「やっ!」
ドシドシと歩くオークの足元まで影が移動した。
一呼吸置いてマコトが影の中が飛び出してオークの足を切りつける。
「今だ!」
急に足に痛みを感じてオークが膝をついた。
トモナリたちも一斉に木の影から飛び出してオークに向かう。
「いくぞルビウス」
『任せておれ』
トモナリがルビウスに魔力を込めると赤い刃が炎に包まれる。
いつもの倍の能力があるので体が軽い。
怒りの表情を浮かべて振り向いたオークにはトモナリはすでに剣を振り始めていた。
仮に能力値が倍になっていなかったとしても油断しているオークの首を刎ねることは容易い。
しかし今はみんなでレベルアップしていくべきなのでトモナリは首ではなく腕を切り飛ばした。
ルビウスは剣としてとても優秀だ。
切れ味が鋭くかなり丈夫で、魔力を非常によく通しながらトモナリの手に馴染むようだった。
さらにはルビウスまで召喚できるのだから文句なしの一本である。
ついでにルビウスの意思のためか他の人が剣に触れることもできないというところもプラス。
ただしルビウスの声が時々頭の中で聞こえてワガママをいう時があるのはマイナスである。
「食らえ、二連撃!」
ユウトが第一スキルを発動させる。
一度剣を振るっただけなのにオークの体に二本の傷が走る。
魔力によって二回目の攻撃を発生させるスキルで威力は本人の実力に依存するが、回避しにくい二回目の攻撃を発生させる癖がなく強いスキルである。
「ふんっ!」
「どりゃああああっ!」
サーシャとミズキもオークに迫る。
サーシャは基本通り足に槍を突き刺して、ミズキは魔力をまとった剣でオークの腕を切り飛ばす。
「倒れろ!」
コウが放った水の塊が叫ぼうと口を開けたオークの顔面に直撃した。
オークはそのまま後ろに倒れて地面に頭を打ち付ける。
「クラシマ!」
「おうっ!」
最後にクラシマが飛び上がりながらハンマーを高く掲げる。
「震撃!」
クラシマがスキル震撃を発動させてオークの頭にハンマーを叩き込む。
オークの頭がハンマーに潰されて足が一度ビーンと伸びた。
ピクピクと痙攣として、力なく足が地面に落ちた。
「やったね〜!」
「らくしょーだな!」
「うむ! みんなよくやったぞ!」
ミズキとユウトが喜びながらハイタッチする。
レベルアップのためにみんなで一度ずつ攻撃する形にはなったけれどもっと簡単にも倒せそうである。
「おっ!」
『レベルが10を達成したのでインベントリを解放します』
トモナリの前に表示が現れた。
「どうしたの?」
みんなの前には現れていないものでサーシャが不思議そうにトモナリの顔を覗き込む。
「レベルが10になってインベントリが出たんだよ」
No.10においてレベルをできるだけ上げてから挑むのが望ましいと考えられていた理由の一つにインベントリというものがあった。
レベルが10になるとインベントリというシステムが解放される。
これはアイテムを保管しておける個人の空間のような物で、個々人によって利用できるインベントリの大きさは異なる。
アイテムを保管しておけるので大きなリュックなど持ってこなくてもよく、ゲート攻略の利便性が大きく向上する。
インベントリが解放されて持ち物を自分ですぐに取り出せるように保管しておけるようになってから挑んだ方がいいというのが一般的な考えなのである。
「あれ?」
解放されたばかりのインベントリは当然空となる。
何も入れていないのだから当然であるがインベントリを確認してみたら何かが入っていた。
「ゴブリンキングの王冠……?」
インベントリにあるアイテムの説明を見てみる。
ゴブリンキングの王冠というアイテムで装備すると力と体力が5ポイント伸びるという意外と優れたものだった。
「あの時のやつか」
それがなんなのかトモナリはすぐに理解した。
最初に入ったゲートで突発的に現れたゴブリンキングと戦った。
ゴブリンキングは特殊モンスターと呼ばれるものでそうしたモンスターは倒すことができるとアイテムなどをドロップすることがある。
目の前にドロップすることもあって取り合いになることもあるのだが時に勝手にインベントリに入っていたりすることもある。
トモナリはまだインベントリが解放されていなかったけれどもインベントリそのものは存在していて報酬のアイテムが中に入ったようだ。
「ふーん」
取り出してみるとゴブリンキングが頭に乗せていた古びた王冠のようだった。
「ほえ、消えたのだ!」
トモナリが王冠を出すところをヒカリは眺めていた。
自分も乗せてみたいな、なんて思っていたらトモナリの頭に乗った王冠がいきなり消えた。
「透明化オプションがあるようで助かった」
ゴブリンキングの王冠の説明の最後に米印と透明化オプションありと書かれていた。
透明化オプションとは文字通り装備した後透明にすることができる機能である。
王冠身につけている姿など恥ずかしいけれど透明化オプションのおかげで人に見られず着けていられる。
「ズルいぞ、トモナリ! 僕もつけたいのだ〜!」
ヒカリがトモナリの腕を引っ張る。
王冠が羨ましくて、次に貸してもらおうと考えていたのだ。