「無理そうなら来なくてもいいんだぞ?」
「少し緊張しているだけだ」
クラシマはトモナリの実力を認めながらも違う班なために8班のみんなのような信頼もない。
みんなが行くというしクラシマも流されるように行くことになってしまったが、一桁レベルの一年生だけで本当に大丈夫だろうかという不安は拭えない。
「きっと俺が何を言ってもお前の不安を消し去ることはできないし100%大丈夫だなんてことは言えない。ただ一つだけ絶対と言えることがある」
「……なんだ?」
「もし生きて帰ってこられたならお前は俺に感謝することになるだろう」
「なんだよそれ?」
「後で分かるさ」
トモナリはクラシマにニヤリと笑いかけると自分の荷物を背負った。
「それじゃあ行くぞ。No.10、攻略開始だ」
みんなもそれぞれ大きなリュックを背負う。
自分もリュックを背負ったヒカリが横に飛ぶトモナリを先頭にしてゲートの前に立つ。
『ダンジョン階数:二階
ダンジョン難易度:Aクラス
最大入場数:10人
入場条件:レベル19以下
攻略条件:一階:全てのオークを倒せ 二階:同族喰らいオークを倒せ』
まずは例によってゲートの情報を確認する。
「え、Aクラス!? そんなの大丈夫なのかよ?」
みんなはまずゲートがAクラスなことに驚いていた。
Aクラスはゲートの中でも最高難易度となり、レベルが100に近い人たちを集めて慎重に攻略を進めねばならないような危険なゲートである。
ましてレベル一桁の経験も浅い覚醒者が挑むようなゲートではない。
「心配するな」
「でも……」
「試練ゲートは全部Aクラスって表示されるんだ。どんな難易度だろうとな」
「そうなの?」
不思議なことに試練ゲートはダンジョン難易度がAクラスで固定されている。
ここまでもいくつかの試練ゲートがあったけれど簡単なものから難しいものまで様々でありながらどれもAクラスとなっていたのだ。
だからダンジョン難易度だけを見て一概に難しいなどと怖気付いてはいけない。
ただ今回のゲートはAクラスでもおかしくないとトモナリは思う。
攻略人数も少なく、入れる人の最大レベルも低い。
そうした制限があるというところを見るとAクラスゲートといっても過言ではないのだ。
むしろ見るべきはこれまでと違い二階となっていることや出てくるモンスターがオークであると予想されることである。
「みんな落ち着け。多くの者がここで失敗したのは確かだけどちゃんと逃げて帰ってきた人も多いんだ」
入ると出られなくなるゲートもあるがNo.10は出入り自由となる。
無茶をせず冷静に状況を見極めて撤退すれば十分に生きて帰ることができるゲートでもあるのだ。
全滅などの失敗が目立つのは経験不足からだ。
最大レベルが19となっている。
そのぐらいなら上げようと思えばすぐに上げられる。
つまり戦いの経験が不足した状態でゲートに入ることになるのだ。
いざという時に冷静な判断ができないと力のあるモンスターにはあっという間にやられてしまう。
だからNo.10における全滅などの失敗が目立って多いのである。
その点でトモナリは回帰前の経験がある。
少なくとも全滅は避けて帰ってこられるだろうと思う。
「入るぞ」
時間をかけるほど不安は大きくなってしまう。
その前にとトモナリはゲートに足を踏み入れた。
ゲートを通る時のいいようもない感覚を抜けて中に入るとそこは草木の少ない山岳地帯のようだった。
赤茶けた岩肌が露出していてデコボコとした地形をしている。
『実績:無謀な挑戦を解除しました!』
「えっ!?」
ゲートの中に入った瞬間意図しない表示が目の前に現れた。
トモナリだけでなく後ろから入ってきたみんなの前にも同じような表示が現れている。
『このゲートの攻略に限り能力値が倍になります!』
トモナリは表示を見てニヤリと笑った。
「ト、トモナリ君!?」
「ああ、俺にも見えてるよ」
「……こんな話聞いたこともない。まさかこれを狙ってたの?」
ミズキは見知らぬ表示に慌てふためいているがコウは冷静だった。
「どう思う?」
『力:94(47)
素早さ:102(51)
体力:92(46)
魔力:72(36)
器用さ:100(50)
運:48(24)』
トモナリがステータスを確認する。
すると能力値が表示の通りに倍になっている。
トモナリはこれを狙っていた。
試練ゲートは試練とつく通りに乗り越えられそうなヒントや助けを出してくれるのだ。
どう頑張っても乗り越えられない試練など試練とは言わない。
そしてNo.10において試練を乗り越えるための助けはステータス倍化なのであった。
No.10はレベル19以下でなければ入れないゲートである。
ならばレベルをギリギリの19まで上げて、そしてゲートの中で20にしてスキルを解放して攻略するのが正当なやり方だと誰もが考えていた。
しかしそれが罠なのである。
No.10はレベル10未満で中に入ると能力値が倍になるという補助を受けられるのだ。
回帰前ではアメリカの覚醒者が攻略する時に荷物持ちとして同行した低レベル覚醒者がいたことでこのようなことがあると発覚した。
アメリカの攻略チームは失敗したが、その時に同行した低レベル覚醒者は生き残ってこのことを伝えて次回の挑戦で日本が攻略を成功させた。