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第6話 オーク軍襲来。

 会議が終了し、すっかり夜になった。だが今日中にやっておかなくてはならない事がまだある。


「ナディア、村のみんなを一箇所に集められるか? 作戦の事を伝えたい」


「ああ、村の中心部に集会用の広場がある。そこに集めよう」


 ナディアと側近達の働きかけで、村人達が広場に集まる。広場の各所には松明が掲げられ、五百人のエルフ達を闇に照らす。


 広場の中央には舞台が設置されている。俺は母さん、ナディアと共に壇上へと駆け上がる。まずはナディアが宣言。俺と母さんを紹介する。


「という訳で、このお二人はドノナスト王国の継承者! シェファール王女とその御子息だ!」


 オオオーッと歓声が上がる。そこですかさず俺が宣言。


「俺がダーザインだ! みんな、俺を信じてついて来て欲しい。今日から俺たちは仲間! 俺はオークだが、母親はエルフ! つまり君達と同じエルフの血が流れている! そして俺の能力は、オークかエルフに限り仲間となった者達のレベルを二倍にする! 俺はエルフを守る為、オーク族を追放された身! 仲間は君達エルフだけだ! 俺は命がけで君達を守る! だから、どうか力を貸して欲しい!」


 再び歓声が上がる。よし、これで村人は全員俺の仲間になった。もれなくレベルは二倍になる。次は母さんの宣言。


「皆さん! ドノナスト王国は、まだ滅びてなどいません。一度はオーク軍の襲撃でバラバラになり、皆さんは各地で村を作って生き延びました。私も、恥を忍んでオーク族の中で子を産み、今日まで生きて来ました。ほとんどの村は滅びてしまいましたが、ここに今日、誇り高きエルフの精鋭達が集まった! これこそが王国! ここにドノナスト王国は確かに存在するのです!」


 ワァーッと歓声。歓喜の声。中には泣き出すエルフ達もいた。母さんの後に、再び俺が続ける。


「明日の午後、オーク軍の襲撃がある! だが恐れる事はない! 君達は強い! 弓の腕は超一流だ! 森の南西入り口、樹上に待機しオーク軍を迎え撃て! 敵の数は千! ヴォルフに騎乗している! だが君達ならば、確実に射抜けるだろう! ヴォルフを撃って足を止め、オークを仕留めよ! 敵は火矢で攻撃して来るが案ずるな! 我が母、シェファールの精霊魔術で、水の障壁を張る! 君達の矢は敵へ届くが、敵の矢は決して届かない!」


 オオオーッ! と雄叫び。最後にナディアが締める。


「ダーザイン殿が先頭に立ち、私とミント達六人を従えて敵将を討つ! それで戦は終わる! 今日は決戦に備え、英気を養え! では解散!」


 ナディアがパンッと手を打ち、集会はお開きとなった。俺と母さんはナディアの家に戻り、そのまま泊まらせてもらう事になった。ナディアが案内で、今夜泊まる部屋の前に立つ。


「すまないな、ナディア。寝床まで提供してもらって」


「あなたはいずれ、ドノナスト王国を背負って立つお方。この程度のもてなしなど、当然の事だ。むしろ足りないくらいだろう。本来であれば、私や側近達も貴殿の部屋にて奉仕するべきかも知れんが......先刻申し上げた通り我らはオークの顔が嫌いで受け付けぬ。無理。すまぬな」


 サラッと俺の容姿をディスるナディア。傷口に塩やわさび、辛子を塗り込んで来る。


「い、いいんだよ。大丈夫。俺にはシェファがいるから」


 そう言って母さんを抱き寄せる。


「そうよ、ダー君には私がついてるわ!」


 そう言ってウインクする母さん。可愛すぎる。今すぐ押し倒したいくらいだ。だが必死にそれを堪え、ナディアに「おやすみ」と告げて部屋へ。


 部屋に入るなり、母さんを抱きしめる。この気持ち、抑える事など出来はしない。


 母さんは優しく、俺を抱きしめ返してくれた。


 ◆◆◆


 翌朝。早朝から会議室に集まり、ナディアや側近達と入念な打ち合わせをする。それから村人を再び広場に集め、全員が森の南西側に移動。入り口付近にキャンプを張る。


 交代で樹上に登り、オーク軍の進撃を見張る。手の空いているものは矢を調達したり、射撃訓練をしたりだ。俺やナディア達は鎧の具合を見たり、剣で模擬戦を行っていた。


 そして午後になる頃。見張りをしていたエルフが叫ぶ。


「来ました! オーク軍です!」


 周囲に緊張が走る。待機していたエルフ達が、一斉に樹上へと上がって行く。


「なっ、何あれぇ!」


「きゃああーっ!」


 エルフ達から悲鳴が上がる。俺も目を凝らして南西の方角を見た。そして悲鳴の原因がなんなのかを、すぐに察する。


「ガオンハルトめ......! 一体何人のエルフを犠牲にしやがった......!」


 オーク軍の中心に位置するのは、遠くからでも一目でわかる巨大な姿。生贄を捧げる事で生まれる呪い。死者の骨で組み上げた、骸骨の巨人。スカルジャイアントだ。


「ダー君! あれはいけない! 凄まじい怨念を身に纏っているわ! 並大抵の力では倒せない! きっと、私や勇者エステルでさえも......! すぐに森を捨てて逃げるべきよ!」


 母さんが怯えている。あの化け物みたいな強さの母さんが。


 だが、おそらく逃げても無駄だ。ガオンハルトは執念深い男。どこまでも追いかけて来るだろう。


「いや、迎え撃つ。シェファは予定通り、水の障壁を森の入り口全体に張ってくれ。大丈夫だ、俺を信じろ! 行くぞナディア! みんなついて来い!」


「ああ!」


「はい!」


 母さんを森に残し、俺とナディア、側近の戦士達は馬に騎乗。森の外へ出て剣を構える。地響きを鳴らしながら平原を進んで来るオーク軍とスカルジャイアント。


 正直、勝てるかどうかは賭けだ。圧倒的に不利な状況。勝率は、かなり低いかも知れない。俺は選択を間違えたのかも知れない。体が震え始める。


 だが......これは武者震い。戦う事への喜び。悪逆非道だった俺が、今「善」なる者達の為に戦おうとしている。


 それはとても嬉しい事だった。何故か言い知れぬ勇気と自信が、俺の中に満ち溢れていた。









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