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第16話 案内人ケイト。

 案内人ケイトの案内で、俺とノーティアスは様々な場所を回った。宿を決め、馬を預け、商店街で持ってきた蜂蜜や武器、防具、衣類を売る。そして手に入れた貨幣「レン」で、様々なものを買った。「魔術時計」もゲットした。


 ケイトが教えてくれた場所はどこも穴場で、品物を高く買ってくれたし、こちらが欲しいものを安く売ってくれた。母さんとナディアへのお土産もバッチリだ。


「ありがとうケイト。君のおかげで、時間を有効に使えたよ」


「えへへ、そうでしょう? みなさんそうおっしゃいますよ!」


 前を歩いていたケイトがくるりと振り返り、誇らしげに鼻をこすった。ノーティアスは彼を危険視しているようだったが、今のところおかしな様子は見当たらない。


「さて、そろそろ十一時。二時間が経過しますね。まだ案内を続けますか?」


 ケイトは腕時計を見ながらそう尋ねてきた。


「そうだな......出来れば技術者や職人にも声をかけたい。全ての組合(ギルド)を回って、最後に美味い食堂に案内を頼めるかい?」


「ええ、いいですよ。ただ、全てのギルドを回るとなると、かなり時間がかかります。何せ十六ものギルドがありますから。できればいくつかに絞った方が良いかと思います」


「なるほど......では少し考える時間をくれ」


「もちろんです。ですが、その時間も料金に含まれますのでご了承くださいね」


「ああ、わかってるさ」


 俺はケイトから得た知識を元に、ギルドを三つ選出した。


「商業ギルドと鍛治ギルド、そして調理ギルドだ。商業ギルドで商売の基礎を学ぶ。その為の商人を一人スカウトしたい。それから鍛治ギルド。ドノナストには鍛治の技術がなく、武器も木や石を使ったものばかり。剣も大昔に人間国と取引して手に入れたものしかないからな。よって鍛治職人も必要だ。最後に調理ギルド。宿屋や食堂の経営に必要だ。料理人も一人連れて行こうと思う」


「わかりました。では参りましょう。うまくスカウト出来るといいですね」


「きっとうまく行くさ。ノーティアスもいるしな」


「え?」


 急に話を振られたノーティアスがキョトンとする。小動物みたいな可愛さだ。ボディはダイナマイト級だけど。


「つまり、ドノナストに来れば美女が大勢いるぞ、と話すつもりなんだ。その引き合いに君を出そうと思っている」


「ああ、なるほど。それは間違いないですね。きっとみんな喜んでドノナストに来たがりますよ」


「ふふっ、そうだろう?」


「ええ。だけど、僕の心と体はダーザイン様だけのモノですからね。その方達にはガッカリさせてしまいますが」


 そう言って俺の腕に抱きついて来るノーティアス。俺はドキリとし、ちょっと前屈みになる。


「そ、そうだな。よし、それじゃあケイト、案内を頼むよ」


「はい! お任せ下さい!」


 ケイトは元気よく返事をして、自身の胸を拳でポンと叩いた。


 ケイトの案内は完璧で、進むルートに時間の無駄は一切無かった。お陰で俺の求めている人材を効率よくスカウトする事が出来た。


 商人のサムディは太った四十代の男。王都でも有名な商会のベテランらしく、最初は渋っていたが美女に目がないようだ。ノーティアスを紹介したら、喜んでオーケーしてくれた。


 鍛治職人のタオランは三十代のガッチリした男。真面目で無骨、無口だが腕は確かなようだ。彼も最初は無反応だったが、ノーティアスを見た途端顔を真っ赤にして承諾してくれた。


 料理人のチェスは二十代のチャラ男。有名料理店で厨房を任されている。女性に目がないようで、エルフの恋人を欲しがっている。二つ返事でオーケーだった。ノーティアスに抱き着こうとしたが、彼女の平手を食らって倒れていた。


