「まあ……トモナリならな」
「そうだね」
ユウトとミズキは顔を見合わせ、肩をすくめる。
今この場でマサヨシがトモナリをリーダーに指名したということはトモナリが今回のことに関わっているのだろうとミズキたちは思った。
ならば何か考えがあるのだろうしこれまで攻略されなかった試練ゲートでも攻略できる手立てがあるのだろうという妙な信頼があった。
「クロハの心配もよく分かる。俺もだいぶ悩んだものだ。危ないと思ったらすぐにゲートから撤退してもらうつもりだ」
「せめて18や19レベルになってからでしょう」
「……それではダメなのだ」
「どうしてですか?」
「…………それは今は言えない」
「どうなってるんですか……?」
テルが不思議そうな顔をする。
「今は信頼してくれとしか言いようがない。ただ二、三年生のみんなにもサポートしてもらいたい」
「サポートとはなんですか?」
「今回入るのは一年生だけだから身の回りの準備などを手伝ってもらいたい。それともう一つやってもらいたいことがある」
「手伝いはいいのですけど……やってもらいたいこととはなんですか?」
「ゲート攻略まではまだ時間がある。一年生にはその時までに少しでも強くなってもらいたい。そこで二、三年生に一年生と戦ってもらって経験を積ませてあげてほしいのだ」
「……なるほど」
もはや攻略することが決まっているのなら少しでもできることをした方がいい。
ゲート攻略に納得はいっていないもののどうしようもないならとテルは思考を切り替えることにした。
「みんな、協力してくれるか?」
「分かりました。僕にできるならやらせていただきます」
部長でもあるテルが頷いて他の二、三年生も同じく同意する。
フウカだけは微動だにしていなかったけれどフウカが手伝ってくれなくとも他の人たちも十分強いので目的は果たせるだろうとトモナリは思う。
「ならばそういうことで。今日はテストで疲れているだろうから特訓は明日からにする」
「明日から特訓……」
せっかくテストが終わって解放されたのにとミズキは渋い顔をする。
「これもみんなのためだからさ」
「うへーん、ちょっと休めると思ったのに」
「全部終われば夏休みなんだ、もうちょい頑張ろうぜ」
「トモナリ君がヨユーなのなんかムカつく」
「未来を思えばこれぐらいどうってことないからな」
「未来って……」
何もしなければ将来人類は滅亡する。
その前だって戦いで満足に寝られも食べられもしない日々を過ごしていたからこれぐらいのことなんともない。
「アイゼン、会議室に」
「はい」
トモナリはマサヨシにレストルームの隣にある会議室に呼ばれる。
「これでよかったのだな?」
会議室の椅子に座ったマサヨシは深いため息をついた。
戦闘経験を積むために二、三年生と一年生と戦わせてほしい。
これを提案したのはトモナリであった。
No.10を攻略するといった時も驚いた。
ただそれも無計画ではなく何かの考えがあるようだった。
だからマサヨシもトモナリにNo.10攻略の許可を出した。
「本当に攻略できるのだな?」
「攻略してみせます」
「……君のことを信じよう」
不安も心配も尽きない。
しかしトモナリはこれまで期待を超える働きをしてきた。
否が応でも期待もしてしまう。
「危なくなったらすぐに逃げるのだぞ?」
「もちろんです。ここで死ぬつもりなんてないですからね」
「……分かった。それともう一つ。あれの試作品が完成した」
「おっ、本当ですか!」
「クロサキ」
「はい」
ミクが会議室を出ていく。
「少し待たされたわね」
程なくしてミクがカエデとヤマザトを連れて会議室に戻ってきた。
「ふふ、ようやくこれについて話せるわね」
カエデが手に持っていた紙袋の中から何か輪っかのようなものを取り出した。
「以前頼まれた魔力抑制装置よ。なかなか面白いもの考えたわね」
多少大きめな腕時計ぐらいな太さの白い見た目をした輪っかでスマートウォッチのような見た目をしている。
これはトモナリが以前マサヨシに頼んだ魔力抑制装置の試作品であった。
「10%から100%の十段階で魔力を抑制することができるわ。制御はスマホからでも出来るように開発してるけど今はこのタブレットからしてもらうわ」
「着けてみても?」
「どうぞ」
「……後の二つは?」
魔力抑制装置は四つテーブルに置かれている。
それぞれ手首に着けたとしても二個余る。
「足首にも着けるのよ」
「足首にも?」
「あなたの要望を受けて普段から着けていられるように小型化、軽量化を目指したのだけどその代わり魔力を抑制する効果が弱くなってしまったのよ。一つでは全身の魔力を上手く弱く抑制することも難しくて……そこで両手両足に着けることで色々な問題を解決したの」
「なるほど」
覚醒者につけられる魔力抑制装置はかなり大きなもので、それをそのままつけるとかなり邪魔になる。
だから小型化を希望をしていたのだが、小型化するにあたって色々と問題も出てきた。
それを解決するための方法として両手両足に装置をつけてそれぞれの装置が小さくとも効果を十分に発揮できるようにしたのだ。