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第30話 言葉の力。

「な、何が起こってる!?」


 焦燥感に包まれた、ルインダネスの叫びが耳に響く。俺の飛びかけた意識が戻った直後、周囲は大きな驚きの声を上げた。悲鳴も聞こえて来る。


 体が熱い。俺は自身の両手を見た。緑色をした両手はひび割れ、ヒビの間から光が漏れている。


 やがてヒビは全身に回った。それと同時にヒビ割れから漏れる光も強くなっていく。


「きゃああーっ! ダー君が、死んじゃう!」


「陛下!」


「お兄ちゃん!」


「兄上!」


「ダーザイン君!」


 俺の大切な者達の声が、遠くに聞こえた。


 ドンッ! 俺の体の内部から衝撃が起こり、全身の皮膚が弾け飛ぶ感覚。それは実際に衝撃波を生み、ルインダネスを闘技場の壁まで吹き飛ばした。


「うああッ!」


 吹き飛ぶルインダネスを、俺は冷静に見ていた。全てがゆっくりに感じる。感覚が研ぎ澄まされていると感じた。


「ダー君、なの......!?」


 母さんの声が聞こえる。驚きに満ちた声だった。その理由は分かっている。原因は俺の姿。


 鏡を見なくても、自分の姿が分かる。基本は以前の「ハイブリッドエルフ」がベースのようで、耳は長い。髪も長いままだが、色は緑から「白」と「黒」のツートンカラー。頭の中心から綺麗に半分に分かれている。


 瞳は金色。肌の色は変化なしで、筋肉量が少し減った程度。牙は無くなり、よりエルフの姿に近くなった。もうオークの要素は無いと言える。


 決定的に違うのは雰囲気だろう。自分で言うのもなんだが、どこか超然とした、まるで神々のような風格。


「俺だよシェファ。ダーザインだ。心配かけてすまない。もう大丈夫だ」


 俺は観客席の仲間達に向かって手を上げた。安堵のため息が聞こえてくる。


 壁際に倒れていたルインダネスが立ち上がり、俺を睨む。


「ハッ! 何をしたのか知らねぇが、そんな子供騙しの変身でオレがビビるとでも? オレは他人の能力を見抜くレアスキル【鑑定】を持っている。あんたの今のレベルはなんとゼロ! 【フィクサー】とかいうレアスキルがちょいと気にはなるが、やはりオレの敵じゃなさそうだ。今度こそ気絶させてやるぜ!」


