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第18話 プランダーとドラゴン。

 ぐんぐん落下して行く俺たち。そんな中、起死回生の術を閃く。


「これだ! 成長(グローイング)する蔦(アイヴィー)!」


 古代魔術で巨大蔦を地面から生やし、急速成長させる。だが地面との距離が遠い為、まだ蔦は視認出来ない。


「きゃああああああああーっ!」


 悲鳴を上げ続けるノーティアス。一体いつ呼吸しているのだろうか。可愛いけど。


 地面の全容が見えてきた。どうやらここは王都リーファスの上空らしい。落ち続ける中、ようやく成長中の蔦がこちらへ伸びてきているのが見えた。だがそれと同時に、おかしな......と言うか、とてつもなくヤバい生き物が見えた。


「おいおいおいおいおいおい! ありゃドラゴンか!?」


 最初は建造物かと思ったが違う。動いているし、口から炎を吐いている! でかい! 全長百メートルはありそうだ。背中にはコウモリのような二枚の翼。四本足だが、カンガルーのように前傾姿勢をとっている。


「きゃああああああーっ!」


 ノーティアスは目を閉じているから気づいていない。だがそれでいい。これ以上怖がらせるのは可哀想だ。出来れば彼女が気付く前に退治したいところではあるが......。


 絡まり合った蔦が、俺の足元まで伸びて来た。咄嗟にノーティアスをお姫様抱っこ。それから蔦の先端へと着地し、地面へと駆け降りて行く。絡まりあった蔦の強度は抜群で、太さも申し分ない。蔦というより木のようで、二人分の体重をしっかりと支えている。魔術の影響もあるのだろう。そして蔦は直線ではなく、ウネウネと曲がりくねっている。


「うおおおおおッ!」


 ノーティアスを強く抱きしめ、まるでジェットコースターのような疾走感を味わいつつ走る。コケたり足を滑らせたらアウト。命がけのアトラクションだ。


 駆け降りて行く中、遠くから誰かの声が聞こえる。超聴覚で聴き取ってみる。


「転生特典のチートスキル! 異世界物質召喚! くらえドラゴン! ロケットランチャー!」


 この声はプランダー! ノーティアスに見惚れて恋人に振られ、その後ノーティアスをナンパするも振られた男! 駆け降りる事に集中している為状況の視認は出来ないが、どうやらプランダーはドラゴンと戦っているようだ。


「何ぃ!? ロケットランチャーから放たれたミサイルを食いやがっただと!? 何て奴だ! だが俺のレベルは最強クラスの百! この剣で斬り刻んでやるぜ!」


 すごくわかりやすい実況を交えて戦うプランダー。だが希少種の魔獣であるドラゴンのレベルは、最低でも五百という噂。レベル百のプランダーでは傷一つ付けられない筈だ。


「ぬあッ! 剣が折れた! そして、ぐあああッ! 俺は捕まった! ヤバい! 食われる! 誰か助けてくれー!」


 わかりやすい実況が続いていたが、どうやら奴はピンチのようだ。気に食わない男だが仕方ない、助けてやるか。どうやら勇気は本物のようだし、人々を守ろうとしたその行動は評価出来る。


 そろそろ地面が近いのは感覚でわかった。チラリと見えたドラゴンの頭部。そこへ目掛け、俺は跳躍する。


「とうッ!」


 ビンゴだ! 俺は丁度ドラゴンの頭上にいた。このまま奴を、踏み潰す!


「巨人化(ジャイアント・トランスフォーム)!」


 俺の体は一瞬で全長四十メートルの巨人に変身する。当然服はビリビリに破れ、全裸だ。ノーティアスは俺の左手のひらで保護している。気絶してしまったのか、悲鳴は聞こえなくなった。


「ヘアッ!」


 気合い一閃。俺はドラゴンの胴体を踏み潰した。頭の方が致死率は高いが、プランダーまで踏み潰してしまう恐れがある。


「グギョォォォォッ!」


 悶え苦しむドラゴン。尻尾をバンバンと地面に叩きつける。砕け散る石畳。さらに俺が落下した衝撃でクレーターが出来、地面の石畳は放射線畳に割れている。


「うぐあああっ!」


 ドラゴンに握りしめられてしまったのか、プランダーが叫ぶ。ドラゴンのトドメは後だ。先にあいつを助けよう。


「爪剣(クロウソード)!」


 古代魔術で右手の爪を鋭く伸ばす。


「斬(スラッシュ)ッ!」


 プランダーを掴むドラゴンの左手を斬り落とす。プランダーを掴んだまま、手は地面に落下した。


「ぐえっ」


 呻くプランダー。よし、生きてるな。生きてさえいれば治癒は可能だ。


 ドラゴンは俺を振り返って「炎(ファイア)の吐息(ブレス)」を吐こうと息を吸った。奴の口の中が赤く輝く。


「遅いぜ! 斬突(スラッシュアサルト)!」


 俺はドラゴンの首をザンッと爪剣で斬り飛ばし、続けてドラゴンの背中を刺し貫いた。この位置。おそらく心臓を貫けた筈だ。


 ドラゴンの体はグラリと揺れ、そのままドズーンと倒れた。石の破片や土埃が舞う。俺は巨人化を解除し、すかさずノーティアスをお姫様抱っこで受け止める。


「ノーティアス、無事に地上に着いたぞ」


 彼女の名を呼び、髪を撫でる。


「うーん......好きです、ダーザイン様......」


 彼女は嬉しい寝言をこぼしているが、目覚める様子はない。可愛い寝顔を見ていたい気持ちもあるが、まだ危険は去っていないかも知れない。起こしておいた方がいいだろう。仕方ない、とっておきを使うとする。