「私達は一旦王国へと戻ります。一週間後に迎えのものを寄越しますので、それまでに出立の準備をお願い致します。家はご用意致しますが、生活用品は愛用の物をお持ちください。足りないものが有れば、後からご用意致しますので」


 全員にそのように伝え、ギルド巡りは終了。時刻はちょうど昼の十二時だ。ケイトの案内で食堂へ向かう。


「ここは王都でも三本の指に入る食堂ですよ。ダーザインさんがスカウトした料理人、チェスさんがいる料理店とはライバル同士。通常なら昼時は並ばないと入れません。ですが僕が一緒なら並ばずに入れますよ。店主に顔が効くんです」


 ケイトはそう言って、行列を無視して食堂「鹿の角亭」へと入って行く。並んでいる人達は慣れた様子で俺たちを見送っている。顔が効くと言うのは本当のようだ。常連もケイトを見知っているのだろう。


 店内は凄まじい熱気だった。客でごった返している。あまり綺麗ではない店内。だが沢山いる店員は男女共に爽やかな笑顔で接客し、客達も上機嫌。料理のボリュームもすごいし、オープンキッチンの上部に掲げられた木札メニューの価格も安い。この店が人気なのも頷ける。


「今日も特別枠でお願い、お姉さん!」


 店内に入ったケイトは開口一番、オープンキッチンで調理をしている女性に大声で叫ぶ。彼女の年齢は見たところ五十代くらい。ケイトは中々紳士的な少年のようだ。


「おやまぁケイト! いらっしゃい! 今そこの席空けるから待っててね! ナンシー、五番テーブルの片付けをお願い出来るかい?」


「はい店長!」


 彼女は店長だったようだ。ナンシーと呼ばれた女性店員はテキパキとテーブルを片付け、俺たちをそこへ案内した。


「さぁどうぞお客さん! ここに座って! 注文決まったら店員呼んでね! バイ!」


 ナンシーはニコニコと笑いながら手を振って、他の客の呼び声に向かって行った。かなり馴れ馴れしい対応ではあるが、親近感が持てるし全く嫌な感じはしなかった。どうやら他の店員の対応も同じようだ。これがこの店の持ち味と言う事だろう。


 座席は四人がけ。俺とノーティアスが椅子に座ると、ケイトはにこやかにお辞儀をした。


「では僕はこれで。どうぞごゆっくりお食事をお楽しみ下さいね」


「せっかくだから、君も一緒に食べないか? 奢るよ。ケイトのおかげで予想以上の収入があったし」


 俺はケイトを食事に誘ってみた。ノーティアスがぷぅっと頬を膨らませる。どうやら不満なようだ。


「いえいえ。これ以上デートの邪魔は出来ませんよ。ではまた、リーファスにお立ち寄りの際は僕をご指名下さいね」


 ケイトはノーティアスの心情を察したように微笑んだ。気を使わせてしまってなんだか申し訳ない。


「ああ、そうだな。きっと指名させてもらうよ」


 俺はケイトに案内料を支払い、彼と別れた。


「またねケイト君。楽しかったよ」


 ノーティアスは去って行くケイトに声をかけた。彼は振り向いて手を振った。ケイトが店を出た後、俺はノーティアスに苦言を呈した。


「ダメじゃないかノーティアス。あんなあからさまな態度をとっちゃ。ケイトが気分を悪くするだろう」


「ごめんなさい。でも、早くダーザイン様と二人っきりになりたかったんです。ケイト君がいると、『はい、アーン』とか出来ないじゃないですか。いっぱいイチャイチャしたいんですよ僕は」


