「はは! これが僕の軍か!」
今僕はアルバラン王国を救うために軍の指揮をとっている。
軍の数はなんと1万だ。
僕は父上から兵を貸し与えられ、この軍の総大将を任された。
だからこそ僕は有頂天になってしまう。
一国を救うために王子動くなんて前代未聞だろう。
しかも1万もの人を動かすことが出来ている。
これで国を救ったら僕の評価はうなぎ上り間違いなしだ。
それにしても王の間でロランが僕を推薦したのは驚いたな。
リアはロランを総大将に推薦していたが、ロランは僕を推薦した。
まあ僕の方が剣も使えるし、頭もいい。
だから当然と言えば当然だ。
「くく、これで僕の王位は決まったようなものだ」
僕は思わずそう呟いてしまう。
すると横にいた女が話しかけてきた。
「はあ? 王位は私の物よ」
そいつはハーキム王国第二王女、アリスだ。
副官という扱いでこの軍の副将をやらせてもらっている。
アリスは綺麗な紫髪であり、とても美しい容姿だが性格は最悪だ。
「ふん、僕は父上に認められてこの軍を任されたんだ。君はもっと謙虚になった方がいいぞ?」
するとアリスは僕を睨みながら口を開いた。
「あら? 本当はロランが推薦したからでしょ?」
僕はアリスの言葉に思わず怒りが湧いてくる。
まあ確かにロランの推薦がなければ、この軍の総大将は僕ではなかっただろう。
だがアリスだって、あくまで副官扱いであり、信頼されている訳ではない。
だから僕はアリスを睨み返して言葉を発する。
「ふん、今回の主役は僕だ」
「あら、それはどう言う意味かしら? この軍の中で私が一番強いのよ?」
僕の軍の中で一番の実力者といえば、確かにアリスになってしまうだろう。
アリスは上級魔法を網羅しているし、知性もある。
「調子に乗るんじゃない、僕には1万の軍があるんだぞ。全ての軍指揮権を持っているのは僕だけだ」
そう言うと、アリスは深いため息を吐く。
全くムカつく女だ。
だがこの戦いで戦果を挙げれば父上も必ず僕の実力を見てくれるだろう。
そしてもっと僕の評価は上がり、ゆくゆくはこの王国を手中に収めることだって可能だ。
そうすればハーキム王国は僕の物だ。
僕はそんな事を考えながら、馬に乗っていると後ろから声が聞こえてくる。
「アデル様……何か嫌な予感がします」
「うん?」
後ろを振り返ると、そこには近衛隊長であるピースが立っていた。
こいつはセレスと近衛騎士団の隊長を務めている女だ。
今は僕の側近のようなもので、軍の動かし方などをよく助言をしてくれる。
ピースはよく僕に従ってくれて、とても使い勝手がいい。
是非この戦いが終わったら僕の騎士に迎え入れたい。
そんな事を思っていると、ピースが言葉を続けた。
「この魔力は……どこから?」
僕はピースの言葉を聞いて、思わず首を傾げる。
確かに魔力は感じるが、そこまで特別な魔力は感じない。
するとアリスも口を開く。
「ア、アデル! 上を見なさい!」
「ほえ?」
上を見ると空から何かが近づいてきているのが見えた。
なんだ? この魔力は、普通じゃないぞ。
するとそれに気づいたのか、ピースが剣を抜いて僕の前に出る。
「お前たち! アデル様を守れ!」
突然ピースがそんな事を叫んだため、騎士たちはハッと気づいて盾を構える。
すると上から来た影が、僕に近づいてきた。
次の瞬間、僕は強烈な殺気を感じる。
そして気づいたときには横にいた騎士が吹き飛ばされているのが見えた。
あの魔獣はなんだ?あの雰囲気はまるで……化け物だ。
周りの精鋭兵も少し怯えているように感じるし、僕たちより圧倒的に魔力が高いのを感じる。
これはまずいかもしれない。
だが僕は英雄になる男だ。
ここで逃げ腰になる訳にはいかない!
そんな時、空から魔獣が僕の目の前に着地した。
「グァァァァァアッッッ!!!!!!」
「こいつは、竜か!?」
僕の目の前に現れた魔獣は、とても大きく、まるでドラゴンのようだった。
そして口からは強力な魔力を感じる。
「盾兵! 盾を構えろ!」
僕は咄嗟にそう叫ぶと、騎士たちは盾を構える。
だが魔獣はそんなのお構えなしに、口から炎を吐き出した。
そして僕の目の前にいた騎士が一瞬で灰になるのが見える。
「な、なんなんだこいつは! こんな化け物がアルバラン王国の近くにいるなんて聞いた事がないぞ!」
僕はアルバラン王国の周辺に竜がいるなんて情報を聞いてはいない。
するとアリスが魔獣を睨みながら口を開いた。
「この竜は……おそらく魔王軍の竜よ」
アリスはそう呟いた。
だが僕には信じられない。
だってここは魔王軍の領地じゃ……。
いや、もしかしたら魔王軍はハーキムの援軍がくることを知っていて、ここに竜を飛ばしたのか。
くそ、こんなに魔王軍とは強いのか。
すると竜は僕の顔を見て、鋭い視線を向けてくる。
そしてそのまま再度咆哮を放ったあと、またもや僕たちに炎のブレスを撃ってきた。
「アデル様! 失礼!」
すると隣にいたピースが僕を抱きしめ、その場から瞬時に離れる。
そして次の瞬間、僕の近くにいた兵士が炎に飲み込まれてしまう。
「う、嘘だろ……」
僕はあまりの出来事に言葉を失ってしまう。
だってさっきまで行動していた兵士が一瞬で炎に飲み込まれてしまったんだ。
するとアリスが竜に向かって、魔法を放つのが見えた。
《上級魔法 闇槍》
アリスの放った黒い槍は竜に向かって飛んでいくが、竜は翼を羽ばたかせ、その魔法を回避する。
「ちっ! 上級魔法 《闇渦》」
アリスは舌打ちをしたあと、竜に向かって上級魔法を繰り出す。
闇の渦が竜を飲み込んでいき、そしてそのまま竜を巻き込んで破壊しようとする。
だが、突然黒い渦が消えてしまった。
「グガァァァァァア!」
すると竜はアリスの魔法を咆哮でかき消し、そのままアリスに向かって炎を吐き出そうとしている。
《剣技 紫電!!!》
僕の横にいたピースは、突然走り出し、竜に向かって目にも留まらぬ速さで突きを放った。
まるで雷のような動きで竜に向かっていくピース。
「な、なんだこの硬さは! ぐあ!」
だが竜はピースの剣を腕で弾き返し、そのままピースを殴り飛ばす。
そしてそのままピースに向かって炎を吐き出そうとする。
まずい、このままではピースがやられてしまう。
「く、くそ! 《中級魔法 水弾》」
僕はそう叫び、竜に向かって中級魔法の水弾を放つが、竜は翼を羽ばたかせてその魔法を防ぐと、そのまま僕に視線を向けてくる。
恐怖、絶望、そんな感情が僕の中で渦巻いてしまう。
そして竜は僕に向かって炎を放とうとする。
「ぼ、僕は無理だあああああああ!!」
僕は思わずそう叫び、近くにいた馬に跨がる。
そして全力で馬に鞭を入れて、その場から逃げ出そうと馬を走らせる。
「ど、どこに行くんですか! アデル様!」
後ろから声が聞こえるが、今の僕には足を止める余裕はない。
とにかくあの竜から逃げたいという気持ちしかなかった。
そして僕はそのまま馬を走らせて、戦場から逃げ出すのだった。