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第22話

 今日は日曜で部活が無いから家でゆっくりしている。

 夕方にはお兄ちゃんがキャンプから帰ってくる予定だ。


 新島先輩と水瀬先輩がどれだけお兄ちゃんを想っているかを私は知っている。

 その気持ちを考えると、本当にハーレム計画を実行していいのか躊躇う。

 だけど私も自分の気持を諦めたくない。


 どちらが彼女に選ばれたとしても、隙を見せたら容赦なく奪いに行くつもりだ。

 だって恋愛は真剣勝負なんだから! 



 キャンプから帰ってきたお兄ちゃんに早速


〈ちゃんと話を聞かせてね〉


 とLINEを送る。

 夜11時、いつもの様に私の部屋に来る。

 お兄ちゃんが適当に座ったところで


「新島先輩と水瀬先輩どっちを選んだの?」


 私は本題に切り込んだ。


「いきなりだな、キャンプは楽しかった? とか聞かないのか?」

「そんなの全然興味ないもん! ほら! どっち選んだの?」


 と私は前のめりになって問いただす。

 興味があるのはあくまでお兄ちゃんの気持ちの行く先だけ。


「俺は……どっちも選んでない」

「……どういう事?」

「『まだ決められない。だから2人にはもう少し待ってほしい』って伝えた」


 それを聞いた私は大きく項垂れ頭を抱える。

 身体の力が抜けるってまさにこういう感じなんだろうなぁ。


「はぁ……恋愛に関してはヘタレは直ってないんだね。やってること最低だよ? 普通ならドン引き」


 思ったままを直球で言い放つ。



「あの2人じゃなかったら今頃ヘタレチャラ男として噂になってるレベルだよ。まぁ、あくまでの恋愛の話だけどね」

「うぐ……」


 そう! 普通の恋愛ならこんな優柔不断な男はフラれて当たり前だ。

 だけど、新島先輩と水瀬先輩はお兄ちゃんの答えを待つと言っている。

 裏を返せば、あの2人ならそうそう離れていくことは無いということだ。


 そう考えた結果私は決意した。



 ハーレム計画を実行するには今しかない!



「でも、そのおかげか2人もキープが出来たのはよかったかな」


 私は敢えて『キープ』という単語を選んだ。

 いきなりハーレムと口にしたところで拒絶される事は明白だからだ。


「俺はキープなんて思ってないし、どっちも本気で好きなんだよ!」


 予想通り、お兄ちゃんはキープという単語に反応した。

 これを本気で言ってるんだからすごいというか何というか。 

 変に実直な一面もお兄ちゃんらしいけど。


「お兄ちゃん、世間一般で今の状態はキープしてるって思われて当然だからね?」

「え? でも、本気で好きだし」

「でもどちらとも付き合わないんでしょ? それで二人はお兄ちゃんの事が好き。立派なキープだよ」


 私がそう言い切ると、「なんてことだ」と言わんばかりに頭を抱えて崩れこむ。

 あれだけ猛反対した自分自身がキープを作っていた事をようやく自覚したみたいだ。


「ようやく状況を理解してくれたみたいだね」

「う~ん……俺は一体どうすればいいんだ……」 


 お兄ちゃんは文字通りずっと頭を抱えている。

 私はここぞとばかりにあの話題を切り出した。


「いっそのことハーレム作っちゃおうよ! お兄ちゃんの事好きな女の子でいっぱいにしよう!」

「何を言ってんだ? 漫画やアニメじゃあるまいしそんな事出来る訳ないだろ」

「でも現に今2人いるじゃん。この調子でもっと増やそうよ!」

「馬鹿いうな。俺は楓と南だから選べないんだ。他の女子ならキチンと断るさ」 

「でもお兄ちゃんチョロイからな~。それに恋愛経験値低いから説得力がないよ~」

「うるせ。俺はちゃんとどちらか選ぶ!」

「はいはい頑張ってね」


 私はワザとらしくそっぽを向いて足をバタバタさせてみせる。

 返す言葉が無くなったのか、お兄ちゃんは勢いよく立ち上がり部屋に戻ろうとする。

 そして振り向きざまに


「覚えてろよ!」


 と悪役のような言葉を言い残し部屋から出ていった。


「可愛い妹はいつもお兄ちゃんを応援してるよ~!」


 隣の部屋に聞こえるように私はそう言い放ち、今日の報告会議は終了した。



 お兄ちゃんが部屋から出ていった後、スマホを手に取り通話をタップする。

 数コールして相手が出た。


「もしもし~?」

「もしもし沙月ちゃん? 今大丈夫かな?」

「全然オッケーだよ」

「ありがと。この間のハーレム計画の事なんだけど」

「うんうん、どうだった?」

「お兄ちゃんに提案してみたけどやっぱり断られた」

「そっか~。でもそれが普通の反応だから仕方ないよ」


 沙月ちゃんの言う通り、お兄ちゃんの反応が普通なんだ。

 だけど私はハーレム計画という普通じゃない事をしようとしてる。


 お兄ちゃんに好意を寄せてる女子だけ集めて仲良くする。

 それに乗じて私もアピール出来るという事なんだけど……。


「ねぇ、沙月ちゃん」

「ん? なに?」

「ハーレムって具体的にはどうすればいいの?」

「お兄さんが女の子を侍(はべ)らす感じかな?」

「それだとさ、今とあまり変わらないんだよね」

「あ~、確かに。既に2人も居るもんね。私を入れれば3人だけど」

「うん。それで考えたの。ハーレムってなんだろうって」

「私も思いつきで言ったところあるからなぁ。女の子皆が幸せになれるとかじゃない?」


 女の子皆が幸せになれるのがハーレムかぁ。

 それはそれで楽しそうだけど、お兄ちゃんを独り占め出来ない。

 こんな事考えちゃうなんて、私って独占欲強かったのかなぁ。


「そういえば明日また合コンやるんだ~」

「へ~、じゃあ香織も喜んでたでしょ?」

「まぁね。それでね、一応柚希ちゃんに教えておいた方がいいかなって思って」

「なぁに?」

「その合コンにお兄さんを呼んで貰える事になったの」

「え! お兄ちゃんからは何も聞いてないよ!」


 私に隠し事なんかして許さないんだから!

