「ふむ、胡威がか……」
儂はアルバラン王国の国王、グドラ・ルド・アルバランだ。
現在我が国は魔王軍の侵攻を防ぎきれていない状況だ。
半分の領土を魔王軍の手によって奪われ、その侵攻をなんとか食い止めている状況である。
そしてそんな時だ、王の間にて急報がやってくる。
なんでも胡威が陥落し、華陽が魔王軍に攻められているとか。
このままではすぐにでも華陽を魔王軍が落とすだろう。
そうなると取り返しのつかないことになる。
「うむ……ハーキム王国の援軍はいつくる?」
儂がそう呟くと、隣にいた大臣が喋り出す。
「お、おそらく明日になるかと……。1万の軍勢を率いているので時間が掛かっているのです」
確かに援軍が遅くなるのは仕方がない。
だが出来れば今来て欲しいところだ。
すると1人の兵士が王の間に入ってくる。
その兵士は息を切らしており、かなり急いできたようだ。
「ほ、報告! 現在華陽は魔王軍と交戦中! 華陽より援軍が求められてます!」
儂は思わず目を見開く。
どうやら華陽では魔王軍と激戦を繰り広げているらしい。
だが華陽に優秀な将はおらず、兵も精鋭ではないため激戦を繰り広げる程の余裕はないはずだ。
すると、そんな儂の考えを読んでいたかのように、兵士が口を開く。
そして兵士から発せられた言葉は、衝撃的な内容であった。
「へ、兵を率いているのは冒険者の模様です!」
「ほ、本当なのか?」
儂は思わず言葉を失った。
まさか本当に華陽が魔王軍の大群と戦っているとは思わなかったからだ。
すると、横にいた総司令官が口を開く。
「ふむ、その話を詳しく聞かせよ」
「は、はい! まず華陽の軍は合計で3000人弱です。そしてその3000の兵を分担し、2人の冒険者と華陽の将が指揮をしております。そして冒険者は2人共、かなりの腕を持つ冒険者らしいです」
儂はその話を聞いて思わず唖然としてしまう。
3000の兵をただの冒険者が指揮をしているなど、前代未聞だ。
すると総司令官は、顎に手を当てながら考えるように呟いた。
「戦が出来ているということは、軍略の経験が豊富な人物なのであろう……一体その冒険者は何者なんだ?」
確かに総司令官の言う通りだ。
兵を1人で統率できるとなると、余程戦闘に長けた者だろう。
それに城主も冒険者にただで兵を預ける馬鹿ではなかろう。
「冒険者の詳細はまだわかっておりませんが、魔法を使える冒険者が2人いるそうです」
儂は思わず目を見開く。
魔法が使えるということは貴族か、高ランク冒険者だろう。
「そうか……よし、もう下がってもいいぞ」
総司令官がそう言うと兵士は一礼して、王の間から去っていく。
儂はその様子を見たあと、総司令官に話しかける。
「こんなことがあるのじゃな」
すると総司令官も同意するように頷いた。
そして総司令官はゆっくりと口を開く。
「とりあえず、華陽に軍を送りましょう。ハーキム王国からの援軍はまだ時間が掛かります、彼らに任せるしかありません」
儂は総司令官の言葉を聞いて頷く。
とにかく今は冒険者とやらに任せるしかないようだ。まあ、
「聞いておるか、《水の賢者》ラメールよ」
「スピー」
「起きぬかラメール!!」
「はっ!」
儂がそう叫ぶと、ラメールはハッと目を覚ます。
ラメールの容姿は水色の髪の毛をしており、とても綺麗な少女だ。
そしてアルバラン王国の守護神であり『水の賢者』と呼ばれているアルバラン王国の最高戦力。
ラメールは水書を持っており、水属性の魔法の全てを使うことが出来る。
だがこの賢者は、重要な時にいつも寝ている。
だが魔法の腕は一流だ。
するとラメールは儂の方を見て、眠たそうな声で言う。
「どうしましたかグドラ陛下~」
「お主、さっきの話は聞いておったか?」
ラメールは頷くと、口を開く。
「はい、冒険者が華陽で頑張ってるって話ですよね? 凄いです」
ラメールは先程のような眠たそうな口調では無く、しっかりと喋っている。
「まあ私はいつでも戦えますので、問題無いです~」
ラメールはそう言ってふわふわと浮いてみせる。
儂は少しため息を吐いて、総司令に向かって口を開く。
「そういえば援軍を送ると言っていたが、どの将を援軍として送るつもりなんだ?」
というのもこのアルバラン王国にそこまで戦える将軍はいない。
すると総司令は眉間に皺を寄せながら口を開いた。
「これは陛下に申し上げにくい事なのですが……」
「だ、誰じゃ?」
するとフワフワと浮かんでいたラメールが口を開く。
「もしかしてルーキス?」
「な、なんじゃと!?」
ルーキスとは儂の娘である。
儂の1番の娘であり、アルバラン王国第一王女だ。
確かにアルバラン王国では戦姫とも呼ばれてはおるが、まさか援軍をルーキスにやらせるつもりなのか。
流石にあの戦場にルーキスを送り込むのは、儂でも不安になってしまう。
そう思っていると突然王の間の入り口が開き、1人の剣士が入ってきた。
その剣士は綺麗な黒色の髪をしており、とても美しい容姿をしている。
「ル、ルーキス!? なぜここにいるのじゃ!」
そう儂は無意識に叫んでしまった。
まさかルーキスが来るとは思っておらず、不安になってしまう。
するとルーキスは儂の前まで来て、口を開く。
「父上、私は援軍に行きます」
儂は思わず言葉を失ってしまう。
まさか自分の娘がこんな戦場に自ら行くと言うとは思ってもいなかったからだ。
「じゃ、じゃが」
「現在華陽では我が国を守る為に戦っているのです。私は王女として見て見ぬ振りをする訳にはいきません。だから私は行きます」
「むう、仕方ない、分かった。ルーキスに1000人の兵を預ける」
「ありがとうございます、父上」
ルーキスはそう言って頭を下げると、王の間から出ていく。
正直言ってルーキスの事が心配じゃ。
じゃが今は王国の危機、私情を挟んでは国は守れぬ。
「頼むぞ、華陽の者達よ」
儂は天を見上げながら、そう呟くのだった。