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覚悟すべきこと

「みんなは平気そうだな」


 クロロスによって大きなダメージを受けたトモナリだったけれどミクによって治療をされていたので病院での検査でもなんの問題もなかった。

 病院に行って治療を受けたトモナリが待合室に戻ってくるとたまたま課外活動部の一年生が揃っていた。


 みんなの顔はやや暗い。

 人類がクリアすべき99個のゲートのうちの一個を攻略したというのに沈んだような雰囲気がある。


 それも仕方のないことだとトモナリは思う。


「初めて人と本気で戦ってみてどうだった?」


 全ては終末教のせいである。

 試練ゲートを攻略したトモナリたちを襲撃してきた。


 ただ防衛するだけならここまで気分も沈まなかったのかもしれないが、自分たちの身を守るために終末教を倒さねばならなかった。

 モンスターと戦うことと人と戦うことに大きな違いはないと世界が滅ぶまで戦ったトモナリは思うが、多くの人にとってはそうはいかない。


 しかしこれは必要な経験だったと思う。


「これから試練ゲートに挑むことがあるなら終末教の影はどこでもチラつく。奴らは正しい終末、なんてあり得ないもののために人をためらいなく殺す異常者の集団だ」


「授業では軽く聞いたけど……目の当たりにすると正気じゃない」


 コウがため息をつく。

 魔法を使って攻撃するコウは直に人を攻撃するのとはまた違う感覚ではあるが、人を傷つけるために攻撃したという気持ち悪さはあった。


「ただ覚醒者と活動するなら遭遇する機会は少ないかもしれない。でもみんなの実力なら試練ゲートに関わったり……そうでなくともあいつらのターゲットになることもあるかもしれない。

 人を殺すことに慣れろなんてそんなことは思わない。だけどいつ終末教が襲ってくるかは誰にも分からない」


 トモナリの言葉を皆黙して聞く。


「ためらって傷つくのが自分ならまだいいかもしれない。だがためらって傷つくのは隣にいる仲間かもしれない、守りたい誰かかもしれない、あるいは……世界中のみんなかもしれない」


 終末教を倒すことをためらって攻略チームが全滅すれば試練ゲートが攻略できずにブレイクを起こすこともある。

 たった一度刃を鈍らせただけでも世界が危機に陥る危険があるのだ。


「今日のことは忘れられないだろう。しっかりと心に刻んで次に備えてほしい」


「……どうしてトモナリはそんな冷静でいられるんだ?」


 ユウトが疑問を口にした。

 トモナリも人を倒すのは初めてだったはずなのにとても冷静だった。


 どうしてそんなに冷静でいられるのかユウトには分からなかった。


「……俺はあいつらがどんな連中か知ってるからだ」


 トモナリは悲しそうな色を浮かべた目をしていた。

 回帰前に終末教のせいで多くの人が犠牲になった。


 正しい終末のために試練ゲートの攻略を邪魔し、多くの覚醒者が攻撃を受けて亡くなった。

 そのせいでブレイクを起こしたゲートがあって一般人も被害に遭った。


 中には国ごと滅んでしまったことも先の出来事としてはある。


「トモナリ君……」


 回帰前の出来事を思い出しているだけなのだがトモナリにはみんなの知らない何かの過去があるのだとみんなは思った。


「トモナリは卒業後どうするんだ?」


「卒業後?」


「ああ、もう決めてんのか?」


「まだ細かくは決めてないけど俺は試練ゲートに挑むつもりだ。できる限り積極的に攻略隊に入っていく気だよ」


「そっか」


 ユウトは納得したように頷いた。

 何を考えているのかトモナリには分からないけれどあまり終末教のことを気にしたような感じはない。


 仮にユウトが試練ゲートを攻略する気なら終末教ともしっかり戦ってくれそうな気配がある。


「とりあえず今は喜ぼう」


「喜ぶ?」


「そうだよ。俺たちはなんてったって試練ゲートを攻略したんだ。99個もあるゲートの一個かもしれないけど大きな一個だ」


 回帰前にはまだまだ攻略されなかったはずのゲートを攻略したのだ。

 終末教のことは抜きしてNo.10攻略は祝われるべきことである。


「ユウト、手ェ出せ」


「手?」


「そうじゃない。上げろ」


「ん? こう?」


「そう、だ!」


「でっ!?」


 ユウトは物でももらうように手を出したがトモナリは首を振る。

 今度は挙手するように手を上げるとトモナリはニヤッと笑ってユウトの手に自分の手を打ちつけた。


 いわゆるハイタッチというやつである。


「よくやったぞ、ユウト!」


 ヒカリもトモナリをマネしてユウトとハイタッチする。

 いきなりのことでユウトはぼんやりとしてしまったけれどトモナリとヒカリをハイタッチをしたら試練ゲートを攻略したのだという喜びが湧いてきた。


「みんなも手を上げろ。よし、サーシャ、良いタンクだったぞ」


 トモナリに言われてサーシャがサッと手を上げた。

 トモナリはサーシャとハイタッチしながら一言褒める。


「サーシャすごいぞ!」


 ヒカリも同じくペチンと手を打ち合わせる。

 なぜだろうか、それだけで終末教と戦った後味の悪さがかなり薄れた。


「ミズキも鋭い一撃だった」


 それぞれに対して細かく指摘しようと思えば色々とある。

 けれども今はそんなこといい。


「うん……私たちやったんだね!」


 トモナリとはハイタッチしたミズキはしみじみと手を見つめる。


「やったね!」


 サーシャが笑顔を浮かべて手を上げ、ミズキは答えるように手を上げた。

 パンといい音を立てて二人がハイタッチを交わして笑い合う。


「これでいい」


 トモナリは全員とハイタッチしてニッと笑顔になる。

 重たいことばかりではつまらない。


 試練ゲートを攻略した。

 ここにきてようやくみんなはそのことを喜んだのであった。

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