「好きだ、ダーザイン殿......」
「ナディア......」
ここはナディアの家。一晩開けて、早朝。チュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえる。
ナディアのベッドの上で、俺と彼女は抱き合っていた。そこへバンッと扉を開けて母さんが飛び込んでくる。
「もー! 探したわよダー君! いつの間にかいなくなっちゃうんだもの!」
ぷぅっ、とほっぺたを膨らませた母さんが、なんとも可愛い。本気で怒っている訳では無いだろう。
「シェファがみんなと楽しそうにしてたからさ。邪魔しちゃ悪いと思って」
「それでナディアと一緒に寝てたのね! もぉー、ずるいよナディア! 私もダー君にくっ付きたいのにぃ!」
そう言って、ベッドに飛び込んでくる母さん。大きなおっぱいで俺の顔をむぎゅーっと圧迫する。
「くっ、苦しいよシェファ」
「ダーザイン殿、私の胸も味わってください」
反対側からナディアのおっぱいでも挟まれる。俺の顔は、おっぱいによるサンドイッチ状態だ。
「むぐぐ......!」
苦しいが、嬉しくもある。
しばらく俺は彼女達の好きなようにさせ、気がすんだところで起き上がる。
「シェファ、さっきナディアとも話してたんだけどさ。俺、エルフの王国【ドノナスト】を再建しようと思うんだ」
それを聞いて、パァッと顔を輝かせる母さん。
「まぁ、ダー君! さすがはダー君ね! お母さん、嬉しいわ!」
久々に自分を「お母さん」という母さん。
「ダーザイン殿が国王。やはり素晴らしい。早く、ダーザイン陛下とお呼びしたい......!」
ナディアはうっとりとした顔で俺に抱きついてくる。
「ありがとうナディア。だがその為には、もっと国民が必要だ。五百人で国家ってのは、少々格好が付かないからね」
俺の返答に、母さんが頷く。
「確かにそうね。だけどもう、王国から逃げ延びたエルフ達の村は......この村が最後の筈よ」
寂しそうに俺を見る母さん。オーク達は多くのエルフ村を滅ぼした。オーク達と共にいた母さんも、その事を知っているのだ。
「その通りだね。だけど、他にもエルフがいる場所がある事を忘れてないか?」
ハッとなる母さん。
「オーク王国!」
「その通り!」
俺はグッと親指を立てた。
「本当に......ダーザイン殿の聡明さには感服します」
ナディアは相変わらずうっとりした表情で、俺の肩や首、腕にキスをしてくる。
「ありがとう、ナディア」
俺もナディアの頬にキスを返し、彼女の髪を撫でる。
「だけど具体的にどうするの? オーク王国に攻め込むつもり?」
「いや、その必要はない。彼女達は、自分でここへやってくる。邪魔するオーク達は薙ぎ倒してね」
「どう言う事?」
母さんの頭に「?」が浮かぶ。ぽってりした唇をすぼめ、頬に指を当てて首を傾げる。可愛いすぎる。
「俺が会得した古代魔術(エンシェントソーサリー)【緑】は、生命を強化し、呼び出し、従える力。昨日、逃げ去っていくオーク達に一つの命令を下しておいたんだ。念話でね。まぁ、正式に俺の眷属にした訳じゃないから強い命令は出来ないが、言わば暗示のようなものだ」
「どんな暗示をかけたの?」
「簡単さ。『全てのエルフが、ダーザインの仲間になった。奴らはフォレス村に王国を作るつもりだ』と暗示をかけた。オークにとっては村のエルフが、と言う意味にとれるし、それは嘘じゃない。だが奴らの心にしっかり根付いたその言葉は、やがてオーク王国中に広まる。オーク王国にいるエルフがその言葉を聞けば、自分もフォレス村にいるダーザインの仲間なのだと考える。そうすれば......」
「レベルが十倍になって、この村に集まってくる!」
母さんは合点がいったようにパンッと手のひらを合わせる。
「その通り。だから俺たちは、彼女達がいつ来ても良いように王国を整備するんだ」
「ダーザイン殿。その王国の整備、是非私を使って下さい。どんな仕事でも、きっちりこなしてみせます」
ナディアはそう言って、俺を見つめながらキスをしてくる。
「ああ、その時はよろしく頼むよ」
「はい、お任せ下さい」
俺とナディアのやりとりを見ていた母さんが、不思議そうな顔をする。
「ねぇダー君、ナディアがなんだか積極的だけど......もしかして、ナディアにも何か暗示をかけたの?」
「いや、暗示はかけてないよ。ただ、祝賀会の最中にお互いの気持ちに気づいたんだ。そして俺達は求め合い、結ばれた。恋人同士になったんだ」
「結ばれたって、つまり、そう言う事だよね......」
母さんは顔を赤くする。
「そっか......うん。良かったじゃない、恋人が出来て。それじゃあもう、私はいなくても大丈夫......だったりして」
寂しそうに笑う母さん。俺はすかさず抱きしめる。
「そんな訳ないだろ! 前にも言ったじゃないか! 俺にとってシェファは世界一の女性なんだ! 最高の母親で、最高の恋人さ! もう恋人代わりなんかじゃない! 本当に好きなんだ! 俺はシェファを、母さんを、愛してる!」
母さんはポロポロと涙を流す。
「嬉しいよ、ダー君......。そっか、そうだったね。私ったらダメだね。覚悟してたつもりだったのに、結局ヤキモチ妬いちゃった。ダー君の気持ち、ちゃんと信じれてなかった。だけどもう大丈夫。ごめんね、ありがとう。私もダー君が大好き。 愛してる」
母さんは俺の背中に手を回し、そっと唇を重ねて来た。そして静かに唇を離すと、涙目で微笑んだ。そんな母さんの髪を、ナディアが優しく撫でる。
「シェファール様。ダーザイン殿の心には、常にあなたがいる。ですが不思議と嫉妬は感じません。ダーザイン殿のお姿はすっかり変わられましたが、その心は以前と同じくお優しい。私は陛下を心から愛しています。そんな陛下に、あなたと同じように愛してもらえるだけで、私はとても幸せなのです」
ナディアはそう言って、母さんの頬にキスをする。
「ありがとうナディア。ダー君の事、よろしくね。私も一緒に居ても、いいかな?」
「ええ、もちろんです。共に陛下と愛し合いましょう」
笑い合う二人。
「まだ朝食の時間には早いよな。もう少し、三人でゆっくりしようか」
「そうですね」
「ええ、そうしましょう」
二人が同時に、俺の頬へキスをする。それからしばらくの間、穏やかな時間が流れていった。