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第32話 新たなるスタート。

「我が愛するドノナスト国民、及び異国からの来訪者よ! 良くぞ集まってくれた! まずはその事に感謝する!」


 俺はストーリア城二階のベランダから、王城敷地内にある巨大な庭園に向かって声を張る。母さんの精霊魔術魔術によって拡大された俺の声は、きっとストーリア中に響いている事だろう。


 俺の右脇には母さん、ノーティアス、ルインダネス。左脇にはナディア、フェイト、エステルがそれぞれ控えている。


 庭園には数え切れない程の民衆が押し寄せていた。俺のスピーチがある事は、事前に告知してあったのだ。


「ドノナストはかつて栄えたエルフの王国だが、一度滅亡している。復権したのは極最近。まだ国境も定まっていない状態だ」


 俺の言葉に、全員が黙って耳を傾ける。


「その為隣国のルーデウスに使者を送っていた。そしてこのたびめでたく国境が決まった! 国王カシムとの交渉によって!」


 オオー! と歓声が上がる。


「ルーデウスの南に位置する商業都市ハイデル。その南東に流れるラグラック川から東、海岸線までの一帯から南に広がる山岳地帯までが我がドノナストの領土となった!」


 空が割れんばかりの大歓声が庭園中に響く。きっとストーリアの中はどこも同じような状況だろう。


「嬉しい事にドノナストには、移住者や新たな命達も随分と増えた。よって本日より、領土拡大に伴う町道の整備と新たな町づくりに取り掛かろうと思う! 皆、手を貸してくれるか!」


 庭園からは威勢の良い返事が返ってくる。俺は頷きながら言葉を続ける。


「感謝する! すでに町の名前と統治者は決定している! 今からそれを発表する!」


 賑やかに騒いでいた民衆達も、しばし口をつむぐ。そして期待に満ちた表情で俺の言葉を待っていた。


「その前に一つ伝えたい事がある。俺の妻の事だ。王妃であるシェファールの他に五人の妃を娶る。町の統治者もその中から選出した。では発表する!」


 固唾を飲んで見守る民衆。俺は愛しい恋人達を振り返って微笑んだ。彼女達も同じように微笑みを返してくれる。


「まず第二王妃ナディア! 彼女は引き続き宰相としての仕事もこなす為、ストーリアに残る。ナディア、皆に挨拶を」


「はっ!」


 ナディアは毅然とした態度で俺に敬礼し、前に進み出る。


「私の名はナディア。以前はエルフの村で村長をしていた者だ。始まりは五百人程の小さな村だった。だが、今ではこんなに大きな王国となった。かつてのドノナストを超える勢いで発展している。これも全ては偉大なるダーザイン陛下と、その母にして妻、ドノナスト王家の末裔であるシェファール様のお陰。そして多大な貢献をしてくれたエルフの民、ダークエルフの民、そして力を貸してくれた人間の民のお陰だ。本当にありがとう」


 ナディアの演説に、人々から歓声が上がる。


「ナディア様ー!」


 かつてのエルフ村、フォレス村出身の者達がナディアの名を呼ぶ。皆ドノナストの優秀な騎士となった、戦力の要達だ。


 中でも騎士団の隊長である五つ子、イシュタル、ニンファドーラ、ミント、シフォン、ゴーフレット。彼女達はかつて、ナディアの側近だった者達。他の者よりも一層感慨深いものがあるだろう。


「おめでとうございます、ナディア様!」


 庭園から、涙を流して祝福の言葉を述べるイシュタル達。それを受けて、ナディアの目からも涙が溢れる。


「ありがとう、みんな......! オークの軍勢を退けたあの戦いが、全ての始まりだったな......! 命がけで戦ってくれた貴殿達の勇気、決して忘れはしまい!」


 声が震え、ナディアは一旦そこで言葉を切る。


「私は今日より第二王妃となった。妻として、宰相として、これからもダーザイン陛下を支えて行くつもりだ。よろしく頼む」


 ナディアは一度俯いたが、指で涙を拭って顔を庭園に向けた。その笑顔は太陽のように輝いていた。


 割れんばかりの拍手。ナディアは一礼し、妻たちの列に戻る。


「ありがとうナディア。では、第三王妃ノーティアス。挨拶を頼む」


「うん!」


 ノーティアスはいつも通り元気に挨拶をして前に出る。


「えっと......何から話そうかな。あ、ボクの名前はノーティアス。まぁ、みんな知ってるよね。元々はエルフの村、ラグディアの村長だった。だけど村はオーク達によって滅ぼされた。男は殺され、女は奴隷として捕らえられた。そんな折に、ダーザイン陛下が決起した事を知ったんだ。力がみるみる沸いてきて、ボク達はオークに反乱した。エルフは皆、オークを憎んでいた。だけどボクは、彼らを殺さなかった。きっといつか分かり合える日が来る。そう思ったんだ」


