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第4話 エルフの村【フォレス】と母さんの秘密。

 時刻は夕刻。日が落ち始めている。休憩してすっかり体力を回復した俺達は、これよりエルフの村へと出発する。


「さぁ、行きましょうダー君。私の腰に掴まって」


「あ、うん」


 俺は背後から母さんの腰を抱き締めた。くぅ、柔らかい......! それにとてもいい匂いがする。俺は思わず、母さんの肩に顔をうずめて髪の匂いを嗅ぎたい衝動に駆られた。


「それじゃ、行くわよ」


「ああ、頼むよ」


 母さんが両手を広げると、周囲に風が巻き起こる。最初はそよ風程度だった風が徐々に勢いを増し、最後には突風となって俺達の体を巻き上げていく。これは風の精霊魔術らしい。


「しゅわっ!」


 母さんは気合一閃、両腕を伸ばして水平飛行へと移行していく。俺は強風に目を閉じかけながらも、必死に母さんの体にしがみつく。振り落とされまいと、マジで必死だ。


 ん? あれ? 母さんの華奢な腰が、急にボリューミーになったような......。


「ダー君、そこ違うっ......! おっぱい掴んじゃってるよぉっ......!」


「えっ、マジ!? ごめん!」


 決してわざとではないのだが......これもオークのドスケベ本能のなせる技。母さんの体から振り落とされないように、慎重に指を下へずらしていく。


「あ、あんっ! そこらめぇッ! ちょっとダー君たらぁッ! お母さん、力入んないよぉッ!」


「ご、ごめん! わざとじゃないんだ!」


 そんなハプニングも交えつつ、エルフの村へと到着した俺達。


 エルフは森の民。森の中に家を建てる。つまりエルフの村を焼き討ちすると言うことは、森も焼いてしまうと言う事だった。そんな惨状になるのは絶対に避けたい。


「村長の家はどこかな」


「きっとあの家だわ」


 母さんが一軒の家を指差す。確かにその家は一際立派だった。


 村長の家に向かって歩く。すると樹上から気配がした。気配は一つでは無い。どうやら見張られているようだ。ギリリ、と弓を引く音が聞こえる。


「そこで止まれ、オーク!」


 左斜め前方の樹上から声がし、そこから一人のエルフ女性が跳躍。空中でクルリと一回転して俺達の前に着地した。


 そのエルフ女性は長身で、軽鎧を身につけ細剣を構えていた。金色の長髪を後ろで束ね、凛とした強い眼差し。切長の目と薄い唇。瞳は緑色のように見える。


「貴様、なんの目的でここに来た! その鎧には見覚えがある。オークの総大将、オークロードだろう! 次の襲撃の下見にでも来たか!」


 女性はややハスキーな声。強い口調で言い放つ。


「お待ち下さい! 私はオーク一族を追放されし者! 隣にいるのは私の母、エルフのシェファール! あなた達をオークの襲撃から守る為にやって来ました!」


 俺は叫び、即座に膝をついた。母さんもそれに倣う。


「そんな言葉が信じられるか! 今日の襲撃に貴様もいた! 忘れたとは言わせんぞ! 勇者エステル殿のおかげで難を逃れたが、我らを攫いに来たのであろう! 許しはせぬ! 許しはせぬぞぉぉッ!」


 くっ......! やはりそう簡単には信じてもらえないか......!


「聞き分けなさい、ナディア! 私の息子は、嘘などついたりはしません!」


 突然母さんが立ち上がり、女性を一喝した。彼女を知っているのだろうか。


「なっ! あなたは何者だ! 何故我が名を知っている!」


 エルフ女性......ナディアに動揺が走る。


「あなたが生まれたばかりの赤ちゃんの時から知っているわよ。百年前の話ね」


「シェファール......まさか、あなたは! いや、あなた様は!」


 ナディアの声は震えていた。どうやら心あたりがあるようだ。


「シェファール・ファティマ・ドノナスト。それが私のフルネームです」


 母さんは毅然と言い放つ。周囲にざわめきが起こる。樹上で弓を構えているエルフ達も動揺しているようだ。


「な、なんと! やはりそうでしたか! 皆のもの、地上へ降りよ! そしてひざまずけ! このお方は失われし我らエルフの王国、ドノナスト王国のシェファール王女だ!」


「ははーっ!」


 樹上からエルフが一斉に降りて来る。俺と母さんの周囲を取り囲むようにひざまずく彼らの数は、ざっと見たところ二十人程だ。


 それにしても母さんがエルフの王女様だったとは。俺が一番驚いた。


「このオーク、ダーザインは私の息子。オーク王バリハロスとの間に出来た子です。悪逆非道なオークの中で、唯一【善】の心を持っています。以前は他のオークと同様に残酷でしたが、勇者エステルとの戦いの中で心が目覚めたようです。どうか、彼の言葉を信じてください。お願いします」


 そう言って再び膝をつく母さん。その様子に慌てるナディア達。


「おやめ下さいシェファール王女! 膝をつくべきは私達の方なのですから!」


 ナディアは立ち上がって母さんに駆け寄り、彼女を案ずるように膝をついてその手を取った。


「では、信じてくださるのですね」


「もちろんです。あなたの御子息と言う事は、ドノナスト王家の血も引いていると言う事。信じない理由などありません。ダーザイン殿、今まで無礼な態度を取ってすまなかった。私はこの村【フォレス】の長、ナディア・フォレス。夕食でも一緒にいかがかな」


 ナディアはそう言って立ち上がり、俺に手を差し伸べた。俺はその手をガッチリと掴み「頂こう」と答えた。


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