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第10話 王国再建に向けて。

「好きだ、ダーザイン殿......」


「ナディア......」


 ここはナディアの家。一晩開けて、早朝。チュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえる。


 ナディアのベッドの上で、俺と彼女は抱き合っていた。そこへバンッと扉を開けて母さんが飛び込んでくる。


「もー! 探したわよダー君! いつの間にかいなくなっちゃうんだもの!」


 ぷぅっ、とほっぺたを膨らませた母さんが、なんとも可愛い。本気で怒っている訳では無いだろう。


「シェファがみんなと楽しそうにしてたからさ。邪魔しちゃ悪いと思って」


「それでナディアと一緒に寝てたのね! もぉー、ずるいよナディア! 私もダー君にくっ付きたいのにぃ!」


 そう言って、ベッドに飛び込んでくる母さん。大きなおっぱいで俺の顔をむぎゅーっと圧迫する。


「くっ、苦しいよシェファ」


「ダーザイン殿、私の胸も味わってください」


 反対側からナディアのおっぱいでも挟まれる。俺の顔は、おっぱいによるサンドイッチ状態だ。


「むぐぐ......!」


 苦しいが、嬉しくもある。


 しばらく俺は彼女達の好きなようにさせ、気がすんだところで起き上がる。


「シェファ、さっきナディアとも話してたんだけどさ。俺、エルフの王国【ドノナスト】を再建しようと思うんだ」


 それを聞いて、パァッと顔を輝かせる母さん。


「まぁ、ダー君! さすがはダー君ね! お母さん、嬉しいわ!」


 久々に自分を「お母さん」という母さん。


「ダーザイン殿が国王。やはり素晴らしい。早く、ダーザイン陛下とお呼びしたい......!」


 ナディアはうっとりとした顔で俺に抱きついてくる。


「ありがとうナディア。だがその為には、もっと国民が必要だ。五百人で国家ってのは、少々格好が付かないからね」


 俺の返答に、母さんが頷く。


「確かにそうね。だけどもう、王国から逃げ延びたエルフ達の村は......この村が最後の筈よ」


 寂しそうに俺を見る母さん。オーク達は多くのエルフ村を滅ぼした。オーク達と共にいた母さんも、その事を知っているのだ。


「その通りだね。だけど、他にもエルフがいる場所がある事を忘れてないか?」


 ハッとなる母さん。


「オーク王国!」


「その通り!」


 俺はグッと親指を立てた。


「本当に......ダーザイン殿の聡明さには感服します」


 ナディアは相変わらずうっとりした表情で、俺の肩や首、腕にキスをしてくる。


「ありがとう、ナディア」


 俺もナディアの頬にキスを返し、彼女の髪を撫でる。


「だけど具体的にどうするの? オーク王国に攻め込むつもり?」


「いや、その必要はない。彼女達は、自分でここへやってくる。邪魔するオーク達は薙ぎ倒してね」


「どう言う事?」


 母さんの頭に「?」が浮かぶ。ぽってりした唇をすぼめ、頬に指を当てて首を傾げる。可愛いすぎる。


「俺が会得した古代魔術(エンシェントソーサリー)【緑】は、生命を強化し、呼び出し、従える力。昨日、逃げ去っていくオーク達に一つの命令を下しておいたんだ。念話でね。まぁ、正式に俺の眷属にした訳じゃないから強い命令は出来ないが、言わば暗示のようなものだ」


「どんな暗示をかけたの?」


「簡単さ。『全てのエルフが、ダーザインの仲間になった。奴らはフォレス村に王国を作るつもりだ』と暗示をかけた。オークにとっては村のエルフが、と言う意味にとれるし、それは嘘じゃない。だが奴らの心にしっかり根付いたその言葉は、やがてオーク王国中に広まる。オーク王国にいるエルフがその言葉を聞けば、自分もフォレス村にいるダーザインの仲間なのだと考える。そうすれば......」


「レベルが十倍になって、この村に集まってくる!」


 母さんは合点がいったようにパンッと手のひらを合わせる。


「その通り。だから俺たちは、彼女達がいつ来ても良いように王国を整備するんだ」


「ダーザイン殿。その王国の整備、是非私を使って下さい。どんな仕事でも、きっちりこなしてみせます」


 ナディアはそう言って、俺を見つめながらキスをしてくる。


「ああ、その時はよろしく頼むよ」


「はい、お任せ下さい」


 俺とナディアのやりとりを見ていた母さんが、不思議そうな顔をする。


「ねぇダー君、ナディアがなんだか積極的だけど......もしかして、ナディアにも何か暗示をかけたの?」


「いや、暗示はかけてないよ。ただ、祝賀会の最中にお互いの気持ちに気づいたんだ。そして俺達は求め合い、結ばれた。恋人同士になったんだ」


「結ばれたって、つまり、そう言う事だよね......」


 母さんは顔を赤くする。


「そっか......うん。良かったじゃない、恋人が出来て。それじゃあもう、私はいなくても大丈夫......だったりして」


 寂しそうに笑う母さん。俺はすかさず抱きしめる。


「そんな訳ないだろ! 前にも言ったじゃないか! 俺にとってシェファは世界一の女性なんだ! 最高の母親で、最高の恋人さ! もう恋人代わりなんかじゃない! 本当に好きなんだ! 俺はシェファを、母さんを、愛してる!」


 母さんはポロポロと涙を流す。


「嬉しいよ、ダー君......。そっか、そうだったね。私ったらダメだね。覚悟してたつもりだったのに、結局ヤキモチ妬いちゃった。ダー君の気持ち、ちゃんと信じれてなかった。だけどもう大丈夫。ごめんね、ありがとう。私もダー君が大好き。 愛してる」


 母さんは俺の背中に手を回し、そっと唇を重ねて来た。そして静かに唇を離すと、涙目で微笑んだ。そんな母さんの髪を、ナディアが優しく撫でる。


「シェファール様。ダーザイン殿の心には、常にあなたがいる。ですが不思議と嫉妬は感じません。ダーザイン殿のお姿はすっかり変わられましたが、その心は以前と同じくお優しい。私は陛下を心から愛しています。そんな陛下に、あなたと同じように愛してもらえるだけで、私はとても幸せなのです」


 ナディアはそう言って、母さんの頬にキスをする。


「ありがとうナディア。ダー君の事、よろしくね。私も一緒に居ても、いいかな?」


「ええ、もちろんです。共に陛下と愛し合いましょう」


 笑い合う二人。


「まだ朝食の時間には早いよな。もう少し、三人でゆっくりしようか」


「そうですね」


「ええ、そうしましょう」


 二人が同時に、俺の頬へキスをする。それからしばらくの間、穏やかな時間が流れていった。


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