「ユウト、久しぶりだな!」
「ヒカリも元気そうだな」
ヒカリとユウトがハイタッチで挨拶を交わす。
「はい、ヒカリちゃんお土産」
「ぬおー! ありがとうなのだ!」
サーシャがヒカリにお菓子の箱を渡す。
いつだかテレビで見た地方の銘菓でヒカリは食べたがっていた。
たまたまその話を聞いたサーシャは銘菓が売っているのがサーシャの家がある地域だったので買ってきてくれたようだ。
銘菓の箱を抱きかかえるように持ってヒカリは尻尾を振っている。
「んじゃ行こうか」
ジリつくような太陽の下で話しているとそれだけでも体力が奪われる。
挨拶など後でいくらでもできる。
さっさと歩き始めてしまう。
「ほんと暑いですよね」
キャリーバッグを引っ張るマコトはパタパタと手で顔に風を送る。
そんなことでは少しも良くならないけれど気分はマシになる。
「……なんだかトモナリ君は涼しい顔してるね?」
覚醒者といえど暑いものは暑い。
みんなが暑さにやられる中でトモナリが平然としていることにミズキが気づいた。
「なんでも……」
「トモナリのそばにいると涼しいのだぁ〜」
バレるとめんどくさそう。
そう思ったトモナリは誤魔化してしまおうと思ったのだけどトモナリに抱きかかえられたヒカリがさらりと秘密を漏らしてしまう。
「……ほんとだ」
「サーシャ?」
「あれ? なんでですかね?」
「マコトまで……」
ヒカリはウソなんて言わない。
トモナリのそばだと涼しいと聞いたサーシャとマコトがトモナリにくっつくように近づく。
確かにトモナリの周りの空気が涼しいと二人とも気づいた。
「えー! なんで?」
「……魔法の応用だよ」
「魔法……なるほどね」
コウが手を伸ばしてトモナリの周りの涼しい空気を確かめる。
トモナリがやっていることをなんとなく理解して自分にもできないかと試す。
「あっ、できた」
「さすがだな」
特別な技術というわけではないものの空気から熱を奪ってそれを循環させるように風を生み出すのは多少のコントロールがいる。
下手くそが力任せにこんなことしようとすると自分の周りだけ氷点下になるなんてこともあり得ない話ではないのだ。
「モテモテだな」
「暑苦しいだけだよ。代わるか?」
「いらねーよ」
ユウトはヒラヒラと手を振る。
今他の人にひっつかれたら倒れてしまいそうだ。
「二人はいつまでくっついてんの?」
「僕……魔法使えないですし」
「私も」
コウは魔法職、しかもその中でも希少な賢者である。
対してみんなは接近戦闘職でありトモナリのように魔力は高くないし魔法の練習もしていない。
「ちょっとぐらい魔法の練習もしとけばよかったですかね?」
「そんなことに時間割くならトレーニングした方がいい」
トモナリは魔力の値も高いから魔法にも適性があるのだろうと魔法も少しやっている。
しかし魔法に適性がないのに魔法を練習するぐらいならトレーニングをして能力値を上げた方がはるかにマシである。
「もうちょっと広くならない?」
「人をクーラー扱いすんなよ、ほら」
「なんだかんだ優しい」
「くっつかれるのが嫌なだけだ」
サーシャのお願いを受けてトモナリが自分の周りの涼しいゾーンを広げる。
文句言いながらもトモナリが涼しいところを広げてくれてサーシャはニコリと笑顔を浮かべる。
最初の頃は表情に乏しい感じのサーシャであったが仲良くなるにつれて少しずつ分かりやすく顔に出るようになってきた。
ともかくこれでようやくサーシャとマコトはトモナリから離れた。
「トモナリ君……すごいな」
トモナリはさらりと涼しいところを広げているが自分から離れるほどに魔法というのはコントロールが難しくなる。
範囲を広げると一口に言っても言うほど簡単なことでもないのだ。
「ずーるーいー!」
「ならお前も近く来いよ」
「近くって……」
左右はサーシャとマコトに取られている。
となると前か後ろになるけれど横にいるぐらいの距離感で前後にいるのはなかなかハードルが高い。
「絵面すごいことにならない……?」
「……確かにな」
前後どちらにしてもかなり奇妙な感じになるし炎天下の中でトモナリを中心として集まるという不思議な光景になってしまう。
さらにはマコトも見ようによっては女の子に見えなくもないのでミズキが加わるとかなり凄まじい光景になってしまう。
「……タオルかなんかはあるか?」
「汗拭くハンカチなら……」
「ほらよ。ハンカチに包んで額にでも当てとけ」
トモナリは魔法で氷を作り出してミズキに投げる。
「ちべた!」
「少しは違うだろうさ」
「……ありがと。んー、少しはいいかな」
魔力によって作られた氷は溶けると魔力に戻る。
なので濡れる心配もない。
ミズキはトモナリから受け取った氷を笑顔でハンカチに包んで額に当てる。
じんわりとした冷たさが気持ちいい。
「なな、俺にもくれよ」
「分かったよ。ほら」
物欲しそうな顔をしているユウトにも氷を作って渡してやる。
「おー! 冷たくていいな!」
ユウトは直に氷を持って首に当てている。
魔法の氷なので濡れる心配はないが直だとすぐに冷たくて持っていられなくなってしまう。
「ひょっ……つめて……」
「なんかで包んでやれよ」
熱が取れる前に氷を持つ手が冷たくなる。
ユウトは氷を左右の手に持ち替えながら顔なんかに当ててなんとか暑さを凌ごうとしていたのだった。
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