「俺にとっては最早、レベルという概念は無意味となった。嘘だと思うのならかかって来い。君の攻撃は絶対に食らわん」


 俺は全裸で仁王立ちし、ルインダネスを手招きした。


「面白れぇ! 半殺しにしてやんよ!」


 猛然とダッシュして来るルインダネス。そして素早く手足での攻撃を繰り出して来る。だが、俺は難なくそれらをかわした。ルインダネスの攻撃は、かすりもしない。


「くそッ! どうなってやがる!」


 ルインダネスはイライラと攻撃を繰り出し続けるが、その全ては無意味。俺には二度と当たる事は無い。


 自身の発した言葉を現実化し、時に相手の能力さえも書き換え、時に無効化する。これが、「フィクサー」の力だ。


 俺は後ろに手を組み、ヒラヒラと攻撃をかわし続けた。そして一言、彼女に言い放つ。


「君は俺に逆らう意思を失い、屈服してその場に土下座する」


「何ッ!?」


 ルインダネスは雷に打たれたようにビクンと体を震わせ、そのままガクリと両膝を床につく。


「そんな、そんな......! こんな事、このオレが......! だけど、もう、あんたに勝てる気がしない......。オレの、負けだ」


 ルインダネスはそのまま土下座した。


 一瞬、闘技場全体が静まり返る。誰もが、状況を理解出来ずにいた。


「フェイト、聞いての通りだ」


 静寂を破るように、俺はポカンとしているフェイトに声をかけた。フェイトはハッとして、俺の方に手を指す。


「あー、えー、その......そう、聞いての通りじゃ! ルインダネスの敗北宣言により、この勝負、! ドノナスト国王ダーザインの勝利じゃ!」


 闘技場が割れんばかりの大歓声と大拍手。俺は両手を上げて、その祝福に応えた。観客席のダークエルフ達は、呆気に取られている。


 俺は土下座したままのルインダネスの側へしゃがみ、彼女の顎をクイッと持ち上げた。


「これで君は俺のものだ、ルインダネス」


 俺はじっと彼女の目を見つめ、その美しい銀色の髪を撫でる。


「ああ......オレはあんたのものだ、王様。好きにしてくれていい」


「では、そうさせてもらう」


 俺はルインダネスの唇を奪い、その舌の感触まで存分に味わった。


「くふぅ......んっ......」


 ルインダネスはうっとりとした目で俺を見つめる。頬は上気し、彼女の指は生き物のように俺自身をなぞる。


 闘技場の観客席からは、様々な声が聞こえて来る。主にエルフ女性達の羨ましそうな声だ。


「あの野郎、俺たちの姉御を!」


「ぶっ殺してやる!」


 ダークエルフ達からは物騒な発言。数秒後、ダークエルフ達は観客席の塀を乗り越え、武舞台へと降り立つ。


「貴様ら、何をやっておる!」


 フェイトが制止しようとするが、誰も聞く耳を持たない。


「やっちまえ!」


 次々と飛び降りては襲いかかって来るダークエルフの男達。その数五十。だが、今の俺にとっては何の問題もない。


 彼らが俺の言葉を「理解」出来る以上、俺に負けは無い。


「ダークエルフよ、止まれ!」


 俺の叫びに、ルインダネスを含む全てのダークエルフはピタリと動きを止めた。


「全員、ひざまずけ!」


 ザザザッという音と共に、全てのダークエルフが俺の前にひざまずいた。観客席からはどよめきが起こる。


「君達ダークエルフは今後、俺への忠誠を誓ってもらう。そして我が国家騎士団の一員として、ドノナスト王国に力を貸して欲しい!」


 俺は宣言した。するとルインダネスを筆頭に全員が顔を上げ、真っ直ぐに俺を見つめる。


「我らダークエルフ、カレルグランの民はドノナスト王ダーザイン陛下に永遠の忠誠を誓います! そして国家騎士団の一員として、ドノナスト王国に貢献致します!」


 闘技場のどよめきは一層強くなった。皆、訳が分からないと言った様子だ。


「聞け、我がドノナストの民よ! 我が言葉は指針! 疑うべからず! ダークエルフ、カレルグランの民は族長ルインダネスの敗北によりドノナストの一員となった! 今後は皆、力を合わせて王国を発展させて行って欲しい! 俺が君たちを導く! 信じてついて来てくれ!」


 オオオーッと歓声が上がる。誰ももう、疑問を感じる者はいない。


「フェイト、ダークエルフ達を騎士団と引き合わせてやってくれ。それと彼らに今夜の宿と、今後の住処の提供だ。頼めるか?」


「容易い。任せておくが良い。その代わり、ワシの事もしっかり可愛がって欲しいぞ。今夜は其奴がメインになるのじゃろうがな」


 フェイトは嫉妬に満ちた目でルインダネスを見た。


「まぁ、そうなるな。安心しろ、お前もたっぷり可愛がってやる」


「フッ、ならば良いのじゃ。ではそれぞれを、それぞれの場所へ、じゃな」


 フェイトは指をパチンと鳴らす。すると瞬時に景色は俺の寝室へ。キングサイズのベッドには、俺を囲むように母さん、ナディア、ノーティアス、エステルが座っている。そして正面には、ダークエルフの長ルインダネス。


「こ、ここは......?」


 少し怯えた様子で周囲を見回すルインダネス。


「ふふっ。怖がらなくても大丈夫よ。まずは私達が、あなたを綺麗にしてあげる。服を脱がして、体を拭いて、お化粧をしてあげるわ。そして新しい衣装に着替えるのよ」


 母さんがルインダネスの長い耳にそっと囁き、息を吹きかける。


「痛いのは最初だけだ。すぐに気持ちよくなるぞ。それにしても美しい肉体だ。貴殿には、何か通じるものを感じるな。一緒に陛下に、愛していただこうぞ」


 ナディアがそう言って、反対側の耳を軽く噛む。ルインダネスは口を小さく開き、切なげに声を漏らして震える。


「おっぱい、ボクに負けず劣らずおっきいよね。あっ、すごい柔らかい。張りもあって、いいおっぱいだね。これならきっとお兄ちゃんも気にいるよ」


 ノーティアスが背後からルインダネスを抱きしめ、彼女の胸を批評する。ルインダネスは黄色い声を上げ、仰向けにのけぞる。


「それに顔もすっごく美人。男っぽいのもギャップがあっていいんじゃない? あたしも好きになっちゃいそう」


 エステルがルインダネスの唇を奪う。四人の美女にされるがままになっているルインダネスを、俺はしばらく眺めていた。


「ふふっ、これでいいわ。準備出来たわよ、ダー君」


 母さんのお墨付き。俺と戦った時の勇ましい姿も魅力的だったが、今のルインダネスは間違いなく雄の欲情を誘う色香を漂わせていた。


「綺麗だよ、ルインダネス」


 極小生地の際どい衣装を身にまとったルインダネス。その髪を優しく撫で、唇を奪いながらゆっくりと押し倒す。四人の美女達は、それぞれがルインダネスの敏感な部分に熱烈なキスをしている。


「はぁ、はぁ、王様、オレ、オレ......」


「ダーザインと、そう呼んでくれ」


「ダーザインッ! く、はぁぁッ!」


 俺とルインダネスは激しく絡み合い、一つになった。四人の美女たちも混ざり合い、俺たちは愛を貪りあう。しばらくするとフェイトがやって来て合流。さらに快楽は増していく。


 時々食事を取りながら、何時間もその宴は続いた。気がついた時には、翌日の朝になっていた。







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