 俺はノーティアスにキスをした。しかもディープな奴だ。


「んぅっ......ダーザイン様ぁ......」


 よし起きた。だが彼女は中々唇を離してはくれなかった。


「おーい、助けてくれぇ......」


 プランダーの弱々しい声。


「すまん、忘れかけてた。ノーティアス、ちょっといいか」


 俺はノーティアスを立たせて頭を撫でる。


「あいつ助けてくるから、ちょっと待っててくれ」


「あー! あいつ、ダーザイン様をブ男って言った奴! こんなに美しくてかっこ良くて強くてテクニシャンなダーザイン様を侮辱した男ですよ! 助けなくていいと思います!」


 プンスカと怒るノーティアス。怒った顔も可愛い。


「まぁそう言うな。あいつは王都の人々を助けようと頑張ったみたいなんだ。だから助けてくるよ」


「むー! わかりましたよう!」


 渋々承諾したノーティアスの髪をもう一度撫で、ドラゴンの手に握られたままのプランダーに駆け寄る。


「大丈夫か! 今助けるぞ!」


 俺はドラゴンの指をほどき、プランダーを救出した。そして左手で彼を抱き抱えると、右手で彼の胸に触れる。古代魔術で回復を図(はか)る為だ。


「【肉体蘇生(ボディ・リザレクション)】! 【活力最大活性(フル・バイタライズ)】!」


 俺の右手が緑色に輝き、それはプランダーの体をも包んだ。みるみる傷が癒えて行く。


「おおおッ! こいつはすごい! 体はどこも痛くねぇし、テンションマックスだぜ! いやっほう!」


 プランダーは飛び起きて、ぴょんぴょんと跳ね回った。


「ねぇ! 飛び跳ねる前に言う事があるんじゃないの!? それはアンタが侮辱した、ダーザイン様が施してくれた魔術のお陰なんだよ!? わかってんの!?」


 ノーティアスがそう言ってプランダーに指を差す。


「うっ......ノーティアスちゃん。かっこ悪りぃところ見せちまったな......俺は君にかっこいい所を見せたかったんだ......」


「元々期待してないってば! いいから早くダーザイン様に御礼を言って! そして土下座して無礼を詫びてよ!」


「そ、そうだよね......」


 プランダーは俺のほうを恐る恐る見る。俺はニコリと微笑んだが、彼にとってはそれすらも恐怖の対象となったらしい。すかさずジャンピング&スライディング土下座をして来た。


「ダーザインさん! 本当にすいませんでした! あなたはカッコいいです! ブ男なんかじゃありません! あれは単なる俺の嫉妬です! そして、助けて下さってありがとうございました!」


 頭を地面に擦り付け、震えるプランダー。


「足りないよ! もっと誠心誠意、真心を込めて言ってよ!」


 叫ぶノーティアスを、俺は右手で制する。


「もういいノーティアス。充分だ。許してあげよう」


「もう! ダーザイン様は優しすぎますよ! でも、そんな所も大好きですけどね!」


 そう言って抱きついてくるノーティアス。おっぱいの感触が腕に伝わって心地良い。


 俺はしゃがみこんで、プランダーの肩に手を置く。


「顔を上げてくれプランダー。君に聞きたい事があるんだ」


「はい! なんでもお答えします!」


 すっかり従順になったプランダーに、俺はドラゴンが現れた時の状況を尋ねた。


 まずこの場所は倉庫街。元々人は少ない地域だが、プランダーがドラゴンを発見して駆けつけた時には、人々の避難は完了していたらしい。


 王国騎士団や冒険者には避難した人から連絡が行っている筈だが、まだ誰も到着していない。


「黒衣の女を見なかったか? 金髪に白い肌の女だ」


「いえ、見てないです」


「そうか......」


 ミナはドラゴンを残して消えた。だが俺が生きている事を知れば、また何かしてくるかも知れない。油断は禁物だ。


 周囲を見回す。倉庫街はドラゴンの「炎(ファイア)の吐息(ブレス)」によって破壊し尽くされていた。幸い死者や怪我人は出なかったようだが、王都の受けた経済的打撃は計り知れない。


「まもなく王国騎士団がやってくる筈だ。我々はこの状況の証人にならなければならない。少しこのまま待つとしよう」


「ですね」


「了解っす」


 俺とノーティアス、そしてプランダーはしばらくそのまま待機する事にした。しかし全裸である事を思い出し、近くの倉庫から商品らしき衣服を拝借する。後で謝り、料金を払おうと思う。


「来ないな......」


「来ませんね......」


「来ないっすねぇ」


 しばらく待っていたが誰も来る様子はない。その時、背後から子供のような声がした。


「王国騎士団は来ぬよ。だが良くやった。合格じゃ、【緑の主(あるじ)】ダーザインよ」


 驚いて振り返る。その声には聞き覚えがあったのだ。だが、口調は違う。


「君は......ケイト!」


 そこに立っていたのは、案内人の少年ケイトだった。

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