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第20話 オークの死体から宝石

 あの後、俺たちは怪我をした冒険者たちを無事に保護し、王都の街まで送り届けることができた。


 初めての本格的な魔物との戦いだったから、正直言って少し緊張していたが、結果的にオークはそれほど強くなかった。


(全く、オークは図体だけだったな)


 俺がそんな余韻に浸っていると、ユキが先に冒険者ギルドの扉を開けて、中に入っていく。


「無事到着、っと、私が先に受付嬢の所に行って説明してくるね!」


「ああ、頼む」


 俺達も後に続いてギルドに入ると、受付嬢が驚いた様子でこちらに駆け寄ってきた。


 その視線が俺に注がれているのが分かる。


「ほ、本当にあなたが一人でオークを討伐したんですか? しかも魔法で!?」


 受付嬢の驚いた表情は隠しきれていない。


 まあ、無理もないか。


 普通、新米冒険者がいきなりオークを倒したなんて話、信じる方が難しいだろう。


 俺もその立場だったら同じ反応をするだろうし。


「い、いや俺だけの力じゃ……」


「はい! アレンが魔法でオークを討伐しました! 私たちも戦っていたんですが、隙を突かれてオークがアレンの方に行きまして!」


 ユキが興奮気味に、そして生き生きとした声で、あの場で起こった出来事をすらすらと説明し始めた。


 その勢いは止まらず、まるで自分がその場で実況しているかのように話す。


(そりゃあ普通に考えたら、今日初めて登録したばかりの冒険者がオークを魔法で討伐したなんて、誰だって信じられないよな……)


 受付嬢は、最初こそ信じられないという表情を隠せずにいた。


だがやがて、俺の魔力測定の結果を見た時のことを思い出したのか、後半になるにつれてその驚きは納得に変わっていく。


 そして受付嬢はユキの話を聞き終わると、カウンターの奥から報酬袋を取り出す。


「こちらが今回の依頼を引き受けていただいた報酬です!」


 ユキはその報酬袋を受け取り、目を輝かせながら中を確認する。


「銅貨が5枚、銀貨が2枚か。おお、結構儲けたな!」


 ゴウは相変わらず、どんな場面でもポジティブな一面を見せる。


 報酬金の額に興奮しているゴウを見て、俺もつい笑ってしまった。


「今日は温泉にでも入ってゆっくりしてくるか!」


 ゴウのその言葉に、ルンがすかさず反応する。


「私は魔法書を買いたいよ~!」


 ルンも相変わらずだ。


 ルンはいつも何か新しい魔法の知識を追い求めている。


 オークを討伐した後の帰り道、ずっとルンは俺に魔法書の話をしていた気がするが、それだけ本気で魔法に打ち込んでいるということだろう。


 そんな2人を見て、ユキが急に真剣な顔になり、口を開く。


「待って、2人とも! 今回はアレンのお陰で勝てたんだから、まずはアレンに意見を聞くのが筋でしょ!」


「そ、そうだな……」


 ゴウが少し照れたように頷き、ルンも同じく俺を見つめてくる。


「アレン、何に使いたい~?」


 俺が活躍したことを3人とも認めてくれているのがわかる。


 でも、正直に言って、俺は特に欲しい物がないんだ。


 何せ前世のアイテムが引き継がれているから、必要な装備も基本的には揃っている。だから――。


「俺は今のところ欲しい物はないから、3人で自由に使ってくれ」


「え、良いの? 別に遠慮しなくてもいいんだよ、アレン?」


「大丈夫だよ、俺が欲しい物は全て揃ってるしな」


「そう? なら、このお金はパーティーの強化のために使うね!」


 ユキは満足げに微笑みながら、報酬をパーティー全員、平等に分け始める。


 全く、ユキのリーダーシップには毎度感心させられる。


「アレンも、このお金を使って魔法書とか買っていいんだよ! これはパーティーの強化に必要なものだから、ね!」


 ユキは強引にお金を俺に押し付けてくる。


 なんだかんだで、パーティーのことをしっかり考えてくれているのがわかるな。


「じゃあ……俺はこのお金で、暇な時に訓練所でも行ってみるか」


「うんうん! そうして!」


「よし! それじゃあ、ギルドを出て買い物に行くぞ!」


 ゴウが勢いよく声を張り上げると、ルンもその声に応じるように続く。


「私も魔法書買いたい~!」


 そして、俺たちはギルドを出ようとして扉に手をかけた――その瞬間だった。


「待ってください!」


 突然、受付嬢が慌てた様子で、俺たちの方に駆け寄ってくる。


「先ほど提出していただいたオークの死体から、こんな宝石が出てきたのですが……」


「な、に?」


 俺は不穏な予感を感じながら、その宝石に視線を向ける。


 これは……ただのオークが持っているようなものじゃない。


 その輝きは異常で、まるで何かを秘めているかのような……不吉な兆しが俺の胸に響いてくる。


「レッドストーンか?」

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