「ノーティアス様......!」


 彼女の名を呼んだのは、ノーティアスと共にオークへ反乱した女性エルフ達。そしてかつてはオークだった男性エルフ達だ。


「ダーザイン陛下は寛大にも、オーク達を許した。そしてボク達と同じエルフへと変化させた。それは本当に偉大な決断だったと思う。今ではみんなが手を取り合い、新しい命を育んでいる。この素晴らしい国の一員になれた事を、ボクは誇りに思う。そしてダーザイン陛下のお嫁さんになれた事は、本当に幸せな事だと思う。そしてボクは、新たな町の統治を任された。町の名前はラグディア! 一度滅んだ、ボクらの村の名前だ!」


 ワァーッと歓声が上がり、拍手が巻き起こる。


「ノーティアス町長様万歳!」


 主に男性エルフで構成される国家兵団の団長、元オークのギルデロイが叫んだ。その目には涙が浮かんでいる。


「ありがとうギルデロイ。みんな、本当に優しくなったよね。昔は残酷なオークだったなんて、きっと誰も信じないよ。さて、ボクの挨拶はこれで終わり。このストーリアからは離れるけど、いつでもラグディアに遊びに来てね!」


 手を振って妻達の列に戻るノーティアス。それを拍手と歓声で見送るエルフ達。


「ノーティアス、ありがとう。次はフェイトだな。よろしく頼む」


「うむ、任せるが良い!」


 颯爽と前に進み出るフェイト。青いツインテールが揺れる。


「よくぞ集まったな皆の衆! ワシの名はフェイト! 人間ではあるが、エルフ国ドノナストの第四王妃じゃ!」


 ウワァーッと沸き起こる歓声。エルフだけでなく、他国からの冒険者や商人も目を輝かせている。


「冒険者ならば、裁定者であるワシの顔を知らぬ者はおるまい。昇格試験ではワシの面接があるからのう。まぁ、それ以外にも裁定者はあらゆる犯罪の抑制、断罪に大活躍しておる。ファンが多いのは人気者の定めじゃ」


「いいぞー! フェイト様!」


 冒険者の一人が叫び、他の者達もそれに続く。


「じゃが、今日よりワシは一人の男のモノとなる。それは偉大なるドノナストの王、ダーザイン陛下じゃ。ワシが初めてダーザイン陛下と出会った時、ワシは陛下の素養と力を試した。陛下はワシの想像を何倍も超える実力を備えておった。ワシはもう、完全に陛下の虜になってしまったのじゃ。だからすまぬのうお主ら。ワシのファンクラブは解散しなくても構わぬが、あまり陛下に嫉妬せぬようにな」


 ドッと笑いが巻き起こる。どうやらこれはフェイトの冗談だったようだ。


「今後ワシは新たな町の統治者になる。町の名はファナキア。このストーリアより南西に位置する。ノーティアスが治めるラグディアはここより北西。つまり南北で対をなす型になる。ワシに会いたい者は、ファナキアに来るが良い。手厚くもてなそう」


 そう言って妖艶に微笑むフェイト。幼い容姿だが、彼女にはなんとも言えない色気があるのだ。


「それと......裁定者の後継は未だ見つかっておらぬのでな。今後も継続するつもりじゃ。ワシは時間と空間を操る【青の主】。どこで悪さをしようとも立ちどころに見つけ、捕らえるぞ。特に冒険者達は己の力に慢心し、人々を傷つけたり奪ったりする事のないようにな」


「はい! わかりました!」


 冒険者達が元気に返事を返すのを見届け、フェイトはきびすを返して妻達の列へと戻った。人々は盛大な拍手と声援で彼女を見送る。


「ありがとうフェイト。次は第五王妃ミコ......エステル、頼む」


「オッケー! 任せといて!」


 ニカッと歯を見せて笑い、親指を立てつつ前に出るエステル。


「皆さんこんにちは! えー、このたび、晴れてダーザイン君の奥さんになった勇者のエステルです! よろしく!」


 オオオーッ!と大歓声。「勇者様!」と皆が口々に叫ぶ。


「こんな日が来るなんて、本当に夢のようです。彼と最初に出会った、あの時からは想像もつかない。あたしは、最初ダーザイン君と敵対してました。皆も知っての通り、昔のダーザイン君はエルフではなくオークだった。彼はオーク国ヴィーハイゼンの大将で、軍を率いてエルフの村を襲いに来たんです。あたしはダーザイン君を殺そうとした。だけどその時、母親であるシェファールさんが彼を庇ったんです」


 庭園からどよめきが起こる。無理もないだろう。それは、これまで一部の者を除けば公(おおやけ)にされていない事実だ。だが、構わない。俺は皆に全てを知っておいて欲しかった。


「あの時の彼の目を、あたしは忘れません。これまでの自分の悪行を悔い、正そうとする目でした。自分を殺してもいいから、母だけは助けてくれ。彼はそう言いました。私は悟りました。彼は善に目覚めたのだと。私は彼を許す事にしました。その後の彼の活躍は、あたしよりも皆さんの方が知っているでしょう。そうです。オークの軍勢を返り討ちにし、エルフの王国を再興した。偉大なる王です!」


