目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報
クールでサディストな御曹司とベッドの上で…
クールでサディストな御曹司とベッドの上で…
桜立 風
恋愛現代恋愛
2025年02月07日
公開日
1.5万字
連載中
「私の婚約者になってもらいます」

「…は?」

「驚きます?…じゃ偽装で」

多額の借金を抱え、会社では許されていないホステスの副業をしている片瀬舞楽(かたせまいら)の前に
突然現れた上司、専務取締役、西園寺裕也(さいおんじゆうや)。

結婚を汚らわしい制度と切って捨てる訳ありのイケメン上司は、
意地悪でクールで冷たいサディスト。

弱みを握られて断れない私は、偽装婚約者を引き受けるものの…
まさかダブルベッドで一緒に寝るハメになるなんて…!

敬語を崩さない冷たい御曹司(29)

借金まみれの極貧落ちこぼれ秘書(24)

ダブルベッドで語らう2人の恋の行方は…いかに。






※フィクションにつき、実際の仕事とは違う場合があります。




1章…第1話 プロローグ

はぁ…今日も眼福…


ダブルベッドの端に寝転がり、落ちそうになるのをギリギリ耐えながら、私は目の前で無防備に横たわる人を見た。


前髪が少し長い黒髪。鼻が高くて、立体的な唇。開くとちょっと怖い目も、今は閉じられて、実は長いまつ毛がこれでもかと主張する。


私の手にはスマホ。

…その明かりで、隣に眠る人の寝顔を盗み見るのは、私にとっての至福の時間となった。


午前6時。

太陽がのぼって朝の光がカーテンの端に届く。

遮光性の高いカーテンは優秀で、夏の強い光もシャットアウトしてくれそう。

ちなみに難燃性で言う事なし。


その人は日射しを浴びないと目を覚まさないとを知ったのは、ダブルベッドで一緒に眠るようになってから。

会社でそんなことを知るのは私だけだと、つい…優越感。



…間もなく桜が咲く季節。



私は今、会社の上司である、西園寺裕也さんと同じベッドで横になっている。


「朝は苦手です…」

寝起きの無防備な姿を惜しげもなく見せて…


そんな顔だけじゃない。


今まで知らなかった裕也専務の素顔を知るようになって、私の心の中は穏やかではなくなった。



やがて…チュンチュン鳴く鳥の声がして、専務のストレートの黒髪に、朝の光がさしはじめた。



見ると、カーテンが自動で開き始めてギョッとする。



あれぇ…?こんな機能あったかな…



早くも隣でゴソゴソ体を動かす裕也専務に焦り、私はスマホごと、両手を毛布の中にしまった。


目を閉じて、寝たふり…



これで本気で寝ちゃったら大変だなぁ…なんて思いながら、取りあえず片目だけ開けてみれば。


目の前にボンヤリしたイケメンの顔が迫ってる…!?



「わぁ…っー…っ…!」




横向きに寝転び、右手で頭を支え…裕也専務は私をじっと見下ろしていた。



「…寝るか起きるか、どっちかにしてください…」


寝起きの掠れた声…セクシーって言うんでしょうか?


至近距離で髪をかき上げるから、凛々しい眉と伏せた目元の長いまつ毛、それに賢そうなおでこが顔面に迫って焦るのですが?…


それに…髪が動いていい匂いがする。

心臓に悪いです…。



「あの…カーテン、勝手に開きました…」


窓を指さして、不審な出来事を訴えれば、専務の片方の眉だけがピクリと上がる。


「そーゆー設定です」


「なんで…?」


「ずっと寝顔見てるから」


…バレてる…

途端に熱を持つ私の頬。

いや、耳まで熱いかも…!


「すいません、その…朝早く起きる習性がなくならなくて、ですね…」


「違いますよね。楽しんで見てません?俺の寝顔…」


「…弱点が、ないものかと、見てました」


「…俺に弱点なんかねーわ」


私の苦しい言い訳に、少しだけ感情が揺れたみたい。


それは…敬語が崩れるのが合図。 


それが現れると、私は嬉しくて小躍りしたくなる。

そんな私の本心を知ったら、裕也専務はきっとまた…眉をひそめるだろう。



「…今日の予定は?」


「…え?あの、はい」


やや高圧的に聞かれて、それでなくても焦るのに。毛布の上から裕也専務の腕がお腹にぶつかるから気が気じゃない。



返事を待つ切れ長二重が、ジッと私を凝視するから、必死に頭を巡らせた…



「今日は…朝7時から、海外の支社と繋いでリモート会議です」


…言ってからハッとした。


今朝は奇跡的にそうでもないけど、専務は寝起きの始動がすこぶる遅い。

あと1時間でしっかり目覚めてもらわないといけない計算になる…!


「朝食を、急いで準備しますね。専務はどうぞ、シャワーを浴びてください」


私は急いで上体を起こした。


「…いたっ!」


さっき裕也専務の寝顔を見ようとして、変な姿勢で変な筋肉を使ったからか、背中の変な筋が痛んだ。


そんな私を横目で見て、呆れたように言葉を吐き出す裕也専務。


「ギリギリ端っこで寝るからです。もっと堂々と、俺を押しのけて寝なさい」


「はい…」


毛布の中で触れそうになるだけでもドキドキするのに、押しのけるなんて絶対無理…。


裕也専務はいつも平然として、熟睡して、余裕で。

気持ちの違いに心の奥のほうが、キュッと痛くなる。



…私は好きな人と、毎晩ダブルベッドで一緒に眠ってる。


それはとても嬉しくて幸せなことだけど…同時にひどく切ないこと。


なぜなら、私を横に置いて平気で眠れるのは、女として見られていない証拠だから。



「…なにをボケっとしてるんですか?」


上体を起こしたくせに固まっている私を通り越して、専務がベッドから降りた。



「朝食は温かいスープにしてください。…今朝はなんだか冷えるので」


「…かしこまりました」


柔らかい素材の黒いジャージと白いVネックTシャツの背中がドアの向こうに消え…私も追いかけるように寝室を出た。




不思議な会話を繰り広げる私たちの関係、それは、専務取締役とその専属秘書。


そして同時に婚約者でもある。


ただし頭に「偽装」という言葉がつく、偽りの関係だ。



うっかり芽生えてしまった自分の気持ちは、専務に気づかれてはならない。


バレたらその時は…私は即座に首を切られ、もらった報酬を返却する約束だから。



それにしても…

どうしてこんなことになったのか…


同居はわかるけど、同じベッドで眠らなくてもいいんじゃないか…?


いや、一緒に寝ましょうと言ったのは私だった…


クールでサディストな裕也専務と、毎日同じベッドで眠るようになった経緯を…私はボンヤリ思い出していた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?