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十番目の試練ゲート8

「トモナリ」


 地面に座るトモナリの膝の上にヒカリが降り立った。

 ヒカリはぎゅっとお腹に抱きついて、眠たいのかややトロンとした目でトモナリを見上げている。


「眠いなら寝ていいんだぞ?」


 トモナリが頭に手を乗せて親指で撫でてやるとヒカリは気持ちよさそうに目を細める。


「なら僕はここで寝る」


「そうか、好きにしろ」


 ヒカリは頭を下げてトモナリのお腹に顔をうずめる。

 トモナリは微笑み浮かべてそのまま頭を撫で続ける。


「ありがとな、ヒカリ」


「何がなのだ?」


「俺の友達になってくれて……そして、俺にもう一度機会を与えてくれて」


 回帰してからまだ長いようで短い時間しか経っていない。

 それでも色々と変わった。


 もし一人だったらここまで頑張れていないかもしれない。

 トモナリ! とそばにいてくれる存在はとても大きく、ヒカリと共にある忙しさとヒカリの不思議さは未来を憂う不安を忘れさせてくれる。


 トモナリにとってもヒカリはもう大事な友達で重要なパートナーなのである。


「でへへ……」


 トモナリの言葉にヒカリは顔をうずめたまま嬉しそうに笑う。

 尻尾が揺れて機嫌が良さそうなことが丸わかりである。


「今回は……みんなと…………ヒカリと一緒に戦ってみせる」


 いつの間にかヒカリは寝息を立てていた。


「終末教も試練ゲートも全部ぶっ飛ばして世界に平和を取り戻す」


 トモナリは太陽もない明るい空を見上げる。


「きっとやれるよな」


「むにゅ……トモナリ……」


 ーーーーー


「んー、不味くはないけど……」


「こうしたものも時には必要だぞ」


「分かるけどさぁ」


「もう一本!」


「ヒカリちゃん元気」


 時間的には早めの朝ぐらいにみんな起き出した。

 明るいためにあんまり寝ていられなかった。


 忘れていたけれどアイマスクぐらい荷物に忍ばせておけばよかったなとトモナリは思った。

 朝ご飯は簡易的に食べられるエナジーバーである。


 最近のものは割と美味しいのだけどお弁当や作ったカレーに比べれば劣ってしまうのは仕方ない。

 ヒカリは何でも美味しいらしくエナジーバーもぱくぱく食べている。


 サーシャはエナジーバーの袋を開けてヒカリに差し出す。

 どんな時でも美味しく飯を食べられるのも才能であり生き残るためにも必要なことではある。


「さて、じゃあ二階にいこう。攻略終わらせて、美味いもんでも食べに行こう。きっと学長が奢ってくれる」


 望ましいのはゲートの中でもっとレベルを上げていくことだが、トモナリたちがゲートの中にいる間全滅したオークは復活しない。

 いつまでも一階にいても仕方ないのでさっさと二階を攻略してしまう。


「改めて確認するぞ」


 二階も一階と同じく茶けた大地が広がる山岳地帯であった。


「二階の攻略条件は同族喰らいオークの討伐だ。いわゆるボスが同族喰らいオークだな」


「はい、質問」


「なんだ?」


 ミズキが手を上げる。


「同族喰らいって何?」


 授業でも聞いたことがない。

 ボスである以上通常個体と違った特徴があるのだろうと思うのだけれど同族喰らいがどんなものなのか分からなかった。


「そのまんまの意味だよ。狂った個体……仲間を喰らう化け物だ」


 基本的にモンスターは同族の個体には手を出さない。

 協力し合うモンスターはもちろん協力しないようなモンスターも同族を攻撃することはないのだ。


 しかし同族喰らいはその名の通り同族に手を出し、喰らうモンスターのことを指す。


「何で同族に手を出すかなんてことは分からないけれど同族に手を出したことによってモンスターの能力は強化されるんだ」


 同族を喰らうことでモンスターは強くなる。

 原理もなぜそうした行動を取り始めるのかも回帰前でも判明はしなかったけれどともかく同族を喰らうモンスターは通常個体よりも強い。


「ただデメリットがないわけじゃない」


「デメリット?」


「理性を失う。常に強い飢餓感に襲われるようになって同族を襲い続ける。純粋な能力としては強くなるけど知性としては大幅に弱くなるんだ」


 同族を喰らった代償なのだろうか。

 同族喰らいは通常のモンスターに比べて知性が大幅に弱くなる。


 理性を失い落ち着きがなくなり、飢餓感を覚えて新たな同族を探して彷徨い始めるのだ。


「見た目じゃ区別はできないのか?」


「外見に大きな特徴の変化はないけど目を見れば分かる」


「目?」


「そうだ。まるで血に染まったように真っ赤になるんだ」


 同族を喰らったからと見た目に大きく変わることはない。

 理性を失ったからとモンスターの表情の変化を人が見抜けるはずもない。


 けれども一ヶ所だけ違いが現れる場所がある。

 それは目である。


 まるで同族の血で染まったかのように真っ赤になるのだ。


「じゃあ赤い目のモンスターを探して倒せば終わり……ということですか?」


「その通り。だけど俺はこの階にいる他のオークとも戦うつもりだ」


 ボスを探し出して倒すというのは単純な話である。

 しかしトモナリはそんなに簡単に終わらせるつもりはなかった。


「どうせならもうちょっとレベル上げていこうぜ」


 みんなは早く帰りたそうにしていて顔に出ている。

 ゲートの中におけるレベルアップで倍の能力値上がっていることをまだ分かっていないのだ。


 トモナリもわざと説明しない。

 きっと出た時にみんな驚くだろうから。


「オーク探すぞ。赤い目の同族喰らいを先に見つけたら先に倒してしまおう」


 流石に同族喰らいを見つけたなら戦う気はある。


「オークどもが全滅するか、同族喰らいが先に見つかるか……だな」


 トモナリはニヤリと笑った。

 そしてオークを探すために移動を開始した。

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