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レティと魔法のキッチンカー
レティと魔法のキッチンカー
矢口愛留
異世界ファンタジースローライフ
2025年02月07日
公開日
1.2万字
連載中
事故で「魔の森」に流れ着いたレティシア(レティ)は、「凍れる炎帝」と呼ばれ恐れられるアデルバート(アデル)によって、命を救われた。
人の世に流れる噂と違い、アデルは心優しく善良な青年。
恐れられていた「魔の森」も、実際は、精霊と植物の恵みに満ちた美しい「恵みの森」だった。

レティが治療のお礼に料理を振る舞ったことがきっかけとなり、アデルとレティは惹かれ合うように。
帰る場所がないレティは、アデルの家に一緒に住むことを決めた。

精霊の恵みに満ちた森は、新鮮で美味しい野菜や果実の宝庫。
レティは、森に住む妖精たちや精霊に得意な料理を振る舞うことになった。

そうして、森に住む者たちだけではなく、外から来た精霊たちも美味しい料理でもてなしているうちに、彼女の料理は、徐々に森の外でも評判になってゆく。

妖精、精霊、人、亜人。
国境も、種族の垣根も飛び越えて、レティは今日も、笑顔と幸せを運ぶ。

「いらっしゃいませー!」

相棒のドラゴン妖精をお供につけて、空飛ぶ魔法のキッチンカーは、今日も元気に世界を巡る。

レティと魔法のキッチンカー



「いらっしゃいませー! 美味しいクレープはいかがですかー?」


 天気よし、気温よし、人出もばっちり。

 大事な相棒、キッチンカーもぴっかぴか!


 日差しを浴びて煌めく水色がかった銀髪は、後ろでさっとまとめる。あとは、白地のエプロンと三角巾を着けたら、準備完了だ。息を吸って、声を張り上げる。


「いらっしゃいませー! あまーいベルメールバナナとファブロベリーのクレープ、クリームたっぷりおまけしますよーっ。それから、ワイルドボアのハムとビッグバッファローのチーズをふんだんに使った、お食事クレープもありまーす!」


 早速、子連れのお母さんが寄ってきて、メニューを眺めはじめた。

 幸先がいいわ、今日は忙しくなりそう!


「いらっしゃいませ、クレープはいかがですか? クレープをお買い上げの方には、ドリンクを割引価格でご用意できますよ」


「じゃあ、ベリーのクレープと、オレンジジュースをひとつ。あと、カフェオレもお願いします」


「はい、ありがとうございます! お会計はこちらです。ドラコ、ベリーひとつ入りまーす」


「オーダー了解です、レティ」


 キッチンカーの中で調理の準備をしている、ウェイター服姿のドラゴンにオーダーを通す。

 ドラゴンの妖精ドラコは、キッチンカーの外にいる私より、少し高い位置に二本の足でしっかり立っている。

 けれどそれでも、顔の位置は、小柄な私の胸より低い。

 ドラコから気持ちの良い返事が返ってきて、すぐに生地が焼ける甘い匂いが漂い始めた。


 私がドリンクの準備とお会計をしている間に、クレープも完成。

 もっちりした黄金色の皮に、ふわふわのホイップクリーム。みずみずしいベリーたちと、甘酸っぱいベリーソースが、太陽の光を浴びてつやつやと紅く輝いている。

 私は、ドラコからクレープを受け取って親子連れに渡した。


「ありがとうございました!」


 ベンチに座ってひとつのクレープをつつく親子は、幸せそうに笑っている。

 二人の笑顔を見ながら充実感を味わっていると、すぐさま次のお客さんがやってきた。


「いらっしゃいませー!」


 私は満面の笑顔で、元気にお客さんを迎える。

 その時、旦那様と私の大切な宝物が、お腹の中をポコンと蹴った。


 ――えへへ、君もきっと、楽しいのね。


 この子のためにも、森でお仕事を頑張っている旦那様――アデルのためにも、たっくさんクレープを売らなくちゃ!


「ありがとうございましたー!」


 広場を見渡すと、どのお客さんも笑顔でクレープを頬張っている。

 お金を稼ぐのも大切だけれど、あちこちに咲いている笑顔の花は、私にとってはお金以上の価値があるのだ。


 ――ああ、幸せ。


 あの日、アデルに拾ってもらって、結婚して、宝物を授かって。

 それだけじゃなく、大切な友達もできたし、私の夢も叶った。


 本当に、本当に幸せ!


 開放感たっぷりの抜けるような青空は、大地も海も国境も関係なく、どこまでもずっと続いて、繋がっている。


「いらっしゃいませ! 本日、恵みの森から魔法のキッチンカーが出店中です! いかがですかー?」


 弾けるように輝く太陽の下、私は笑顔で声を張り上げるのだった。



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