審判は大声で、そう宣言する。
正直、決闘の感想なんだが、あまりにも拍子抜けで俺はガッカリしている。
あの圧倒的な勇者であるカイルが、たかが第3級魔法でこんなにやられるとは。
もしかして鍛錬をサボっていたのだろうか、でなくては、あんな魔法なんて簡単に対処出来るはずだ。
「お、おい、どうなってんだよあれ?」
「だ、第3級魔法だよな? あれってアレンの父親と同じレベルの魔法じゃないか?」
「アレンって、実はめちゃくちゃ強いの?」
貴族達のそんな声がちらほら俺の耳に入ってくる。
目立たないように学園生活を送ろうと思っていたんだがな、仕方ないだろう。
俺がそう思っていると、観客席にいた俺のメイド、リュカがジャンプして俺の元に駆け寄ってくる。
「ア、アレン様、本当に凄いです! 隠れて魔法を習得していたんですね! しかもアレン様の父、デリック様と同じ第3級魔法を習得していたなんて……」
そう言ってリュカは俺に抱きついてくる。
「ち、近いぞリュカ、それに周りからの視線も」
「抱かれたい……」
「な、何!?」
サラッとリュカは俺にとんでもない事を言ってくる。
なんかゲームの時よりも少し過激になっている気がするんだが……まあスルーしておくのが無難だな。
そんな事を思っていると、横から長髪の赤色をした女性が俺の前に来る。
「アレン様、お楽しみの所申し訳ないのですが、少しお時間宜しいでしょうか?」
俺は周りからの視線が痛いので、興奮気味のリュカを引き剥がそうと奮闘していると、令嬢らしき人物が俺に話しかけてきた。
「君は誰かな?」
「私は魔法学園の生徒会長、エイダです。少々アレン様とお話しをしたいのですが……」
この人は公爵家の令嬢、エイダ・レール・ティン。学園の生徒会長であり、主人公のヒロインでもある。
本来はこの決闘に勝利し、圧倒的な差を見せ付けた勇者であるカイルに目を付けるはずなんだが……。
「すまないが、話す時間は無い。それと、俺ではなくあそこに倒れているカイルと話してみてはどうだろうか?」
「いえ、私はアレン様とお話がしたくここに居ます。今日でなくても、明日でも良いので話す時間を設けて頂けないでしょうか?」
「明日は無理だ、大事な用事がある。明後日なら時間は空いてはいるが……」
「ほ、本当ですか! では明後日、夕方に生徒会室に来て下さい! あ、お好きなお菓子とかありますか?」
「別に、好きなお菓子はな……」
「アレン様の好きなお菓子はチョコです」
「リュ、リュカ、そんな事を言わなくても……」
「ではアレン様の好きなチョコを用意してお待ちしていますね!」
そう言ってエイダは俺の手を握り、微笑む。
なんかどんどん会話を進められてる気がするんだが、まあいいか。
「おいおい、アレンの奴、生徒会長に声を掛けられてるぞ」
「ど、どうなってんだよ?」
「あいつ、生徒会に入るのか?」
だんだん周囲の貴族達が騒ぎ始める。
俺もまさか生徒会長に誘われるなんて思いもしなかった。
本来のシナリオだと、アレンなんか見向きもされなかったのに。
そんな事を考えていると、観客席にいる第二王子、クロドが舌打ちをしてブツブツと喋っている。
――――俺の計画の邪魔になるかもしれんな。
クロドはそう言いながら、席を離れていく。
今計画がなんちゃらって言ってなかったか?
本来のシナリオには無い展開だが……どうなっているんだ?