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第8話 ガオンハルトをぶちのめす!

 古代魔術(エンシェントソーサリー)【緑】の力は、生命の力! あらゆる生命の力を活性化し、強化し、召喚し、従える!


「オラァーッ! 成長(グローイング)する蔦(アイヴィー)!」


 俺はスカルジャイアントに向かって跳躍。手で地面を掻きえぐるような動作をしつつ、両腕を胸の前で交差。


 すると地面を突き破り、互いに巻き付き合いながら超高速で成長する巨大な蔦(つた)の大群。蔦はスカルジャイアントの両側に出現し、母さんとナディアを食おうとしていた奴の両腕をガッチリと捕らえる。


「ンガッ!」


 大口を開けたまま、スカルジャイアントは動きを止める。


 レベル五千になった俺の跳躍力は凄まじかった。四つん這いになっているとはいえ、それでもニ十メートル近くはあろうスカルジャイアントの頭上を飛び越え、その頭蓋骨を真上から補足する。


「俺の怒りを喰らえ、ガオンハルト!」


 俺は両腕を脇の下に引き、拳に力を溜める。すると俺の両手に荊棘(いばら)が出現し、巻きついていく。やがて荊棘は巨大な拳そのものとなる。


「荊棘(トーン)の拳(ナックル)!」


 そしてまっすぐ頭蓋骨の上に落下しながら、鋼鉄よりも硬いスカルジャイアントを拳の連打で粉砕していく。


「過剰殺戮乱打(オーバーキル・ラッシュ)!」


 俺はスカルジャイアントを構成する骨という骨を粉砕し、ガオンハルトが入っているスカルジャイアントの【核】も拳で粉砕。


「ぷぎゃぁぁーッ!」


 吹っ飛んでいくガオンハルトを見ながら再び跳躍。崩れ始めたスカルジャイアントの両手から、母さんとナディアを救出する。


「ありがとう、ダー君♡」


 母さんは俺の変身した姿を見ても驚かず、すぐに見破った。流石だ。


「き、貴殿は一体......!?」


 ナディアは目をまんまるにしている。だがその頬は真っ赤だ。俺の美しい姿に見惚れてしまったのかも知れない。


 俺はナディアと母さんを平原に下ろし、怪我がない事を確かめてオーク軍を見据えて叫ぶ。


「その辺にガオンハルトが落ちてるだろう! そいつは全身骨折でもはや使い物にならない! さっさと逃げ帰るなら見逃してやる。だが、まだ戦うというなら手加減は出来ない! 全員がレベル百以上となった俺の仲間達が、全力でお前らを叩き潰す! エルフだけではないぞ! この森の木々全てが、貴様らを粉々に粉砕する! 【蠢(ウィグル)く樹木(ツリー)】!」


 俺の号令と共に、森の木々がザワザワとざわめき、根を足にして一斉に立ち上がる。


「ヒィィィーッ!」


「お助けぇーッ!」


 怯えるオーク軍。そして数人が逃げ出したのをきっかけに、一斉に撤退を始める。


「おいお前ら! ガオンハルトもちゃんと持ってけよ! 置いてかれても処分に困るからな!」


 聞こえているのかいないのか、ギャーギャーと喚き散らしながら逃げていくオークとヴォルフ達。だが彼らが去った後にガオンハルトの姿はなかった。ちゃんと持ち帰ってくれたらしい。


 それを見届け、俺は森を振り返る。そして母さんとナディア、側近達、そして樹上にいるエルフ達に向かって叫ぶ。


「聞け! 俺の仲間達よ! 誇り高きエルフ達よ!俺はダーザイン! 君たちと共に戦った、オークだった男! だが今は違う! 俺は今、正真正銘エルフとなった! 髪の色や牙、そして体付きなど、少し異質な姿かも知れないがエルフだ! そして俺と君達の絆が、今オーク軍を退けた! 千のオークと千のヴォルフ、そして禍々しきスカルジャイアント! その全てに我々は勝った! 勝ったのだ!」


 オオオーッと歓声が上がる。そこへすかさず抱きついてくる母さん。


「ダー君! お疲れ様だね! 頑張ったね! すごいね! カッコいいね! 百点満点中の千点あげちゃう!」


 抱きついたまま、ぴょんぴょん跳ねる母さん。柔らかい二つの膨らみが、俺の胸の上で踊るように揺れる。


「ご褒美にキスしてあげる!」


「そんな事言って、本当はシェファがしたいんだろ?」


「あはっ、バレちゃった?」


 舌を出してウインクする母さんが、たまらなく愛おしい。そんな彼女の髪を撫で、そっと唇を重ねる。俺はもう、自分の気持ちは偽らない。母さんが好きだ。異性として愛している。その事は既に伝えてあった。だからこそのキス。恋人のようなキスだ。


 そんな俺達を囲むように集うナディアの側近達。ナディア自身は、何かを言いたそうな表情で俺を見つめている。


「あの......」


「ダーザイン様、すごいです! そのお姿も素敵です♡」


 ナディアが何かを言いかける。だが側近達がキャーキャーと騒ぎ立て、その声は掻き消された。


 俺は側近達に微笑みかけ、その問いや激励に応えた。それからナディアに視線を移し、続きを促すようにジッと見つめた。


 するとナディアは顔を真っ赤にし、俺から目を逸らす。そして咳払いをして、森を振り返った。


「諸君! 本日ここに、新たな英雄が生まれた! 彼は気高きドノナスト王国の血を引く者! オークでありながら、我らエルフの為に命を賭して戦った! そして勝利した! 彼の名を永遠に胸に、そして歴史に刻もう! その名はダーザイン! さぁ諸君! この英雄の名を、共に讃えようではないか!」


 ナディアの演説。そして湧き上がる大歓声。


「ダーザイン! ダーザイン! ダーザイン! ダーザイン! ダーザイン!」


 エルフ達が一斉に声を揃え、俺の名を連呼する。これは夢じゃない。俺は初めて、誰かの役に立てたんだ。誰かを幸せにする事が出来たんだ。


 前世の記憶が戻る前の、残酷で悪逆非道なダーザインはもう死んだ。だが、犯した罪は消えはしない。


 この戦いは、きっと罪を償う事にはならない。死んだ者は戻っては来ない。過去は変えられないのだ。


 だが、未来は変える事が出来る。俺は気付きによって行動を変えた。運命に抗った。それによって自分と母さんだけでなく、エルフ達と村を守る事が出来たんだ。


 なら、これからも俺は守る。愛するこの仲間達を、絶対に守り抜いて見せる。


 俺の名を呼ぶ大歓声の中、ナディアは俺に右手を差し出して来た。俺も右手で握手に答える。


 するとナディアは真っ直ぐに俺を見つめ、微笑んだ。今まで彼女が一度も見せた事がないような、最高の笑みだった。


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