カーラに顔色が悪いと言われたので、そのまま眠りに着いたフリをして、これからの事をしっかりと熟考することにした。
そして最初に思ったのは、私を守ろうとして非業の死を遂げたファビオの事だった。レイバック辺境伯家の養子としてやって来たのは、私が5歳の時だったはずなので、まだ1年の猶予がある。ファビオがやって来るまでの間は、辺境伯家の跡継ぎに相応しくない無能な娘でなければならない、そうじゃないとファビオを養子に迎えないから。なので、両親や執事達の前では努力するところは、絶対に見せない事にした。ただ、両親とは良好な関係を築きたいので、可愛いバカ娘を演じる事を選択したけど、上手くハマってくれるかな?
なんてことを考えていると、カーラが両親を連れて部屋の中へと入ってきた。
「リディ、具合はどう?」
「パパ!ママ!」
私は以前のようにお父様・お母様とは呼ばずに、あえてパパ、ママと甘えた声で返事をすると、両親は驚いた表情を見せた。
両親は少し戸惑いながらも、ベッドサイドに腰を下ろすと、私の額に手を当てながら話しかけてきた。
「あぁ、熱は完全にひいたみたいね。かなりの高熱でうなされてたから、とても心配してたのよ?」
お母様は『ホッ』とした表情をしながら私の頭を撫でていた。巻き戻り前も私のことを溺愛していたお母様に、一芝居を打って甘えてみることにした。
「あのね眠っている時にね、身体から離れるような感覚がしたの。その時はママにもう会えないのかと思って……、凄く怖かったの……」
「リディ!?」
私が涙目で怖かったと訴えると、お母様は『ギュッ』と抱きしめ、隣のお父様は優しく頭を撫でながら話しかけてくる。
「リディ!怖い思いをしたんだね。今日の予定は全てキャンセルをして、ずっと一緒に居てあげるからね」
「あぁ、私の天使ちゃん、何かして欲しい事はあるのかしら?」
お父様は、辺境伯という立場だから凄く忙しいの、にも関わらず私の為に一緒に居てくれると言った。お母様は私を抱きしめたまま、なにかして欲しいことはないかと聞いてきたので、もう一押しして完全に落とすことにした。
「うん、あのね、凄く怖かったからママと一緒に寝たいの。ダメ?」
少し照れた素振りでおねだりをすると、頬を擦り合わせながら、優しい笑顔を見せながら即答してくれた。
「勿論良いわよ! これからはママがずっと一緒に寝てあげるわね」
「ありがとう、ママ大好き!」
お母様がOKと言った後に、頬へお礼のキスをすると、お父様が必死に割り込んできた。
「リディ? 寝る時はパパも一緒で良いんだよね?」
「うん、パパも一緒ね!」
「えっと、リディ、パパにもね?」
お父様は頬を指差したので、『ニコッ』と笑みを見せてから頬にキスをすると、満面の笑顔を浮かべていた。
こうして両親は、可愛い娘を演じた私の虜になったの。これからは両親とも良好な関係を築きながら、バカな娘を演じてファビオがやって来るのを待つのだった。