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第18話

 今日の朝早く、お兄ちゃんはキャンプに向かった。

 一泊の予定なので、明日の夜には答えが聞ける筈。


 新島先輩と水瀬先輩、どちらを選ぶのだろう?

 どっちを選んでも後悔して欲しくない。


 もし、万が一、どちらとも選ばなかったら……?


 そうなったら私は――――。



 部活も無く、家でジッとしていると気分が落ち着かない。

 なので、私はめぐを遊びに誘う事にした。

 スマホを手に取り電話を掛ける。


「もしもし、おはよう」

「おはよう~。どうしたの?」

「折角部活が無いから遊びに行こうかなって。今日空いてるかな?」

「うん、大丈夫だよ。何時からにする?」

「ん~、今からどう? お昼食べながら何するか話そうよ」

「うん、いいよ」

「良かった。それじゃあいつもの場所で待ってるね」

「は~い」


 通話を終えてベッドに倒れ込む。

 めぐは本当に良い子だ。

 私が一人で結果を待つのが怖くて、急な誘いにも応じてくれる。


 私の気持ちを告白したらどんな顔するだろう?

 めぐだってお兄ちゃんの事が好きだった。

 諦められないと泣きついてきた事もある。


 やっぱりめぐには絶対に話せない。

 もし知られたら……。

 スマホの画面を見つめたまま呟く。


「ごめんね、めぐ……」




 いつもの待ち合わせ場所に着き、めぐを待つ。

 数分もしない内にめぐがやって来た。


「ゆず~、お待たせ~」

「全然待ってないから大丈夫だよ」

「それにしても暑いね」

「ね~。部活無くてよかったよ」

「ホントだよ。部活も夏休みの間は休みにして欲し~」

「あはは。とりあえずお昼行こっか?」

「そうだね。早く涼みたいよ~」


 他愛のない話をしながら歩き出す。

 やっぱりめぐと話していると気分が落ち着くな~。


 お昼を何処で食べるか話し合った結果、いつも利用しているファミレスに落ち着いた。

 まぁ、待ち合わせ場所から近いというのが一番の理由だけど。


 ファミレスに着き、店内に入ると冷房が効いていて気持ちいい。

 席に案内され、それぞれメニューを眺める。


「ん~、どれにしようかな」

「私はオムライスにしよ~。ゆずは?」

「じゃあ私はエビドリアにしようかな」

「それも美味しそう! う~ん、どうしよう~」

「めぐって優柔不断だよね」

「そんな事ないよ~」

「今も悩んでるじゃん」

「そ、そうだけど~」


 皆で食事する時も一番にメニューを決めるけど、最後まで悩むのもめぐだ。

 服を買いに行くと、一着選ぶのに一日掛かったりもした。


 そんなめぐが面倒臭いと言う子もいる。

 だけど私はめぐの優柔不断なところも好きだ。

 一日中振り回されても全く嫌に感じない。むしろ楽しい。


 中学入ってからの付き合いだけど、めぐは私の事を親友と言ってくれる。

 勿論私もめぐの事を親友だと思ってる。


 だからこそ言えない事もある……。


「ゆず、ねぇ、ゆずってば!」

「え? な、なに?」

「もう! 聞いてなかったでしょ?」

「ごめんごめん、ちょっと考え事してて」

「もう~。 注文決まったから店員さん呼ぶよ?」

「うん、ありがと」


 呼び出しボタンを押すと、すぐに店員さんがやって来た。


「お待たせしました。ご注文はお決まりでしょうか?」

「私はオムライス一つお願いします」

「私はエビドリアお願いします」

「オムライス一つにエビドリア一つですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

「かしこまりました。では少々お待ちください」


 店員さんが戻って行くと、めぐが小声で話してきた。


「今の人って私たちと同い年位だよね」

「だと思うけど、それがどうかした?」

「ちゃんと働いてて凄いな~って」

「凄いかぁ」

「うん。私なんてお小遣い貰ってるだけだから」

「それは仕方ないよ。部活やってるんだし」

「それはそうなんだけどね~。なんか経験豊富って感じがする」


 経験豊富か。私も今の店員さんには似た様な物を感じた。

 接客業だから当たり前なのかもしれないけど、見えない仮面を付けている感じだった。



 しばらくして料理が運ばれ、分け合いっこしながら食べた。

 その間も、めぐはアルバイトしようか悩んでいた。

 結局は部活があるという事で諦めたけど。


「もうすぐ13時だしそろそろ出ようか?」

「うん。って言いたいけど外暑いからな~」

「気持ちは分かるけどね」


 と話していると、通りすがりの子に話しかけられた。


「あれ? 柚希ちゃんと恵美じゃん! ひさしぶり~」

「え? あ! 香織じゃん! 久しぶりだね~」

「ホントだ! 久しぶりだね~」


 声を掛けて来たのは中学の時同じクラスだった?村本香織?だった。

 確か香織は少し離れたお嬢様学校に行ったんだっけ。


「何してるの? こんな所で」

「実は友達がここでバイトしてて、終わるの待ってるの」

「へぇ~、お嬢様学校に通っててもアルバイトするんだ」

「あ! それは偏見だよ」

「そうだね、ごめん」

「別にいいよ。そうだ! 折角だから友達紹介するよ」


 そう言って香織は私たちの席に座った。



 高校に入ってからの事等を話していると