 それに、ハーレム否定してたのに合コン行くって何考えてるの!

 しかも新島先輩と水瀬先輩をフッた直後なのに!


 沸々と湧き上がる怒りを感じていると


「まだお兄さんには話してないから知らなくて当然だよ」


 と返してきた。


「どういう事?」

「ホントは嫌だったんだけど、どうしてもお兄さんに会ってみたかったから孝弘に頼んどいたの」


 なるほど。

 水樹先輩の従妹(いとこ)の沙月ちゃんなら先輩の連絡先を知っててもおかしくないか。

 それに水樹先輩とお兄ちゃんが仲が良いのはこの間話したし。


「そうなんだ。でもお兄ちゃんが素直に合コンに参加するとは思えないなぁ」

「そこは孝弘次第かなぁ。連れてこなかったらもう連絡しない! って少し脅しておいたし」

「はは、さすが沙月ちゃん。ズルい女だね~」

「ちょっと~やめてよね~」

「ははは、冗談冗談」

「もぅ~!」


 その後、少しの間他愛もない話をして通話を終了した。




 次の日、お兄ちゃんはバイトの面接に行くと言って家を出ていった。

 合コンの事は何も言っていなかったので、まだ水樹先輩から連絡は無いみたい。


 それにしてもお兄ちゃんがバイトかぁ~。なんだか感慨深いなぁ。

 春先までのお兄ちゃんからは想像できないよ。

 ま、私のプロデュースが上手く行ってる証拠だよね。


 それに今日は仕組まれているとはいえ合コンに行く。

 いつも仲間内だけでのやり取りしかしてこなかったお兄ちゃんには少しハードルが高いかもしれないなぁ。

 まぁ、そこは沙月ちゃんが上手い事やってくれると信じよう。




 昼に出ていったお兄ちゃんが帰ってきたのは夕食前だった。

 面接だけならこんなに時間は掛からないだろうから、水樹先輩が上手く合コンに誘ったのだろう。

 早く話を聞きたい気持ちを抑えて、いつもの会議の時間まで我慢する。



 夜11時、部屋のドアがノックされる。


「どうぞ~」


 と言ってお兄ちゃんを部屋に招き入れる。

 いつもの位置に座ったのを見計らって質問する。


「面接どうだった? 採用されそう?」

「変わった店長だったけど、その場で採用されたよ」

「その場で採用とか凄いじゃん!」

「なんか、イケメンだから採用! って言われた。面接ってこんな物なのか?」

「ん~、顔で採用してる企業とかある位だからそんなもんじゃない?」

「そうなのか?」

「例えばア○ウンサーにブサイク居ないでしょ?」

「確かに!」

「表面上は否定するけど絶対顔で選んでるよ。あとは秘書とかね」

「言われてみればみんな美女ばかりだな」

「そういう事だから、今回の採用はお兄ちゃんの実力だよ」

「そっか。モヤモヤが少し晴れたよ」


 と言うお兄ちゃんはまだ浮かない顔をしている。

 ソワソワと落ち着きがなく、視線を彷徨わせている。

 きっと合コンの事を話したいけど、新島先輩たちの事もあって話しづらいのだろう。

 仕方ない、私から話題を振ろう。


「っていうか帰り遅かったけど何してたの?」


 と質問すると、お兄ちゃんは「えっと、その……」と言葉に詰まっていた。

 少しの間言うか迷っている様だったけど、意を決したのか真剣な表情になった。


「じ、実は今日、水樹にハメられて合コンに行ってきたんだ!」

「え! うそ! 本当に!?」


 わざとらしくならないように驚いてみせる。


「本当だよ。水樹に呼び出されて行ったら合コンの数合わせだったんだ」

「なるほどね~。それで? 楽しかった?」

「え? お、怒らないのか?」

「何が?」

「だって楓と南の事好きって言ってるのに合コンに行ったんだぞ?」

「別に付き合ってる訳じゃないんだからお兄ちゃんの好きにしていいんじゃない? 私としてはもっと色んな女子と交流深めて欲しいしね」

「でも……」

「もー! ウジウジしないの! 行っちゃったものはしょうがないんだから深く考えないの!」

「あ、ああ」

「で、もう一回訊くけど合コンはどうだった?」

「ああ、実は――」



 その後、合コンでの出来事を聞いて今日の会議は終了となった。

 今はいつも通り、スマホをいじりながらベッドに横になっている。


 予想通り、合コンでのお兄ちゃんは役に立たなかったみたいだ。

 女の子と喋る訳でもなく、歌うでもなく、ただひたすらドリンクを飲むという事をしてたらしい。


 いつまでも歌わない事がバレて苦し紛れにメジャーアーティストがタイアップしたアニソンを歌ってやり過ごそうとしたら隣の女の子から話しかけられた。

 その子はお兄ちゃんが歌ったアニメを知っていたらしく、その後はずっとその子と話してLINE交換したみたいだ。


 十中八九その女の子は沙月ちゃんだろう。

 どんな男にも対応出来る様にアニメもチェックしてたに違いない。


 っていうか同じアニメを見てたってだけで打ち解けすぎじゃない?

 私ももっとお兄ちゃんの好きなアニメを見ないと!


 そう新たに自分の中で誓いを立てて眠りについた。


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