「ここで待ち伏せだ……」
薄暗い廊下で僕はじっと息を潜め、生徒会室からアレンが出てくるのを待っている。
本来、この場所に立つべきはこの僕、カイル・リューコスだというのに――なぜあの悪名高い貴族、アレンが生徒会室に招かれているのか、理解できない。
「絶対に殺してやる、今の奴は僕がここにいるなんて思ってもいないだろう」
思い返せば、あの決闘で僕は気絶し、無様に場外負けとなってしまった。
しかし、かろうじて耳に入ったのは、アレンが生徒会に招かれるという信じられない話だった。
どうしてエイダはあんな奴を?
こっちは最強のスキル《剣聖》を持っているというのに。
「早く出てこいよアレン……今すぐ僕の魔法弾で消し去ってやる」
右手に溜めた魔力がじわりと熱を帯び、手元に集まっていく。
これを奴の頭に叩き込めば、間違いなく息の根を止められるはずだ。
「怒りが収まらん、楽には殺さないからな」
まずは足だ。
次に手、そしてじわじわと痛みを与え――最後に頭を撃ち抜いてやる。
想像するだけで、胸の内に復讐の炎が燃え上がってくる。
くく、奴の苦しむ姿が楽しみだ。
僕は息を潜め、静かにアレンが出てくるのを待っていると、ついにドアが開き、奴が姿を現した。
(まだだ……エイダにバレない距離まで待つんだ)
アレンが廊下を少し離れたその瞬間、魔法弾を放つ準備が整う。
「ここだ! 死ねアレン!!」
僕は狙いを定め、アレンの足元に向けて魔法弾を放つ。
まずは足を封じ、奴の苦しむ姿を見届けてやるつもりだったが――
「な、何!?」
アレンの足元に向かっていた魔法弾は、突然、掻き消されるようにして消えてしまった。
奴の周囲に触れた瞬間、まるで跡形もなく消え去るのだ。
「な、何が起きているんだ!?」
焦った僕は、次にアレン全体に向けて魔法弾を放つ。
まさかエイムが悪かったなんてありえないが、念のため連続で放ってみる。
しかし――
「な、なんで消えるんだ!?」
いくつもの魔法弾がアレンの近くに届く度に、消える。
まるで最初から存在しなかったかのように。
しかも信じられないことに、アレンは僕の存在など知らぬふりで、ただ平然と歩いている。
こ、こんなこと……!
「魔法が消えるなんてありえない、な、何をしたんだ」
たとえ上級の魔法を扱える者でも、魔力そのものを無効化する魔法なんて存在しないはずだ。
それに僕は最大限まで魔力を溜めて放っているというのに、何故……何故僕の魔法が消えてしまうんだ!
悔しいが、ここは一旦撤退するしかない。
魔力を無効化されるなんて、聞いていないぞ。
「ぜ、絶対に殺してやるからな、アレン……!」