「ごめ~ん、お待たせ~」


 とさっきの店員の子が学校の制服でやってきた。


「あれ? 知り合いなの?」

「中学の同級生の佐藤柚希ちゃんと染谷恵美ちゃん」

「そうなんだ。初めまして、桐谷沙月(きりやさつき)です。ヨロシク~」

「こちらこそ、よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

「あはは、恵美ちゃん緊張しなくていいよ~。それに柚希ちゃん……だっけ?」

「はい?」

「なんだか柚希ちゃんとは仲良くなれそう! ヨロシクね♪」

「私も沙月ちゃんとは気が合いそうって思った。よろしく~」


 今の視線でさっきの仮面の正体が分かった。

 きっと沙月ちゃんもなんだ。


 ううん、ちょっと違うかな。

 を強く意識してる。


 そんな事を考えつつめぐと話していると、香織が沙月ちゃんに耳打ちした。

 何を聞いたのか、沙月ちゃんが残念そうな顔をした。


「どうかしたの?」

「実はもう一人友達が来る予定だったんだけど、来れなくなったみたい」

「そうなんだ、残念だね」

「うん、結構楽しみにしてたか……っ!?」


 沙月ちゃんの表情が変わり、今度は沙月ちゃんが香織に耳打ちする。

 そして香織は私をチラッと見ると、沙月ちゃんに耳打ちする。


 話し合いが終わったのか、二人揃って此方を向くと沙月ちゃんが


「ねぇ、二人共これから時間ある? 良かったら一緒に遊ばない?」


 と提案してきた。

 私自身は別に構わないけど、めぐはどうだろう?


「どうする? 私は良いと思うけど」

「私も大丈夫だよ。ゆずに付き合うって言ったしね」

「ありがとう」


 めぐの了解を得て沙月ちゃんに返事をする。


「私たちも大丈夫だよ」

「ホント! よかった~」

「じゃあ何処行こうか?」

「それなんだけど、これからカラオケ行く予定だったんだけどどうかな?」

「うん、いいよ。久しぶりだから楽しみ~」


 こうして私達はファミレスを後にして、カラオケボックスに向かって歩き出した。

 カラオケなんて何時以来かな?

 お兄ちゃんのプロデュースを始めて、部活も大変で行く暇が無かったからなぁ。


 それに今日は沙月ちゃんと知り合えたのは私にとってプラスになるかもしれない。

 直観に近い感じで私と同じ匂いを感じたけど、少し探りを入れてみよう。


 そう考え、沙月ちゃんの隣まで行き話しかける。


「今日は誘ってくれてありがとう」

「ううん、こっちこそ急に誘っちゃってごめんね」

「それは大丈夫。私たちも特に予定ああった訳じゃないから」

「そう言ってくれると助かる~」


 先ずは軽い会話で沙月ちゃんと打ち解ける。

 少し話したとろで本題に入る。


「ところで、どうして制服着てるの?」

「あ~、これ? 制服着てると男ウケ良いんだよね~」

「へ~、そうなんだ」

「桜臨高校って世間じゃお嬢様学校って言われてるでしょ? だから制服着てるだけで注目されるんだ~」

「男の人って制服好きだもんね~」


 やっぱり男ウケを狙って制服を着ていたようだ。

 だとすると、今制服着てる理由は……


 と考えていると、不意にめぐに話しかけられた。


「なんの話してるの?」

「ん? 制服可愛いねって話してたところ」

「あ~、桜臨の制服可愛いもんね~」


 めぐの疑問をそれらしく躱し、その場をやり過ごす。

 もっと深いところまで聴きたかったけど今の状態じゃリスクが大きいのでやめておこう。





 そうこうしている内にカラオケボックスに着いた。

 すると、ロビーに居た男子たちの一人が沙月ちゃんに声を掛けた。

 ナンパかな? と思ったが、どうやら知り合いらしい。

 っていうか何処かで見た事があるような?


「沙月、遅刻だぞ」

「ごめんごめん、恭子が急に来れなくなっちゃったからさ」

「マジ! じゃあメンツ足りないじゃん」

「大丈夫、他の子連れてきたから」


 と言って沙月ちゃんは私とめぐの方を見る。

 やっぱり制服を着ていたのはこういう事だったのか。


 私はともかく、めぐを付き合わせる訳にはいかない。


「沙月ちゃん、ちょっといいかな?」

「なになに?」


 沙月ちゃんを呼び、皆に聞こえない様に話す。


「これはどう言う事?」

「実は合コンだったんだ~、ごめんね」

「謝んなくていいよ。その代わりめぐには帰って貰うけどいいでしょ?」

「もしかして恵美ちゃんこういうの苦手?」

「まぁそんな感じ」

「じゃあ無理に参加させられないね」

「ありがと」


 沙月ちゃんと話し終え、今度はめぐに話しかける。

 めぐはこれが合コンだと知ると、案の定少し身体が震え出した。


「めぐ、大丈夫だよ。めぐは体調が悪くなったって言って帰っていいから」

「え? でも……」

「私の心配はしなくていいからね。だからめぐは先に帰ってて」

「……う、うん」

「帰ったらLINEするから」

「絶対だよ?」

「うん」


 沙月ちゃんから事情を説明して貰い、無事めぐは帰っていった。

 さて、ここからどうしよう?

 私も何か理由付けて帰る事も出来るけど……。


 沙月ちゃんがどういう振る舞いをしてるか興味もあるしなぁ。

 とりあえず様子見しとこう。

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