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第55話 軍の被害

「はぁはぁ、何とか乗り切ったな」


 俺は息を切らしながら、魔物が後退していくのを見届ける。


 そして額の汗を拭いつつ、辺りに広がっている光景を見た。


 そこには真っ二つに切られた魔物の死骸、そして兵士の死骸がそこら中に散らばっている。


 冒険者は全滅してはいないものの、ほとんどの者が傷を負い、戦意を喪失してしまっていた。


 無理もないだろう。


 突然魔王の幹部が目の前に現れたのだから。


 冒険者の中にはSランク冒険者も数人いたし、怪我をしていない者もいる。


 俺は声を大にして叫んだ。


「1日目を乗り切ったぞ! お前たち!」


 俺がそう言うと、周りの兵士達が声を上げた。


 冒険者も恐怖に呆然としていた者が多くいたが、兵の声を聴いて顔を上げる。


 俺はそんな兵士達に視線を向けながら口を開いた。


「華陽に戻るぞ! それと、怪我人のリストを作っておいてくれ!」


 俺がそう言うと、それぞれの隊長が頷き、走っていく。


 俺はそれを見ながら、遠く先にある丘を見る。


 するとそこには魔物の軍勢、そして魔王幹部の姿があった。


 だが俺はその光景に疑問を持つ。


「な、何で竜がいないんだ?」


 確か魔王軍の幹部、ロゼッタは竜に乗って後退していったはずだ。


 それなのに丘に竜の姿は1頭も見えない。


 俺は眉を顰めてそんなことを考えてながら、自分の手元に目線を下ろす。


 今日は魔力をかなり消費したため、結構疲れて来てしまった。


 華陽に戻り、体を回復させなければ。


 俺はそう考えながら、馬に乗り華陽に戻るのだった。



「無事で何よりです、キシさん、エトラ」


「はい、なんとか」


 俺は華陽に戻り、急いでキシさんとエトラに会う。


 明日に向けて軍議を開くためだ。


 するとキシさんは少し疲れた表情で口を開いた。


「正直、何度も死にかけました。仲間も沢山死にましたし、本当に厳しい戦いでした……」


 俺はキシさんの目を見て少し驚く。


 出陣前のキシさんからは全く感じさせない程、暗く深い目をしていたからだ。


「そうでしたか……エトラは?」


 俺はエトラに視線を向ける。


「は、はい、私もキシさんと同様、辛かったです」


 やはり戦闘で何かがあったのだろう。


 2人が指揮していた軍は沢山死んだと言っていたし、とても辛い戦いだったのはわかる。


 だが、今日は2人に軍議に加わってもらわなければならない。


 なぜなら本番は明日なのだから。


 俺は2人の様子を見て、口を開く。


「今日の魔王軍を見ていて分かったと思いますが、明日はもっと厳しい戦いになります」


「そうでしょうね……。だってあの丘には魔王軍が沢山いたんですから」


 エトラは悲しげにそう言う。


 おそらく明日の魔王軍は舐めてはかかってこない。


 明日、必ず本気で俺たちを殺しにくる。


「今日俺たち中央軍は魔王軍の幹部、ロゼッタと接触しました」


 俺がそう口を開くと、キシさんとエトラは目を見開く。


「魔王軍の幹部!? 一体どんな奴が指揮をしていたんですか」


「鎌のような武器を持った女性です。それに加えて竜を使役していました」


 俺がそう言うと、エトラは顎に手を当てて考え始める。


「幹部……左翼にはいませんでした」


 エトラは冷静にそう答える。


 するとキシさんも口を開いた。


「こちら右翼にも、魔王軍の幹部はいなかったと思います」


 俺はそんな2人の言葉を聞きながら、話を続ける。


「おそらく明日幹部全員が出てくるでしょう。早急に決着をつけたいでしょうし」


「もしその幹部とやらが出てくるのでしたら、明日はいつ壊滅してもおかしく無いですね」


 エトラは冷静にそう言う。


 確かに、もし明日魔王軍の幹部が全員出てきたら、俺たちは間違いなく負けるだろう。


 俺が本気で戦っても1人しか相手が出来ない。


 だが、俺には一つ希望があった。


 その希望とはアルバラン王国からの援軍が今日の夜到着するかもしれないのだ。


 城主は事前に王都にいる国王に援軍を要請していたらしい。


 だから俺はまだ希望を捨てていない。


「おそらくもう少しでアルバラン王国から援軍が到着するでしょう」


 俺がそう口にすると、キシさんとエトラは顔を見合わせて頷く。


 アルバランの王都から華陽まではあまり距離はない。


 それに対してハーキムの援軍はかなり時間がかかってしまう。


 援軍が来ても勝てるか分からないが、少しでも光明が見えると精神状態は安定するものだ。


 すると突然、城壁から歓声が聞こえてくる。


 歓声が聞こえる方向はアルバランの王都がある方角だ。


 その声を聞いた俺とエトラは思わず顔を見合わせた。


「もしかして……!?」


 俺たちが驚いた表情でそう呟くと、キシさんが口を開く。


「行きましょう」


「ああ」


「はい!」

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