 どよめきが消え、歓声が沸き起こる。


「ダーザイン陛下万歳!」


「勇者様、陛下を助けてくださってありがとうございます!」


 皆の声援に、俺とエステルは手を振って応える。


「皆さん、声援ありがとうございます。えっと、その後ですね。ちょっと言いにくいんですが......【黒の主】によって洗脳されたあたしは、正気を失ってドノナストの人々を傷つけてしまいました。けれどそんなあたしを、ダーザイン君とシェファールさんは救ってくれたんです。本当に、いくら感謝してもしきれない恩が二人にはあります。二人は今や親子であり夫婦でもある、なんだか複雑な関係ですが......あたしもその夫婦の枠に入れてもらえて、本当に幸せです! ふつつか者ですが、皆さんよろしくお願いします!」


 拍手と歓声でそれに応える民衆達。エステルは微笑み、言葉を続ける。


「あたしはドノナストにおける四つの町、全ての冒険者ギルドを統括するグランドマスターになります。なのでこれからもストーリアでダーザイン君を支えていきます。あたしに用事がある人は、いつでも王城に来てくださいね! 以上です!」


 手を振りながら妻達の列に戻るエステルを、人々が拍手で見送る。


「よし、次は君だルインダネス。よろしく頼む」


「おう! 任せときな!」


 胸をドンッと叩いてニヤリと笑うルインダネス。豊かな膨らみがタプンと揺れる。


「よう! オレが第六王妃になったルインダネスだ! 一度はこの国を支配しようとしたが、ダーザインに負けてコイツの女になった。ダーザインは最高の国王だ! オレはぶっちゃけ、負けて良かったと思ってる。コイツの女になれたんだからな!」


 国王をコイツ呼ばわりした事で不満を感じる者もいそうだな、と俺は思った。だが案外皆、すんなり受け入れているようだ。ルインダネスの持ち味というか、キャラが立っているので嫌味がないのだろう。


「姐さん! 俺たち、寂しいです!」


「俺たちの姉御が......!」


「うう、族長......!」


 男泣きするダークエルフ達。庭園に集まっているダークエルフは男性ばかりのようだ。


「馬鹿野郎ども! メソメソしてんじゃあねぇ! テメーらもダーザインの強さと偉大さは知っている筈だ! そして忠誠を誓った身だろうが! オレはダーザインの女房にはなるが、テメーらを大事に思う気持ちに変わりはねぇ! どこまでもついてきやがれ!」


「姐さん!」


 ダークエルフ達はルインダネスに喝を入れられて目を輝かせる。それを見てルインダネスは微笑んだ。


「オレは西の町、グローリアの統治を任された。他国とドノナストの国境を守る、言わば前線。怪しい野郎は何人たりとも通しはしねぇ! オレのレアスキル【謙虚なる領域】があれば、どんな強者だろうとレベル1!オレほど守りに適した人材はいねぇだろうよ!」


 ウォォッ! と群衆から雄叫びが上がる。それは主にダークエルフ達の声だ。


「ま、そんな訳でよろしく頼むわ! オレからは以上だ!」


 颯爽と手をあげて、きびすを返すルインダネス。その優美で勇ましい姿に、群衆は一層盛り上がった。


「ありがとうルインダネス。さぁ、最後はシェファに締めてもらおう」


「ええ、わかったわ。ダー君」


 母さんは大きな胸を揺らし、しとやかに前に出る。


「第一王妃のシェファールです。このたびはお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます」


 美しく微笑む母さん。その絶世の笑みに、一際大きな歓声が巻き起こる。


「ダーザイン陛下は、それはもうやんちゃな子でした。それがこんなに立派になって......本当に母親冥利に尽きると言うものです。それも全ては、これまで支えて下さった皆様のおかげ。陛下は王たる器を持っていて、その力も強大ではありますが、きっと一人ではここまでの偉業はなしえなかったでしょう。本当にありがとうございます」


 深々と頭を下げる母さん。


「滅相もないです、王妃様!」


「シェファール様の支えが、陛下には一番助けになったと思います!」


 民衆から拍手と声援が送られる。


「ありがとうございます。私はこれからも、息子であり夫でもあるダーザイン陛下と共に、このドノナストの繁栄の為に尽力して参りたいと思います。どうぞこれからも私達七名の夫婦を、よろしくお願い致します」


 ゆったりとした仕草で頭を下げる母さん。庭園からは鼓膜が破れんばかりの拍手と歓声。


 母さんが妻達の列に戻ったのを見計らって、オレは両手を広げた。それを合図に、妻達が全員前に出る。


「ドノナストに栄光あれ!」


 オレは叫んだ。地響きのような歓声。庭園に集まった人々は皆、口々に俺達を祝福した。


「おめでとうございます陛下!」


「ダーザイン陛下万歳! ドノナスト王国万歳!」


 やがて全員が、俺の名を連呼する。


「ダーザイン! ダーザイン! ダーザイン! ダーザイン!」


 俺達は皆の歓声に応えて手を振りながら、その場を後にした。


 そして歓声鳴り止まぬ中、俺達は王城の寝室で再び甘い時を過ごしたのだった。


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