「そっ、そうか......。せっかくのデートだものな。俺も配慮が足りなかった。すまない」


 俺はノーティアスに謝罪し、しばらくの間食事を楽しんだ。


「接客もサービスも、勿論料理も最高に美味い。この店の評価は星五つって所だな」


「確かに。最高レベルですね。人間はいつもこんな美味しいものを食べているんですね」


 俺もノーティアスもすっかり満足してお腹をさする。少し食べ過ぎたかも知れない。


「おいおい、こりゃ運命の出会いか? またあったな爆乳エルフちゃん」


 突然、男がノーティアスに声をかけてきた。街中でノーティアスの事を話題にして、恋人に振られていたあの男だ。(前話参照)


 だがノーティアスは彼が誰なのかわかっていない様子。まぁ無理もない。俺の超聴覚でやっと聞き取れる程度の会話だったし、彼はノーティアスに直接会っていた訳ではない。


「君、誰?」


 ノーティアスは怪訝な表情で彼を見返した。


「俺が分からない? 俺の視線を感じてなかったのか? まぁいいや、これからお互いを知っていけばいいんだ。さぁ、俺と一緒に宿屋で休憩をしよう」


 なんなんだコイツ......。馴れ馴れしい奴だ。しかもさっきから俺を無視しているのも気に食わない。


「誰だか知らないけど、早く消えてくれないかな。僕はダーザイン様とのデートで忙しいんだ。それに宿屋で休憩するならダーザイン様とする。たっぷりとする。君なんかお呼びじゃないよ」


 ノーティアスはシッシッと手で男を追いやった。すると男は、俺を見て嘲笑する。


「おいおいおいおい! デートってこのブ男とか? 緑の髪に牙! とてもエルフには見えねーぜ!? それよりも俺といい事しようぜ? 俺は異世界からの転生者。この世界の奴らが知らないような気持ちいい事も、いっぱい知ってるんだぜ? だからなぁ、いいだろう? こんなブ男放って置いて、早く俺とデートしようぜ」


 男はノーティアスの腕をぐっと掴んだ。この男、俺のノーティアスに軽々しく触れやがって......! つうか俺以外にも転生者がいたのか? だがそれをダシに人の恋人ナンパするとか頭おかしいのか!?


「おい君、ちょっと失礼だぞ」


 俺は怒りが爆裂しそうだった。だがそれよりも早く、ノーティアスの頭には血が昇ったようだ。


「僕のダーザイン様を侮辱したね! 許さない!」


 ノーティアスは男の胸ぐらをぐいっと掴みながら立ち上がる。低身長のノーティアスは男の胸ぐらいまでの背丈。だが片手で男を空中に持ち上げて行く。


「うぐぐ......!」


 顔を真っ赤にして足をバタつかせる男。


「やめるんだノーティアス! 死んでしまう!」


 俺の言葉にハッとなるノーティアス。彼女の基本レベルは三十。今は十倍の三百だ。今の彼女に勝てるのは、ドノナスト国民を除けば魔獣ドラゴンくらいだろう。


 ノーティアスはまだ怒りの表情だったが、ゆっくりと男を床に下ろす。


「ふん! 許してあげる。ダーザイン様に感謝するんだね」


 ノーティアスが解放すると、男はゲホゲホと咳き込んだ。


「くそ! 覚えてろよダーザイン! 俺の名はプランダー! ノーティアスちゃん、絶対に君を振り向かせて見せる!」


 プランダーと名乗ったその男はは捨て台詞を残し、脱兎の如く逃げ去った。


「なんだったんだアイツは......」


 俺は呆気に取られた。そこへノーティアスが抱きついてくる。


「あの、ダーザイン様。僕は絶対に他の男のモノになんかならないので、安心して下さいね。僕の心と体は......ダーザイン様だけのモノですから」


 ムニムニとおっぱいを押し付けてくる。クッ、宿屋に駆け込みたい気分だ......!


 そんなムラムラしている俺の元へ、店員のナンシーがやってきた。


「お客さん、イチャついてるところ悪いね! さっき店の外から美人さんが来て、これをお兄さんにって」


 ナンシーはそう言って、俺に手紙を差し出した。

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