「それじゃあいくわよ」
両足にも魔力抑制装置を着ける。
「分かりやすく100%」
「おっ……!」
カエデがタブレットをいじって魔力抑制装置を起動させる。
すると手足に着けた魔力抑制装置に100と表示されてトモナリは急激に体が重たくなるのを感じた。
腕や足に通わせていた魔力が無理矢理遮断される。
体の中にある魔力は消せない。
だが魔力抑制装置によって魔力が追いやられて臍の下あたりから胸の付近にかけて自分の魔力が強制的に集められている。
魔力抑制装置しか身につけていない腕なのにとても重たい。
日頃から意識しなくても体は魔力の恩恵を受けていた。
魔力のコントロールをするという意味でトモナリは意識的に体に魔力を充実させていたので魔力が抑制された効果を余計に感じるのだ。
「80%」
「かなり良い感じです」
抑制効果を下げると腕や足に魔力を通せるようになる。
しかし今までのように通せるのではなく半端にせき止められた川のように細く少ししか魔力が流せない。
回帰前に見た魔力抑制装置の初期よりもこちらの試作品の方がクオリティが高いとトモナリは感心していた。
「試作品はこれだけですか?」
「そうね。予備のものはあるけれど使えるのはこれだけと思って。魔力を抑制する効果は確かめてるけど実戦で使っていくとどうなるのかまだ不明だし……作るのにもちょっとね」
「まだ量産に問題が?」
「すこーしね」
カエデは軽くため息をつく。
「うちの研究員、妥協を知らなくて。それの目的訓練でしょう? 小型化、軽量化するにあたってどうしても耐久性が犠牲になっちゃったの」
小さく軽くしようと思うと大きく頑丈に作られたものよりも耐久性が劣ってしまう。
仕方ないことなのであるが今回の魔力抑制装置の目的は魔力を抑制して戦って訓練することにある。
魔力抑制装置が戦いの中で壊れてしまっては十分にその効果を発揮することができなくなってしまう。
つまり小さく軽くしながらも壊れないようにしなければならないのだ。
「その試作品にはミスリルが使われてるのよ」
「ミ……ミスリルってあの?」
「そうよ」
ゲートが現れてモンスターの素材以外にも新たな鉱物もゲートの中から見つけ出された。
それがミスリルという金属だった。
魔力伝導性が高い金属であり、ミスリルを使った武器は魔力を扱う覚醒者が欲しがるものとなっていた。
魔力伝導性が高いので近年の魔力を使った製品の製造にも利用されていて価値が高まり続けている。
今現在でもミスリルは高級金属で回帰前にはミスリル鉱山があるゲートを巡って戦争まで起きたことがあった。
そんなミスリルが使われていることにトモナリは驚いた。
それならば量産できないわけであると納得するしかない。
「本当に量産するならもうちょっと大きくしてミスリル以外のもので作らなきゃ採算取れないわね。だからそれはうちの研究員が意地で作った特別なものよ」
そう言ってカエデは魔力抑制装置を操作するタブレットをトモナリに差し出した。
「これはあなたが使っていいわ」
「ですが……」
「魔力を強制的に抑えて訓練する。なかなか面白いアイディアよ。うちの研究員は他のことも考えているようだし今後量産化をするにあたってあなたも装置を作った人の一人であるのよ。そのお礼みたいなもの」
別にちゃんと契約をするつもりだがどうせ表に出せない試作品なら未来が有望なトモナリが使った方がいい。
「……ありがとうございます」
「タブレットも高いものだし普通に使えるから活用してね」
カエデはニッコリと微笑む。
「あとは使用感のレポートも欲しいからそれもお願いするわ」
「分かりました。喜んで協力します」
魔力抑制装置もできた。
夏休みはなかなか楽しくなりそうであるとトモナリは思ったのだった。
「うっ……重い」
「なに!? 失礼だぞトモナリ!」
「魔力抑えてるとこんなこともあるんだな」
いつものようにヒカリが肩車するようにトモナリの肩に乗った。
魔力を抑えているトモナリにとってヒカリの重さはかなりずっしりとくるものであった。