無事に戦いを終え、勝利した俺達。それを祝い、急遽祝賀会を開催する事になった。
村人全員が、再び森の広場に集まる。俺と母さん、そしてナディアのスピーチのあとで乾杯。大盛り上がりの立食パーティーとなった。
料理や酒は、広場に近い家の者達が用意。もちろんかかりっきりではなく、何人かのグループが交代で支度をし、全員が楽しめるようにした。
エルフは普段酒を飲まないし、必要以上には肉も食べない。だが今日ばかりは特別だ。みんな飲んで食って騒ぎまくった。普段は禁欲的な生活を送っているせいで、反動がすごい。村人全員が酔っ払うのに、そう時間はかからなかった。
ただ一人だけ、例外はいたが。
「みんなと話さないのか、ナディア」
広場の端で木に寄り掛かり、一人で飲んでいるナディア。俺は彼女の事が気になり声をかける。
「少し、一人になりたかったんだ。貴殿こそ、主役がこんなところにいていいのか?」
そう言って微笑するナディア。今は鎧を脱いだドレス姿。想像していたよりも、かなり胸が大きい。深い谷間が非常に刺激的だ。長身で脚も長く、八頭身の完璧なプロポーション。適度に引き締まった体に金色のポニーテール。緑色の神秘的な瞳、切長の目。全ての要素が、俺の心臓を高鳴らせる。
「みんな酔っ払って、出来上がってる。それぞれが楽しんでる感じさ。もう俺はお役御免って訳だ」
そう言って肩をすくめると、ナディアは口元に手の甲を当て、クスクスと笑った。
「フフッ。貴殿の為に開いた筈の祝賀会で、お役御免ときたか......プッ、ククッ、アッハッハッハッ!」
大声をあげて笑い出すナディア。腹を抱え、涙を流して震えている。他の村人程ではないが、ナディアも少し酔っているようだ。でなければ、クールな彼女がこんなに笑う事はないだろう。
「ふー、楽しいな。たまには酒を飲むのもいいものだ。ところで貴殿の瞳の色だが......緑色なのだな」
微笑を浮かべながら、俺を見つめるナディア。
「ああ。君と同じく緑色だ。ついでに髪もな。長すぎて少し邪魔だ」
俺はそう言って、長く伸びた自分の髪を掻き上げる。
「ふふっ、そうだな。では、こうしたらどうだ」
ナディアは手首に巻いていた紐を外し、俺の肩に両手を伸ばす。そして俺の髪を結い始めた。
顔が近い。ナディアが長身なこともあって、ほとんどキスするような距離感だ。
夕日の光を受けて、キラキラと輝く緑色の瞳。俺は思わず、ナディアの瞳に吸い込まれそうになった。
「出来たぞ」
ニッコリと笑いながら、俺から距離を取るナディア。少し残念に思いつつ、結われた自分の髪を触ってみる。うん、いい感じに纏っている。
「ありがとう。上手だな。助かったよ」
笑いかけると、ナディアは少し顔を赤くした。
「いや、なに。大した事ではないさ。そ、そう言えば、シェファール様は一緒ではないのか?」
目を落ち着きなく動かしながら、ナディアはそう言って頬を掻く。
「シェファなら、向こうでみんなと盛り上がってるよ。すっかり酔っぱらっちまってる。オーク国にいた頃は人並みの生活なんてさせてもらってなかっただろうし、今日の解放感はみんな以上だったと思うよ」
「そ、そうなのか......」
ナディアはモジモジしながら俺に近寄り、服の袖を掴む。
「あ、あの、だな。も、もももも、もし、良かったら......そのう。そっちの陰で二人で話さないか」
顔を真っ赤にして、潤んだ目で俺を見つめるナディア。当然俺は察する。もしかしなくても、そう言う事だろうと。
「ああ、構わないよ」
ナディアに手を引かれるままに、俺は広場から離れる。温かい手。彼女の胸の高鳴りが、その手を伝って聴こえて来そうだった。
ナディアは一本の木の前に止まり、その表面を指でなぞる。そこには文字が刻まれていた。
「懐かしいな。王国がオークの襲撃にあった際、私は仲間と共にこの森へと逃れて来た。その時はまだ、彼も生きていたんだ......」
俺は察した。彼とは、ナディアの恋人だった男の事だろう。
「愛していたのか?」
「ああ......とても、愛していた」
ナディアは寂しそうにそう言って、俺を振り返った。
「彼は私と同じ緑色の瞳だったんだ。そして長い髪を後ろに結っていた。私が、結ってあげていたんだ」
そして、俺に抱きつく。
「似ているんだ。なにもかも。今の貴殿は、彼に似すぎているのだ、ダーザイン殿」
潤んだ目で、俺を見上げる。
「だが、彼はもう死んでしまった。彼の姿を貴殿に重ねても仕方のない事なのに......想いが溢れてしまうんだ」
ナディアの肩は震えていた。俺はそっと、彼女を抱きしめ返す。
「俺は、君の愛していた彼の代わりにはなれないかも知れない。だけど、君を愛する事は出来るよ」
涙を流しながら、ナディアは俺を見つめる。
「私はオークだった貴殿の容姿を散々侮辱した......そんな私を、愛してくれると言うのか?」
「ああ、もちろんだ。俺はそんな事にいつまでもこだわるような、小さい男じゃないんでね。それにナディアの気持ちもわかる。オークの顔は醜いからな。無理もないさ。だが、今の俺の顔は中々イケてるだろう?」
そう言ってニカッと笑う。するとナディアは涙を指で拭い、同じく歯を見せてニッコリと笑う。
「ああ......百点満点中、一億点だ」
ナディアはそう言って、俺の唇にキスをした。彼女の唇は甘く、とても柔らかかった。