位に放出する。
すると矢は全て打ち落されてしまい、一本も竜には届かなかった。
「な、なんて化け物なんだ……」
ピースが剣を構えながら呟く。
一体どうすればこの竜を倒すことが出来る?
単純な攻撃ではこの竜には効果がない。
強力な魔法を放ってもいいのだが、放つのに時間が掛かってしまう。
だがここで竜を倒さないとアルバラン王国の援軍に向かえない。
「ピース! 各隊長に命令! 盾兵と槍兵を集めて竜に攻撃準備を! 魔法使いは遠距離から各隊長と連携をとって援護! 私は魔力を後方で溜める!」
私はピースと隊長達に向かってそう叫ぶ。
するとピースは大きく頷き、すぐに行動に移った。
ピースが後ろに駆け出して行き、各隊長に命令を発していく。
私は竜の攻撃によって大きなダメージを負っている兵を下げさせて、新たな兵に入れ替えさせる。
兵にはまだまだ余裕がある。何せ1万の軍を連れてきたのだから。
だがこの竜を倒せるかは別だ。
そんな事を考えていると突然竜が動き始める。
翼を大きく広げ、口を大きく開くと、魔力をどんどん口の中に集めていく。
その魔力量は今まで感じたことがないほど巨大だ。
「盾兵! 前に!!」
「オォォォォ!!!!」
ピースがそう叫ぶと、盾兵達は大きな盾を地面に突き刺し、竜の攻撃に備える。
「ゴガァァァァァァ!!!」
そして竜の口から爆炎が放たれる。
その爆風は凄まじく、後ろの方で魔力を貯めていた私にもその熱量が伝わってきた。
だが何とか竜の攻撃を防ぐ事に成功したらしい。
すると瞬時に隊長は兵たちに次の指示を出し、攻撃の準備を整える。
「槍兵は前に! 魔術師は後方より援護を!」
ピースがそう叫ぶと、皆すぐに動き出す。
流石は軍をまとめる将だ。
すかさずどうすればいいか判断し指示を出す。
すると後方に控えていた魔術師たちが竜に照準を定め、攻撃用の呪文を唱え始める。
《中級魔法 水槍!》
《中級魔法 火矢!》
《中級魔法 闇球!!》
竜に向かって、様々な魔法が飛んでいく。
そして竜の体に直撃した。
多少効いたのか、竜は甲高い絶叫を上げて暴れ回る。
するとそのチャンスを逃がすまいと槍兵が前に飛び出していく。
「龍突!!!!」
槍兵はそう叫びながら、長い槍を次々竜に突き刺していく。
そしてすぐに後ろに飛び退った。
その攻撃は見事竜にヒットし、竜の体に傷を作る事に成功する。
先ほどの状態に比べて、竜はだいぶ弱ったように見える。
チャンスなら今しかない。
「皆離れて! 私が決める!」
私はそう叫びながら、魔力を高めていき、両手を前に突き出す。
《上級魔法 闇喰!!!》
両手から放たれた闇は竜を喰うように包み込んでいく。
そして闇はどんどん竜を喰らい、飲み込んでいく。
「グゴガァアアアアアア」
竜は断末魔のような悲鳴を轟かせる。
私はしっかりと闇を操り、竜の体を徐々に削っていく。
だが竜も抵抗をやめず、闇に飲み込まれないよう必死に暴れている。
流石にここまで大物を闇で食うとなると、魔力の消費が激しい。
すると突然、私の前をピースが横切る。
《雷光斬ッッッ!》
ピースの雷を伴った斬撃が、竜の体に走る。
すると竜の皮膚は切り裂かれ、その大きな体にも傷がついた。
弱った竜はかなり大きな悲鳴を上げる。
このチャンスを逃さまいと、私は一気に竜を飲み込む。
「ハァァァ!!!」
「グガァァァァァ!!!」
竜の断末魔が辺りに響き渡る。
やがて竜は悲鳴を上げなくなり、闇に飲み込まれていった。
「はぁ、はぁ、やった……」
私は思わず両手と膝を地面につく。
かなり魔力を使ってしまったようだ。
だが作戦は上手くいったので良しとする。
するとピースは私の肩にポンと手を置きながら口を開いた。
「アリス殿下のおかげで竜を倒すことが出来ました。部隊にも大きな損害は無いようです」
私はホッと息を漏らす。
とりあえず目の前の戦闘は終わった。
竜の襲撃によって陣形が崩れてしまったが、まだ時間は十分にある。
「よし、一刻も早くアルバラン王国に向かうわよ!!」
私は急いで立ち上がり、兵士達に向かってそう叫ぶ。
だが兵たちは困惑の表情を浮かべ、私のことを見てくる。
するとピースが私に向かって口を開いた。
「ア、アデル殿下がいません……」
「はあ!?」
ピースは困惑の表情で私にそう言う。
すると周りの兵士たちも、私の目を見ては下を俯いていく。
何やら嫌な予感がした。
まさかアイツ逃げたんじゃないでしょうね……。
「アデルは置いていくわ。急いでアルバラン王国に向かうわよ!」
私はそう叫び、馬に乗りながら部隊に命令する。
するとピースは慌てた様子で私に向かって叫んだ。
「では総大将はアリス殿下で、私を副将に入れてください! 私はアリス殿下を補佐いたします!」
そう叫ぶとピースは私の前に来て跪き頭を垂れた。
そんなピースの様子を周りの兵士たちも見て、次々と私を一目見てから跪いていく。
「わ、分かったわ」
私はそう言って馬を移動する。
兵士たちもその後から続いて移動をするのだった。