「いらっしゃいませー! 美味しいクレープはいかがですかー?」
天気よし、気温よし、人出もばっちり。
大事な相棒、キッチンカーもぴっかぴか!
日差しを浴びて煌めく水色がかった銀髪は、後ろでさっとまとめる。あとは、白地のエプロンと三角巾を着けたら、準備完了だ。息を吸って、声を張り上げる。
「いらっしゃいませー! あまーいベルメールバナナとファブロベリーのクレープ、クリームたっぷりおまけしますよーっ。それから、ワイルドボアのハムとビッグバッファローのチーズをふんだんに使った、お食事クレープもありまーす!」
早速、子連れのお母さんが寄ってきて、メニューを眺めはじめた。
幸先がいいわ、今日は忙しくなりそう!
「いらっしゃいませ、クレープはいかがですか? クレープをお買い上げの方には、ドリンクを割引価格でご用意できますよ」
「じゃあ、ベリーのクレープと、オレンジジュースをひとつ。あと、カフェオレもお願いします」
「はい、ありがとうございます! お会計はこちらです。ドラコ、ベリーひとつ入りまーす」
「オーダー了解です、レティ」
キッチンカーの中で調理の準備をしている、ウェイター服姿のドラゴンにオーダーを通す。
ドラゴンの妖精ドラコは、キッチンカーの外にいる私より、少し高い位置に二本の足でしっかり立っている。
けれどそれでも、顔の位置は、小柄な私の胸より低い。
ドラコから気持ちの良い返事が返ってきて、すぐに生地が焼ける甘い匂いが漂い始めた。
私がドリンクの準備とお会計をしている間に、クレープも完成。
もっちりした黄金色の皮に、ふわふわのホイップクリーム。みずみずしいベリーたちと、甘酸っぱいベリーソースが、太陽の光を浴びてつやつやと紅く輝いている。
私は、ドラコからクレープを受け取って親子連れに渡した。
「ありがとうございました!」
ベンチに座ってひとつのクレープをつつく親子は、幸せそうに笑っている。
二人の笑顔を見ながら充実感を味わっていると、すぐさま次のお客さんがやってきた。
「いらっしゃいませー!」
私は満面の笑顔で、元気にお客さんを迎える。
その時、旦那様と私の大切な宝物が、お腹の中をポコンと蹴った。
――えへへ、君もきっと、楽しいのね。
この子のためにも、森でお仕事を頑張っている旦那様――アデルのためにも、たっくさんクレープを売らなくちゃ!
「ありがとうございましたー!」
広場を見渡すと、どのお客さんも笑顔でクレープを頬張っている。
お金を稼ぐのも大切だけれど、あちこちに咲いている笑顔の花は、私にとってはお金以上の価値があるのだ。
――ああ、幸せ。
あの日、アデルに拾ってもらって、結婚して、宝物を授かって。
それだけじゃなく、大切な友達もできたし、私の夢も叶った。
本当に、本当に幸せ!
開放感たっぷりの抜けるような青空は、大地も海も国境も関係なく、どこまでもずっと続いて、繋がっている。
「いらっしゃいませ! 本日、恵みの森から魔法のキッチンカーが出店中です! いかがですかー?」
弾けるように輝く太陽の下、私は笑顔で声を張り上げるのだった。