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第53話 鉄の巨人、ゴーレム

 どんどん近づいてくる揺れ。


 まるで何かの巨体が地面を叩いているかのように感じ取れる。


 どんどんとその震動が強まる中、あのフードを被った男が魔法陣の展開をやめて、俺たちに冷ややかな視線を向けて言い放つ。


「もうお前らに命はねえよ。残念だったな」


 その言葉はまるで冷たい刃物のように胸に刺さり、俺の心に不安の種を蒔く。


 男はそう言ってから再び背を向け、逃走を始めた。


 一体何がしたいのか、俺はその行動の意図を掴むことができずに、ただ思考を巡らせる。


 そんな中、隣にいたリザラが男を追いかけるために足を進めた。


「ちょっと、待ちなさい!」


 彼女の叫びは洞窟の静寂を破り、エコーのように響き渡る。


 しかし、リザラが足を進めた瞬間、地面が叩き割れた。


「ゴオオオオオオオ!!!!!」


 突如として現れた巨大なゴーレム。


 その姿はまさに恐怖そのものであり、岩と土でできたその体は、不気味なまでに威圧感を放っていた。


 どうやらあの男は、魔法陣を展開し、地面に振動を与えることで、この洞窟の守護者であるゴーレムを引き寄せたらしい。


(厄介だな、ゴーレムは前世の敵モブとして強かった記憶がある)


 俺の頭の中には、前世の記憶が呼び起こされる。


 ゴーレムは屈強な鋼の体を持ち、HPはかなり多かった。


 それに加えて、あの拳に宿る破壊力は計り知れない。


 全体重を乗せたその拳は、たとえどんな防御魔法のバリアも一瞬で崩してしまうだろう。


 冷や汗が背筋を流れるのを感じながら、俺はリザラに向かって尋ねる。


「リザラ、連携の戦闘経験はあるか?」


「ええ、多少はあるわよ」


 リザラの答えには自信が感じられた。


 それならば、俺の戦術を彼女に伝えよう。


 彼女は前衛として戦ってもらい、俺は後方から魔法で支援する。


「なら俺が後方から魔法で支援をするから、前衛として奴を引きつけながら戦ってくれ」


「分かったわ!」


 俺は彼女に指示を出し、共にゴーレムを倒すための行動を開始する。


 リザラは一瞬でゴーレムとの間合いを詰め、剣を構える。


 彼女の目には決意が宿り、力強い一撃を繰り出す。


 しかし、その刃はまるで鋼の壁にぶつかるように、全くと言っていいほど歯が立たなかった。


 リザラの振るわれた刃先は跳ね返り、その反動で彼女は体勢を崩してしまう。


 すると、ゴーレムはその隙を狙うかのように動き出した。


《第三級魔法/フェニックス・フレイム》


 俺の片手から放たれた炎の塊が、ゴーレムの体に直撃する。


 煉獄の如く燃えさかり、奴は白煙に包まれた。


 しかし、ゴーレムの鉄壁とも言うべき鋼の体には、微塵の傷すらつかないようだった。


「ガアアアアアア!!!!」


 ゴーレムは怒りの咆哮を上げ、リザラを無視して俺に目掛けて突進してくる。


 その巨体はまるで自然災害のようで、逃げる間もなく拳を振り下ろしてきた。


 俺は瞬時に対応し、その悪魔的な拳から逃れるために転移魔法を発動する。


「流石はゴーレムだな。《第三級魔法/ヴォイド・シフト》」


 無の力を利用して、リザラの元へ転移する。


 この魔法は普通の転移魔法とは違い、転移した場所が分かりにくいという特徴がある。


 俺が突然姿を消したのを見たゴーレムは、驚いた様子で周りを見渡している。


 俺はリザラの方へと視線を送り、状況を確認する。


「リザラ、一応、奴の弱点が分かったぞ」


「え!?」


 俺はゴーレムが突進してきた際に気づいたことを説明する。


 奴の目には宝石が埋め込まれているのだ。


 普通、ゴーレムというのは体のどこかに宝石、言わばコアが埋め込まれており、それを破壊することができればゴーレムを倒せる。


 しかし、今回のゴーレムにはそんな宝石が見当たらなかった。


 俺は試しにフレイムを放ち、奴の弱点を探していたのだが、幸運にも近くに来てくれたことで、少しでもその情報を得ることができた。


 そんなことを考えていると、ゴーレムは俺の居場所に気づき、再度走り出して突進してくる。


「リザラ、注意を引き付けてくれ。そうすれば一瞬で片を付けられる」


「了解」


 俺はリザラに指示を与える。


 彼女の鋭い反応は頼もしく、信頼を寄せるには十分だった。


 先ほどからゴーレムは俺を集中的に狙っているが、おそらくリザラとの比較から、まず俺を始末した方が良いと判断したのだろう。


 なかなか賢い魔物だ。


 しかし、それに対抗するための戦略はしっかり立てていた。


「喰らいなさい、ゴーレム!《第四級剣技/《タイド・水刃》」


 水の刃が、ゴーレムに対して連続して流れるように斬りかかる。


 まるで水のようなしなやかさを持ちながら、リザラはゴーレムの攻撃を巧みに回避し、反撃を続けていた。

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