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最終話 巻き戻り令嬢は努力する

 部屋で感傷にふけっていると、ドアをノックする音がなる。


『コンコン』


 私は慌てて涙を拭き、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから返事をする。


「誰? 今日は色々とあって疲れてるから1人で居たいんだけど」

「ママよ。サンドラから今日のことを聞いて、リディのことが心配になったの。大丈夫なのかしら?」

「あっ、直ぐに開けるね」


 お母様が私のことを心配をして、様子を見に来てくれたみたい。直ぐにベッドから起き上がってドアを開けると、お母様は部屋に入るなり優しく包み込むように抱きしめてくれた。その瞬間、落ち着きを取り戻していた感情が再び爆発する。


「ママ……、あのね……私、凄く……凄く頑張ってきたんだよ」

「うん……、そうね。ママはリディが頑張っていたことを知っているわ」


 泣きながら『頑張った』と伝えると、お母様も私と同じように泣きながら答えた。まるで巻き戻ったことを知っているかのように。もしかして? と思いながら少し『それ』っぽい言い方をして反応を見る。


「前の私はね、人の言うことなんて聞かない我儘娘で、努力なんて全くしなかったの、だけど今回の私は努力を怠らなかったの」

「うん、そうだったわね。今回のリディは本当によく頑張ったわね」


 この反応で、私だけじゃなくお母様も巻き戻る前の記憶があるのだと理解した。


「ママ……、ごめんなさい。私の……」


 お母様を巻き込んだと思い、謝罪を口にしようとした瞬間『ピタッ』と口に人差し指を当てられ口を閉ざされると、お母様の口から衝撃の事実を告げられた。


「リディは悪くないの。リディのいない世界に耐えきれなくて、時間を巻き戻す禁術を使ったの。だから、リディは悪くないのよ」

「ママが?」

「えぇ、リディを失ってからは、怒りに任せてファーガソン王国を滅ぼしたけど、それでも失った喪失感は消えなくて、禁術といわれる『時間の逆行』を行ったの。そのことを知っているのはママだけだと思っていたわ。でも、巻き戻った世界のリディが必死に努力するものだから、巻き戻り前の記憶があるんじゃないかと思ったけど、その通りだったのね」


 お母様は絶望の中で死んでいった私に、一からやり直すチャンスをくれた。この状況がお母様の望むものなのかは判らないけど、お母様の話しは続いた。


「時間が巻き戻って、以前と同じリディだったとしても、王家との縁談さえ結ばなければ、リディを失うことはないと思っていたけど、ママには最高の結果になったことになるわね」


 お母様にとって私が努力したことは、最高の結果をもたらしたようだった。2度目のチャンスをくれたお母様に改めて感謝をする。


「ママ! あれだけ我儘だった私を愛してくれてありがとう。これからは、最後まで私を守ろうとして命を落としてしまったファビオを幸せにするために、今以上にもっと頑張るから応援してくれる?」

「勿論よ。リディが望むのならどんなことでも応援するわ」


 巻き戻りのことを知る2人は、言葉を交わし終えると熱く抱擁をした。そして最悪の事態を回避した後も、私は怠ることなく努力を続けたのだった。




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