その言葉に、部屋の中にいた全員の視線が私に集まる。
「うむ、順調じゃぞ」
グロン爺はそう言う。
グロン爺の言う通り、私たちの計画は順調に進んでいる。
ルグシア学園から魔法書を転送し、それらを複製して組織の強化や資金集めに活用しているのだ。
魔法書というものは非常に高価で、普通の人間では到底手に入れることができないもの。
王都の本屋には確かに魔法書も並んでいるが、せいぜい第八級レベルの魔法書が関の山だろう。
それでも、一般的な冒険者や魔法使いにとっては、貴重な資料としての価値は十分にある。
だが、ルグシア学園の魔法庫、あそこにある魔法書は一味違う。
普通の魔法書とは違い、あそこには上位の魔法が書かれた書物が並んでいる。
これを手に入れれば、魔術師を極めようとする者にとって、まさに夢のようなチャンスだ。
上級魔法が使えるようになれば、世界が変わる。
その力を得ることができれば、ただの魔術師から王国をも揺るがす存在にまで成り上がることが可能だ。
(だから、私たちはその魔法庫に目をつけ、魔法書を転送しているというわけだ)
私は軽く肩をすくめる。
その裏には何度も繰り返し計画を練り、リスクを取りながら行動してきた成果がある。
私たちは、他の誰にも気づかれないように、巧妙に魔法書を手に入れてきた。
だが、それだけではない。
この計画には、王国の第二王子、クロドの協力も不可欠だった。
「それに、クロドも了承済みだしな」
言葉と同時に、私は部屋の隅にある机に置かれたクロドの肖像画をちらりと見やる。
あの冷徹な王族の顔が、まるで私たちの活動を監視するかのように、そこに無言で存在している。
だが、その顔を見ても、私は一切の不安を感じることはない。
クロド、王国の第二王子。
かつては王位を争う者たちの中でも、あまり注目されていなかった存在。
しかし、今ではその影響力を急速に高め、私たちと手を組むことを選んだ。
それは、ただの偶然ではない。
彼もまた、次期王を決めるための支持率争いにおいて、私たちの手助けを必要としているのだ。
(奴のおかげで随分事が進み、ルグシア学園のセキュリティを潜る事が出来ている)
クロドの協力なしでは、私たちがあの魔法庫に忍び込むことなど到底不可能だっただろう。
学園の警備は厳重で、外部の者が簡単に入り込めるような場所ではない。
しかし、クロドが裏で手を回してくれたおかげで、私たちは自由にセキュリティの出入りをすることができるようになったのだ。
「まさか、民達はこの犯罪組織、『黒神』に王国の第二王子、クロドが黒幕だとは思わないだろう」
その通りだ。
クロドが私たちと組んでいることなど、普通の市民には知る由もない。
彼の立場や名誉を考えれば、この協力関係が世間に知られることは到底許されないだろう。
だからこそ、私たちの活動は裏で静かに進行している。
クロドの支援を受けつつも、私たちはあくまで目立たず、慎重に動かなければならない。
(どうやら王国内では、次期王を決めるべく、王族同士で支持率の争いが起きているらしい。その支持率を得るためには、私たちの活動がクロドの目的と一致しているとか)
クロドにとっては、私たちの行動が次期王を狙うための布石となる。
「だが油断はするなよ、グロン爺。第三級魔法が使える人間がいるんだ、予期せぬ事態が起きるかもしれないぞ」
私は、席に座っているグロン爺に忠言をする。
「それはそうじゃろうが、あの洞窟のトラップは尋常ではないしのう」
グロン爺は軽く笑みを浮かべて言うが、その言葉の背後には、確かな自信と同時に慎重さも含まれている。
グロン爺の言う通り、あの『暗闇の洞窟』には恐ろしいトラップが仕掛けられている。
それでも、私は冷静さを保ちながら、最悪の事態を想定して準備を進めている。
「まあ、何かあれば私と『フユ』の二人でなんとかするつもりだが」
私の言葉に、幹部達は静かにうなずく。
「それなら問題はないな」
その言葉を合図に、部屋の空気が再び和らぐ。
「早急に目的を達成する、皆良いな?」
私は冷静に言葉を締めくくる。
部屋の中の全員が頷き、再びその目的に向かって動き出す準備を整える。
私たちが求める『復活』さえ実現すれば、すべてはうまくいく。
そう確信して、私は一度、ニヤリと笑うのだった。