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第51話 魔王軍の幹部

「盾兵! 防御体制を維持しろ!」


 俺は急いで盾兵に指示を出す。


 すると盾兵はすぐに盾を地面に置き、防御体制をとる。


「流石に数が多すぎて捌ききれないぞ!」


 盾兵がそう叫ぶ。確かにゴブリンの数が多すぎて、盾で防ぎきれない。


 すると冒険者達が、剣を持って前に出てくる。


「おらぁぁ!」


 そして剣を振り、ゴブリンたちを斬りつけていく。


 だがいかんせんゴブリンの数が多すぎて倒しきれない。


「くそ、なんとかしねえと」


 俺がそう呟く。今目の前ではゴブリン達が進軍している。


 俺の魔法を使えば一瞬で殲滅できるが、魔力の消費が激しく、連発は出来ない。


 それにこの魔王軍には指揮をしている奴がいるはずだ。


 そいつが出てくるまで俺は魔力を温存しておきたい。


「エトラとキシさんの戦況はどうなっている?」


 俺は近くにいた冒険者に聞く。


 すると冒険者は前を向き、そして口を開いた。


「我々と同じで、ゴブリンの数に苦戦しているようです」


「そうか、やはりこの数を相手するのは、少し厳しいな」


 俺はそう呟く。だが、今ここでゴブリンを食い止めなければ、華陽は魔王軍によって陥落してしまう。


 それだけは避けなければならない。


「とりあえず1日目は耐え抜け! 明日にはアデル王子の軍が到着する!」


 俺がそう叫ぶと、盾兵が頷く。


 俺は士気が下がりそうになるのをおさえ、すぐに戦場に目を向ける。


「あ、あれ?」


 俺は思わず呟く。なぜならば突然魔物達が、後退をし始めたからだ。


 その光景を見た俺は思わず呆然としてしまう。


「た、助かったのか?」


「す、すげえ!」


 魔物が後退していくのを見て、冒険者達がそう叫び出す。


 だが俺はそんな冒険者達に向かって叫んだ。


「いや、まだだ! 警戒を怠るな!」


 俺がそう叫んだ瞬間、大きな地鳴りが聞こえてくる。


 その地鳴りはどんどんと近づいてくる。


「カーメンさん! あれを見てください!」


 冒険者の1人が叫び、ある場所を指さしている。


 俺はその冒険者が指を指している場所に目をやる。


 するとそこには一人の少女がいた。


 いや、少女だけじゃない、後ろには巨大な竜が1匹いる。


 その少女は、俺に向かってこう呟いた。


「あちゃー! まさかゴブリンちゃんたちがやられちゃってる? もう! ごめんね、遅くなっちゃって」


 その少女は紫の髪をしており、そして大きな鎌を背中に背負っていた。


 後ろにいる竜はその少女に懐いており、まるでペットのように頭をこすりつけている。


「な、なんだ、あいつは」


 俺は思わずそう呟く。


 おそらく俺たちと戦っていた魔物よりも遥かにランクは上だろう。


(まさか……魔王軍の幹部クラス!?)


 すると俺の考えをくみ取ったかのように、その少女は口を開いた。


 「あれれ? もしかして私の事、魔王軍の幹部だと思っちゃった?」


 俺は思わず目を見開く。


 だが少女はそんな俺の反応が面白かったのか、腹を抱えて笑い出した。


 そしてひとしきり笑った後、少女は俺に向かって口を開く。


「私はね! 魔王軍の幹部の1人だよ! 名前はね……ロゼッタ!」


 その言葉と同時に、ロゼッタは鎌を兵達に振り下ろそうとする。


《炎槍!!!》


 俺はすぐさま上級魔法の《炎槍》をロゼッタに向かって撃ち込む。


 するとロゼッタは魔法を見切ったように躱し、俺に向かってこう言った。


「凄い魔法だね! もしかして君がこの軍の指揮官かな!?」


 少女は笑みを浮かべながらそう言うと、鎌をもう一度振り上げ、俺に向かって振り下ろす。


「カーメンさんから、離れろ!!」


 すると、1人の冒険者がロゼッタに向かって剣を振りかざした。


 だがロゼッタはそんな攻撃を軽々と躱す。


 そして少女は冒険者の首に鎌を突きつける。


「はい、残念!」


 そしてロゼッタはそのまま冒険者の首に向かって鎌を振りかざし、冒険者は口から血を吐く。


「く、くそ! 盾兵! 盾を掲げろ!」


 俺がそう叫ぶと、盾を持った兵士達が一斉にロゼッタに向かって掲げる。


 するとロゼッタは残念そうに大きなため息を吐いた。


「あーあ、残念」


 ロゼッタはそう言うと、鎌を振り下ろした。


 そして盾に衝撃が走り、次の瞬間盾兵が斬り刻まれていく。


 魔物が死んでいくのは今まで見たことがある。


 だが人間……ましてや仲間の兵士が目の前で殺されていくのを見るのは初めてだ。


「さあ竜ちゃん! 蹂躙の時間だよ!」


 ロゼッタがそう叫ぶと、先ほど背後にいた竜が大きな雄叫びを上げ、兵たちを次々を焼いていく。


 その光景はまるで地獄絵図だ。


 それにロゼッタの攻撃が強力過ぎる。


「ここで使う事になるなんてな……」


「うんん? 何か言ったかな?」


 ロゼッタは俺の言葉を聞いて、首を傾げながらも俺に近づいてくる。


《最上級魔法 炎竜憑依》

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