「も、もしかしてあなた、レッドストーンの受け取りをする際に邪魔した奴じゃないわよね？」

　突然、レードが鋭い視線をこちらに向け、問いかけてきた。

　表情には薄ら笑いを浮かべているが、その背後には明らかな殺意が滲み出ている。

　俺は肩をすくめると、少し過去の出来事を思い返した。

　そうだ──確かにレッドストーンを取引しようとしていた連中を、片っ端から氷漬けにしたのは自分だった。

「ああ、そんな事もあったな、確か氷漬けにした記憶があるが……」

　俺の言葉を聞くや否や、レードの表情が激変する。

　冷たい笑みから怒りと憎しみが湧き上がり、その全身が一瞬で戦闘態勢に入った。

「くそがああああ！！！！　《第四級剣技/ミスト・幻影斬！》」

　瞬間、周囲の霧がレードを中心にして渦を巻くように広がる。

　その濃霧はレードの姿を完全に覆い隠し、まるで幽霊のように消え、視界から消えた。

　だが、俺は焦らない。

　ミスト・幻影斬……この剣技は霧を利用して視覚を遮り、死角から攻撃する技だ。

　しかし、俺には効かんがな。

「いい剣技だ……だが、《第三級魔法/ドラゴニック・ストーム》」

　俺は即座に竜巻を生み出す魔法を発動させる。

　強大な風の渦が目の前に巻き起こり、唸り声を上げながら霧もろとも引き裂いていく。

　俺の竜巻はただの広範囲魔法ではない。

　竜の力を宿した風の流れは、どんな隠れ身も、どんな幻影も一瞬で暴き出し、絶対的な破壊力で敵を粉砕する。

「ぐあああああああ！？」

　レードの悲鳴が竜巻の中から聞こえてくる。

　彼女の体は容赦なく風に巻き込まれ、その肌には次々と切り裂かれた傷が刻まれていく。

　レードは剣を振り上げ、必死に防御しようとするが、無駄だ。

　風の一撃一撃がまるで刃物のように鋭く、肉を削り取るかのごとくレードの体を蝕んでいく。

　レードがどれだけ必死にもがこうが、俺の竜巻が終わりを迎えるまで逃れる術はない。

　やがてレードの体力が尽き、震えながら倒れ込む姿が竜巻の隙間から見えた。

　俺は満足げに竜巻の魔法を止め、瀕死のレードを見下ろす。

「た、たずけでくだ」

　レードが息も絶え絶えに懇願してくる。

　血に染まったその顔に浮かんでいるのは、もはや誇りも覚悟も捨て去った人間の、ただ生き延びたいという本能的な願いだけだった。

「まあ待て、貴様を生かすか殺すかは俺の仲間に委ねようと思う」

　俺は少し視線を外し、奥にいる小柄で愛らしい魔法使い──ルンに目をやった。

　ルンは戦闘の様子を固唾を飲んで見守っていたが、俺がレードに命を委ねた瞬間、その顔には微妙な表情が浮かぶ。

「ア、アレン、私は……」